「小太りが長生き」の意味!

2022/08/04

 今日は現代人に目の敵にされているとも言える体脂肪について考えてみたいと思います。皆様は体脂肪は必要無いものであり、脂肪を削ったキレッキレの身体が素晴らしいと思われていますでしょうか? 確かにカッコいいので、蒼野も憧れがあります。

 寿命を延ばすオートファジーやサーチュイン遺伝子の活性化に最も有効で、老化を遅らせる効果がある方法は、カロリー制限です。有名なアカゲザルやマウスの実験でも実証されていますが、別の側面があるとのことです。カロリー制限したマウスやサルがウイルスに感染すると、あっという間にんでしまうようなのです。

 そのまま人間に当てはまるかどうかは、まだ検証が必要ですが、痩せて脂肪が無くなると、病原体に対する抵抗性が相当落ちる可能性があることは頭に置いておいても良いと思います。昔から『小太りの方が長生きする』ということもよく言われていますよね! 皆様も聞いた事があるかもしれません。

 蒼野は健診の人などにも、中年太りでメタボリックになってゆくと、ドミノ倒しのように、様々な生活習慣病が出てきて、健康寿命が短くなってしまいますよと指導しているのですが、この小太り長生き説は、それに矛盾するような気がして、ずっと気になっていました。

 データで見ると、日本人男性16万人、女性19万人ものデータを集計したところ、BMIは女性で22~23程度、男性25~26くらいが最も死亡率が低くなります1)。もちろんBMIが30を超えてくると死亡率は上昇しますが、14~19程度のかなり痩せている人の死亡率の方が、むしろ高いのです。

 大手術を受けた後の予後も、脂肪が少し多めの人の方が、合併症が低いですし、透析になる人でも予後が良いことが経験的に分かっているのです。筋肉モリモリの体操選手などは、体脂肪を削ぎ落としていると、年中風邪をひいているといった話も聞いた事があります。

 ここで少し脂肪を擁護してみたいと思います。お尻の脂肪は座った時にはクッションとなります。また寒い時期には防寒具として作用しています。遭難して食料が無い状態の時も、脂肪の無い人よりも、適度に持っている人が生き残る確率が上がります。

 また脂肪組織は内分泌器官であり、生理活性物質(アディポサイトカイン)を分泌します。皮下脂肪から分泌されるアディポネクチンやレプチンは善玉の物質で、中性脂肪の燃焼を促進し、インスリンの作用増強、血管拡張により血糖・血圧は低下します。組織の修復、炎症性物質の抑制により動脈硬化の進行を予防します。食欲も抑えてくれるのです。

 内臓脂肪から分泌される物質は悪玉で、腫瘍増殖を促進するTNF-αは、インスリン抵抗性を促し、PAI-1は血栓誘発から脳梗塞、心筋梗塞の原因になり得ます。またアンギオテンシノーゲンは血圧を上昇します。

 脂肪組織は酸化されやすいので、活性酸素が発生した時に、真っ先に酸化され、大切な遺伝子やたんぱく質の身代わりとなることで、酸化から守る作用があります。寿命に関しては、脂肪組織がeNAMPTという物質を分泌し、これが身体の中でNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)という補酵素を作り出すのに必要なのです。

 NADは視床下部でサーチュイン遺伝子の働きを活性化し、DNAの損傷などの修復を早めてくれます。NADに体内で変わるサプリがNMNで、若返りサプリとして、現在注目を集めているものとなります。ただeNAMPTの分泌や、体内でのNADの産生は加齢と共に下がってゆきます。

 歳を取った時に、ある程度の皮下脂肪は残しておいた方が有利だと言われるのはこういう作用があるからなのでしょう。百寿者と脂肪の関係についての研究成果では、確かに極端に太った人はいません。100歳になってから太る人は皆無なのです。この世代の大きな問題はフレイルです。

 人の人生は季節に例える事ができます。春に生まれてスクスクと育ち、夏に大人となって活動的に生きる。秋は食べ物が豊富で過ごしやすく、中年太りにもなりやすく、たっぷりと脂肪を溜め込む人も出てきます。徐々に高齢となり冬を迎えます。この時期には、食欲が落ちてエネルギーが無くなり、草木が枯れてゆくように、フレイルになってゆく人が多くなるのです。

 冬になる前に、少し脂肪としてエネルギーを溜め込み、免疫力も保っている人が、長寿を保つということは当たり前なのかもしれませんね。『小太りが長生き』というのはこのことを反映しているもののようです。

 研究ではBMIの数値のみで検討されていますが、筋肉量をしっかり残している人もBMIは高いです。脂肪も内臓脂肪と皮下脂肪では大きく異なります。高齢で筋肉量が多い人ほど、元気で長生きするというデータもあります。冬になる前に、ある程度の脂肪と、筋肉を残してゆくことが、健康長寿につながるということが見えてきますね!

 アンチエイジングに良いとされる、低カロリーや、断食も、年齢によって使い方を考えてゆく必要がありそうです。70歳前後を境として、メタボ予防、生活習慣病予防という健康指針を、フレイル予防に切り替え、食事も変えてゆくということが必要になりそうです。

 具体的には、現代の70代はまだまだ元気な人も多いので、朝食を最もカロリーの高い食事にし、20時以降は食べないというのが健康的であるようです。ドイツと中国には、「朝食は皇帝のように、昼食は王様のように、夕食は物乞いのように食べろ(朝食は豪華に食べ、昼食は腹いっぱい食べ、夕食は少なく食べる)」という意味のことわざがあるそうです。

 ワシントン大学教授で、老化機構研究の大家である今井眞一郎先生によれば、人間というのは、日の出と共に起きて、しっかりと栄養を摂り、体を動かして働き、夕食を軽めに食べて日が暮れると寝るという生活が、リズムを整え老化を遅らせる方向に働くので、先人の教えに学ぶと良いとおっしゃられています。

 蒼野は先日のSPORTEC2022で、タニタのブースで最新の体組成計で測定した所、体脂肪率は11%、BMIは22.2でした。毎日16時間断食を行い、1万歩以上歩いていることの結果だと思います。現時点では健康上で困っているのは、事故の後遺症の複視だけです。

 日本人のビッグデータが示す死亡率最低のBMI 25~26.9を考えると、70歳に向けて、筋トレによる貯筋+もう少し皮下脂肪を増やしても良いのかもしれないと思い始めました。食欲が低下して、太れなくなる、超高齢期の準備を少しずつしておくのが良さそうですね1

 いつも節制するのではなく、時にはしっかりカロリーを摂って楽しんでゆくこともできるのだなと思い、ニンマリしている蒼野でした!

参考文献:

1)Body mass index and mortality from all causes and major causes in Japanese: results of a pooled analysis of 7 large-scale cohort studies.   J Epidemiol. 2011;21(6):417-30.

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