お正月は3年ぶりに家族みんなで里帰りした蒼野です。久しぶりに会ってみると、90歳になる母親は膝が痛いと言って、一緒に初詣に行けなくなっていました。代わりに行ってきてということで近所の長い階段のある天満宮にお参りしてきました。
膝を診てみると、湿布を貼っており、剥がしてみると結構腫れています。変形性膝関節症で、関節液が増えている様子でした。できる事をしようと思い、留置鍼を痛みのツボに貼って帰りましたが、他に何か良い方法が無いかを調べてみることにしました。今日は変形性膝関節症のお話です。
2016年の論文を見ると、日本の変形性膝関節症患者数は2530万人も居られ、強い自覚症状がある人は800万人居られるそうです。痛みがあれば動きたくなくなり、運動しないことで加速度的に様々な病気が進行しやすくなるため、放置したく無い病気です。
痛みがあると、消炎鎮痛剤を飲んだり、湿布を貼ったりするのが一般的ですが、これらは対症療法に過ぎません。確かに一時的には症状は軽くなると思いますが、根本治療には繋がらない方法だと思います。根本治療に近づくには原因の同定が重要です。
最も関与していると言われる原因は加齢によるものです。長年の繰り返す外力によって、膝関節の軟骨や骨にダメージが蓄積してゆくと、関節のクッションと潤滑材の役割をする軟骨が摩耗し、骨と骨の間隙が狭くなってゆくのが、変形性膝関節症の始まりと言われています。
クッションが無くなって進行してくると、骨自体への負担が高まり、反応性に骨が異常増殖し、骨棘ができてくるのも特徴です。また加齢による膝周りの筋肉の衰えにより、筋肉が負担していた力が、骨や軟骨に集中したり、関節が緩んで、1箇所に強い力が掛かったりするようになります。骨膜には神経があるため、強い力が掛かると痛みが出てきます。
痛みが出ると動けなくなることで、さらに筋力低下が進行します。損傷部には炎症が起こり、炎症を抑えるために関節液の分泌が多くなり、いわゆる膝に水が貯まるという状態になります。
関節液の濃度が薄くなると、粘度や滑りが悪くなり、膝の動きは悪くなります。周囲の筋肉は硬くなって関節をサポートしようとするために、動かすと筋肉の痛みも出てくるのです。
二つ目の要素はホルモンです。2530万人のうち女性患者は1670万人。患者の66%が女性です。一つは筋肉を作るテストステロンが少ないことと、閉経後の女性はエストロゲンも低下することです。エストロゲンは軟骨の形成に必要ですし、低下すると骨粗鬆症リスクも増大するため、筋肉も軟骨も減りやすく、骨も変形しやすい閉経後の女性に、変形性膝関節症が多くなると考えられています。
三つ目の要素は体重増加です。膝にかかる負担は、歩く時には体重の約3倍、階段昇降時には約7倍になります。体重が10kg増えれば、膝に30kgの負荷が掛かり、階段を登ろうとすれば70kgの負荷が掛かる計算になります。最近食欲のない母親は少し痩せたそうですが、体重を支える筋肉も減ってきているように思います。
物理的な負荷だけではなく、変形性膝関節症は全身の慢性炎症を反映しているとの考え方も、出てきているようです。メタボのリスクが多いほど変形性膝関節症になりやすいことが分かっています。メタボリスクが三つあると、変形性膝関節症リスクは10倍になります1)。
四つ目の要素としては、O脚などの元々の脚の形です。O脚では膝の内側に体重負荷が集中するため、軟骨や骨の損傷・変形を生じやすく、変形性膝関節症の原因となります。O脚では下肢全体に横揺れが出やすく、それがさらに膝に負担をかけます。膝の内側が摩耗するとさらにO脚の程度が強くなるため、悪循環になりやすいのです。
五つ目の要素は膝関節の使い過ぎです。しゃがむ姿勢の多い農業や、重い荷物を運ぶ運送業、建設業、長時間立ちっぱなしの仕事などは膝関節に負担がかかりやすく、またサッカーやテニス激しいスポーツも膝への負担が大きく、変形性膝関節症リスクが高くなります。
最後は遺伝です。これはどうしようもありませんが、変形性膝関節症の発症に関わる遺伝子の存在が明らかになっており、これを持つ人は変形性膝関節症の発症リスクが1.6倍になります。
蒼野は変形性膝関節症の治療はした経験がありませんので、今回は予防について考えたいと思います。簡単には太らない事、毎日動いて筋肉を落とさない事、O脚などがある場合には靴で補正することなどでしょうか?
膝が痛い人の靴は靴底が薄く(1cm程度)、フラット(かかと部分が高くないもの)で、踵がしっかり保護されるヒールカウンターがあり、踵側の靴底と中敷の間に、シャンク(靴の背骨)と呼ばれるしっかりした金属が入っていて、適切な位置で曲がり、そしてよじれない靴が良いとされています。おすすめの靴や、中敷は沢山あるようなので、膝が痛い人はフィッターに合わせてもらって選ぶと良いと思います。
サプリとしてはグルコサミンやコンドロイチンが、軟骨の材料になるとして有名なのですが、痛みのある変形性膝関節症患者1583人を五つの群、1=毎日グルコサミンを投与、2=毎日コンドロイチンを投与、3=グルコサミンとコンドロイチンの両方を投与、4=鎮痛薬を毎日投与、5=プラセボ群で6ヶ月観察したところ、単独投与ではプラセボと有意差は無く、併用群は、中等度から重度の膝の痛みに対して有意に痛みが抑えられていました2)。
ベースの栄養として最近注目されているものは、ビタミンDです。骨を作るだけの作用ではなく、抗炎症作用があります。蒼野は、全身はすべて繋がっているので、全身の慢性炎症が、膝に影響したものが変形性膝関節症であるという考え方に賛同します。ベースのビタミンDは高めに保つ必要があると思います。
また納豆に多く含まれるビタミンKですが、組織のカルシウム沈着を抑える作用があります。ビタミンKが、膝関節の石灰化を防ぐMGPというタンパク質の合成に関与するため、この栄養素をしっかり摂ることで、動脈硬化(血管壁のカルシウム沈着)や関節の骨棘形成などを抑えてゆくことは重要と考えます。納豆と一緒に、膝の炎症を抑えてくれるスルフォラファンを多く含む、ブロッコリースプラウトを摂るのも良いと思います。
筋肉を保つために、タンパク質と運動は本当に重要です。筋持久力を高め、筋疲労の回復にも有効なカルノシンを多く含む鶏胸肉は摂って欲しいタンパク質です。運動は痛みとの兼ね合いにはなりますが、痛みがある場合には、座ったままでの膝の曲げ伸ばしや、臥位や側臥位からの足上げやゆっくり胸の方に引き寄せるストレッチ、椅子からの立ち上がりなどが出来るようになると良いですね!
またしばらくは実家に帰れませんが、今日調べたことを少しずつ母親に伝えようと思っている蒼野でした!
参考文献:
1)総説 ロコモティブシンドローム(運動器症候群) 中村耕三 日老医誌 2012;49:393―40
2)Glucosamine, Chondroitin Sulfate, and the Two in Combination for Painful Knee Osteoarthritis. ; N. Engl. J. Med 354;(8) 2006 795-808
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