腎障害と蛋白制限!

2022/04/05

 今日は、蒼野が尊敬する、北里研究所病院 糖尿病センター長である、ロカボ食提唱でも有名な山田 悟先生の記事の内容を、紹介したいと思います。今までの常識を覆す、「蛋白質摂取こそが腎機能を保護する」という、「蒼野が今まで習ってきたのは何だったの?」というデータです。

 今までの常識では、原因がなんであれ、慢性腎臓病(CKD)の発症、予防には蛋白質制限が必要であるとされてきました。蒼野も過去のブログに書いたこともあると思います。ごめんなさい!これは教科書レベルで指導されてきたことで、日本腎臓学会のガイドライン2018にも、「蛋白質質摂取量を制限することを推奨する」と書かれています。

 世界での研究が進むにつれて、この指針は少しずつトーンダウンしてきており、最近では「たんぱく質摂取制限は腎保護のために有効である可能性はあるが、エビデンスレベルは低く、今後の臨床試験の集積が必要である」とか、2020年には「CKDを合併する2型糖尿病患者には0.8g/kgの蛋白質制限が提案(推奨ではなく!)する」となっています。

 要するに、「蛋白質摂取量は腎機能の経時変化に対して無関係じゃないの」と言うデータが多くなってきていて、特に高齢者では、蛋白摂取が少ないと、筋肉が落ちて、サルコペニア、フレイルのリスクが上がるため、減らさない方が良い、1.6g/kg/日くらいは摂った方が良いかもねと言う事に変化してきている様なのです。

 しかし2022年に発表された、オランダの2型糖尿病患者433名のコホート研究の結果が、衝撃でした。尿中の窒素や尿中蛋白から推定する蛋白質摂取量を、それぞれの患者で測定し、腎機能が悪化するかどうかを観察した研究です。

 フォロー出来た433名のうち382名(年齢63±9歳、BMI 32.8±5.8、HbA1c 7.4±1.1%、蛋白摂取量 1.22±0.33g/kg/日)を平均で6年間フォローしています。この期間中に53例(13.9%)の腎機能が悪化しました。悪化の因子を検討したところ、蛋白質摂取は多い方が腎機能保護に関与していることが分かったのです。

 蛋白質摂取量と腎機能の悪化に関して、結果に影響する因子を調整してみても結果は変わらず、元々CKDがあった人での検討でも変わりませんでした。蛋白摂取量が1.08g/kg/日を下回ると、腎機能の悪化のリスクが有意に上昇し、1.91g/kg/日を超えると、腎機能の悪化のリスクが有意に低下していました。

 蛋白質摂取が腎機能保護に関わるというこの研究による仮説は、古くからの蛋白質摂取が腎機能を悪化させるという仮説とは完全に真逆です。この研究者たちによれば、この様な結果は過去の大きな研究でも、認められており、ガイドラインは早急に見直しされるべきであると主張しています。

 「CKDを合併する2型糖尿病患者には0.8g/kgの蛋白質制限が提案(推奨ではなく!)する」と言う提案の根拠は、世界保健機関(WHO)が健常者に対して0.83g/kg/日を推奨しているからとされており、なんらかの科学的根拠〔ランダム比較試験(RCT)など〕に基づいているわけではない様なのです。

 0.83g/kg/日と言うこのWHOの推奨量は、健康な人の集団で、97.5%の必要量を満たす、最低限の量という事で、不足しないギリギリの値という事です。上限に関しては、WHOは決めておらず、2倍の1.66g/kg/日は安全量、3~4倍の2.49~3.32g/kg/日は、注意するように勧告されているのみです。

 それでは何故、今まで腎機能障害に対して、蛋白制限食が推奨されてきたのでしょうか? 蛋白質制限は、腎臓の糸球体の濾過機能が低下している場合には、糸球体負荷の軽減を行うと良いという考え方からの様です。腎臓を部分切除し、腎機能を低下させたラットに、エネルギー比率6%の超低蛋白質食を与えると、腎機能の悪化が予防されたというデータがある様です。

 しかし臨床的には、ヒトにおいて、低蛋白食が、腎機能を上昇させるデータは再現されておらず、中には蛋白質制限をすることで、悪化したと解釈できる介入試験が存在しています。ランダム化比較試験では、蛋白質制限食は3年ほどの介入期間で末期腎不全に至るまでの時間を遅延させることはできず、10年フォローしても同様でした。しかも、極端な蛋白質制限食では死亡率の上昇まで認められています。

 今回発表された論文の結果は、ヒトにおいて、蛋白質を摂らないと、腎機能が悪化する、沢山摂ると悪化しなくなるというものです。しかも1.08g/kg/日以下での悪化は、BMI 25を標準体重としたデータで、日本人の標準体重であるBMI22に換算すると、1.23g/kg/日以下で悪くなる事になります。

 現在の日本人の平均的な蛋白質摂取量(2019年)は、男性30~40歳代で1.19(g/kg/日 以下省略)、男性50~60歳代1.33、女性30~40歳代1.23、女性50~60歳代1.36です。BMI 22を標準体重として計算すると1.26、1.44、1.21、1.42g/kg/日となります。

 年齢を平均して考えると、20歳以上の男性で1.17、20歳以上の女性で1.24であり、BMI 22を標準体重として計算すると、男性で1.27、女性でも1.27となります。腎機能が悪化する1.23g/kg/日以下しか摂っていない人は、日本人の大人で半数近くいることになるのです。

 この論文は観察研究ですので、高いエビデンスがある訳ではないのですが、過去のランダム化比較試験で、死亡率の上昇なども示唆された蛋白質制限食は、少なくとも慢性腎臓病の患者様には、害になる可能性があるという事です。大きなメリットがあるデータが無い現時点では、お勧めするべきではない食事法になると思われます。

 山田先生、本当に勉強になりました。ありがとうございます! 蒼野も医療業界でもう40年近く過ごしているのですが、しばしば、昨日までは常識だったことが、覆る様な事を経験してきました。どこまで行っても本当に正しいことは分からないのかも知れませんね。

 特に健康な人が健康を維持する方法や、何を食べたら良いかなどは、ランダム化比較試験は難しいため、これからも闇の中にあると思います。食品業界の情報なども錯綜して、何が正しいかはとても分かりにくくなっています。

 蒼野が信じているのは、人類が元々のDNAで、医療の無かった長い年月も、自然の治癒力で、今まで生き残ってきているという事です。元々食べていたものを食べて、現代社会に邪魔されずに、身体の声をちゃんと聞くことが出来れば、健康長寿、ピンピンコロリが達成できるように思います。

 元気な方々は、最低1.5g/kg/日以上、出来れば2.0g/kg/日の蛋白摂取をして欲しいと思う蒼野でした。蒼野もプロテイン増やします!!

参考文献:High-Normal Protein Intake Is Not Associated With Faster Renal Function Deterioration in Patients With Type 2 Diabetes: A Prospective Analysis in the DIALECT Cohort. ;  Dabetes Care. 2022 Jan 1;45(1):35-41.

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