今日は腎臓についてもう少し深掘りして書いてみたいと思います。蒼野は脳外科医ですので、残念ながら医師国家試験レベルの腎臓の知識(忘れてるからもっと少ないかも…)しかありません。今までの認識は、腎臓は血液を濾過して、老廃物を排出するためにおしっこを作る臓器というものでした。腎臓が悪くなり濾過できなくなれば、身体に老廃物や毒が溜まり、健康を害するというイメージです。
しかし調べてみると、寿命を左右するような非常に重要な臓器でした。腎臓は他の臓器のメッセージやや血液の内容をキャッチし、腎臓の糸球体で濾過した原尿が尿細管を通る時に、身体が必要な物質を再吸収したり、ホルモンを分泌して血圧を調節したり、他の臓器に働きかけたりしています。
マラソンや水泳選手などが行う高地トレーニングにも、腎臓が関与しています。酸素の薄い高地でトレーニングしていると、最初のうち低かった血液中の酸素飽和度が上昇します。体内の酸素が不足すると腎臓からエリスロポエチンが分泌され、命令を受けた骨髄で赤血球が増えることで酸素濃度を上げることができます。環境に合わせて腎臓がコントロールを行い、平地に戻るとそれまで以上のパフォーマンスが得られるのです。
腎臓の本当の役割は、身体や各臓器が必要な血液の成分や血圧を厳格に調整する「体内環境の管理者」だったのです。人体のネットワークの中心にあり、腎臓が悪くなれば、全身の臓器にも悪影響が及びますし、他の臓器の異常が腎臓に影響します。腎臓は健康長寿の鍵を握る臓器の一つなのです。
腎臓が悪くなれば、命に関わります。数時間~数日の間に急激に腎機能が低下するAKI(急性腎障害)は入院患者全体の2%に合併し、ICUに入るような重症患者の場合には60%以上の患者に認められる病態です。尿量が減少し、むくみが出て、食欲が落ち、全身倦怠感が認められます。AKIが進行してしまうと10~20%は死亡する可能性がある恐ろしい病態です。
早期に診断できて治療をすれば、改善することもありますが、腎臓が悪くなると、他の臓器の血液環境が悪化するため、多くの臓器に障害がでたり、炎症が起きたりします。結果的にあちこちの臓器が全部悪くなると多臓器不全という状態となり、お手上げになってしまうのです。
蒼野も何人も多臓器不全という死因を、死亡診断書に書いたことがあります。決して稀な疾患ではありません。しかもAKI自体にはほとんど自覚症状が無いので恐ろしいのです。多臓器不全で亡くなる患者様の中には、AKIが関係している人が大勢います。ヨーロッパでは毎年20万人が亡くなるそうです。
イギリスで腎臓に注目した先進医療を行う病院では、AKIの早期警告システムを開発し、血液データや尿データ、バイタルサインなどから、初期で軽度のAKIを検出し、直ちに治療を始めるそうです。まずやることは脱水を改善し、薬を止めることです。
蒼野の経験でも、入院時に血液データが正常でも、造影剤を使った検査で急に腎臓が悪くなった人がいた事を思い出しました。心臓や脳のように目立つ臓器ではありませんが、腎臓は毎日我々の体内環境を保つ為に、排出と再吸収という重労働を続けています。
吸収という作業はミトコンドリアに大きな負担がかかります。加齢と共に疲れてしまい、機能低下しやすい臓器なのです。健康長寿のためには、余計な負担を掛けない生活を、元気なうちから心がけておく必要があります。へとへとになったところで、入院で薬が増えたりすると、一気にAKIが進行するという事です。
腎臓は沈黙の臓器です。症状がわかりにくく、気がついたときには透析が必要になったりすることもあるのです。腎臓疾患は加齢による病気という一面があり、腎臓を労りながら生活してゆくことが、我々の寿命を左右するのだということを知っておく必要があります。腎臓が老化と寿命の鍵を握っているというのが最近の新しい考え方なのです。
腎臓が悪い日本人は1330万人も居ることが分かっています。加齢とともに増加し、70代では3人に1人、80代では2人に1人が、慢性腎臓病と診断されています。これは時代と共に増加しています。軽いAKIを繰り返すことで、腎臓のダメージが蓄積したり、重症のAKIで一気に腎臓が悪くなるというケースも多いのです。健康長寿のためには腎臓を長持ちさせる必要があるのです
腎臓が悪くなってきている時の症状としては、むくみが酷くなり指輪や靴がキツイ、全身倦怠感、食欲不振、息切れ、貧血や立ちくらみ、汗が出にくいなどがあります。尿の匂いがキツくなったり、色がおかしい、頻尿や多尿、乏尿などもサインの一つです。腎臓内科での診察をお勧めします。
さてどうやったら腎臓を労ることができるのでしょうか? 腎臓に負荷をなるべく与えない生活習慣が重要となります。まず近年注目されているのはリンです。腎機能が低下し、リンの排泄が滞ると老化が進みます。リンが正常範囲にあっても血中リン濃度が高い人は低い人に比べて死亡率が7割増加することが判明しています。リンは加工食品にたくさん含まれています。外食やスーパー、コンビニなどの料理には入っていることが多いので、理想は自炊になります。
腎臓の負担を軽減する食べ物は、現代人に不足していると言われている食物繊維です。食物繊維の摂取で死亡率が大きく低下しているという研究があります。1日の食物繊維20g以上を目指しましょう。目安は野菜や豆、キノコ、海藻や果物で1日350g、両手いっぱいが目安です。量的にそれほど取れないということであれば、煮野菜や汁の具などにすれば、かさが減るため摂りやすくなります。
腎機能の低下は腎臓の老化とリンクしています。抗酸化物質や玄米などの未精白の穀物なども腎機能の温存に効果がありますので、やはり野菜や果物をしっかり摂るというのは重要なことになりますね!
脱水は腎臓の大敵です。大人に必要な水分量は体重×40ml/日。1Lは食事に入っているため1日1~2Lは飲む必要があります。カフェインやアルコールは利尿作用が強いため、水分量には入れないでください。水を飲む習慣をつけておくことは本当に重要です。
腎臓が壊れる食べ物でできるだけ避けましょう。具体的には糖化につながる血糖スパイクを起こすもの(甘い飲み物、菓子パン、和菓子、洋菓子)やリンや塩分が多く添加物も多い加工食品(カップラーメンやスナック、インスタント食品、ファーストフード、加工肉、外食)、脂肪分やカロリーが多く腎臓の老化を進めるもの(肉の油、揚げ物、ラーメン)などになります。健康な人であっても、月のうち数回に留めておくのが安心です。
寝る直前の夕食や夜食、朝昼に比べて夜ガッツリ食べる習慣。早食いや食べ過ぎ、濃い味を好む、間食が多い、外食が多い、なども腎臓に悪い食べ方になります。特に毎日の飲酒は要注意です。もちろんタバコはNGです。また痛み止めを毎日のむと腎臓はダメージを受けます。薬が多いことも大きなリスクになります。
運動も重要です。仮に慢性腎臓病になっていてもウォーキングなどを適度に行うことで腎機能が改善されることが分かってきています。楽しんで続けられる運動の習慣を、生活の一部にしてしまいましょう。
加齢と共に誰もが腎機能は低下してゆくため、腎臓に優しい生活習慣を少しでも進めていくことが重要です。蒼野も全部できている訳ではありませんが、意識してゆきたいと思っています。腎臓に良い生活は、他の病気も予防し、老化を抑え、健康に良い生活だということにお気づきだと思います。
自分の身体は自分で守るしか無いのです! 蒼野も自分の腎臓を意識して、大切に可愛がってあげたいと思います。
参照ページ: AKI診療ガイドライン 2016 https://cdn.jsn.or.jp/guideline/pdf/419-533.pdf
参考書籍: 眠れなくなるほど面白い 図解 腎臓の話 上月 正博
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