男女は産み分けできるんですね!

2023/05/01

 今日は、今まで知らなかった男女の産み分けの論文を目にしたので、ほとんど素人である脳外科医が書いてみたいと思います。先日、蒼野は高校の同期会に出席しました。その席で、不妊治療に携わる同級生が、日本人を一人でも増やすんだというビジョンで熱く語っているのに感銘を受け、興味を持ったのがきっかけです。

 蒼野家には3人娘が生まれましたが、男の子は出てきませんでした。姉妹は本当に仲が良く、良かったなあと思う反面、無いものねだりではありますが、男の子を育てたらどうなっていただろうと想像することも無い訳ではありません。もちろん天からの授かりものですから、どちらでも可愛いのですが、論文で産み分けが出来るとあると、ちょっと複雑な心境です。

 論文は今年の3月にアメリカで発表されたもので、X染色体を有する精子は、Y染色体を有する精子よりもわずかに重いという性質を用います。精子の平均の比重に近い媒質の中で、精子を泳がせると、重量の軽い精子は浮上し、重い精子は下へ沈むため、男の子になる精子と女の子になる精子を簡易に分類できるというものです。

 1,317組のカップル中、子どもの性別について希望のあった105組について、この方法で分類した精子を用いて受精させた場合に、女児を希望したカップルでは79.1%が女児を、男児を希望したカップルでは79.6%が男児を妊娠していたそうです。3歳までの観察では、発育に不都合な点は認められておらず、とても自然に近い方法で産み分けが可能になります1)。

 これは今までの方法と比べると、簡易でコストパフォーマンスの高い方法のようです。これまでに発表された方法は、女の子になるX精子には、男の子になるY精子よりも、DNAの量が2.8%多いことを利用しています。精子内のDNAに、一定時間のみ結合する特殊な蛍光物質を使用してDNAを染色し、フローサイトメーターにかけると、DNA量の多いX精子の方がよく光り、その差を利用して分類するというものです2)。選り分けた精子でうまく受精が成立すれば、産み分けできるということになります。

 その方法が商業化され、1992年から行われているそうです。MicroSort®「マイクロソート」と呼ばれる検査法で、アメリカでこの方法を行った1500件では、女の子を希望し、女の子が出てくる確率が93%、男の子が出てくる確率が82%でした。特に安全性には問題がないようです。日本でも2022年から利用可能となっています。その費用は1回398000円だそうです。妊娠率は自然妊娠と同様で30%程度です。

 不妊治療の中には、着床前スクリーニングという方法があるそうです。受精卵は、染色体に異常があると子宮に着床しにくくなったり、いったん妊娠しても流産したりする確率が高くなります。体外受精した受精卵を数日間培養し、細胞分裂を始めた受精卵から、細胞を採取して、染色体を調べ、健康なものを子宮に戻す方法です。

 染色体の異常も分かりますが、受精卵が男の子なのか女の子なのかも、当然分かります。妊娠の確率を上げたり、先天性の染色体異常を事前に判別する方法ですが、海外では100%近い産み分けが可能となる方法ですので、親の希望に沿ってこの方法が使われている国もあるようです。

 卵子を取り出して、体外受精してから子宮に戻す方法なので、母親の身体にも負担はかかります。染色体を検査する必要があるので、コストも、300万円くらいかかるそうです。それと比べれば、精子を泳がせるだけで効率的に、X精子とY精子を選り分けられれば、産み分けコストはさらに下がると思われます。

 ただ人類全体の生存を考えると、多くの人が産み分けできるようになるのは、問題があるかもしれません。人類の出生時の男女比は、世界中、ほとんどの国で、おおよそ1.05です。日本でも過去数十年間1.05~1.06で推移しています。これは進化の過程で出てきた数値のようなのです。

 理由の一つとしては、男性は狩りなどの危険な仕事をすることが多く、事故や暴力で死んでしまう確率は、女性よりも高かったことです。女性ホルモンであるエストロゲンには、免疫システムを活性化し、免疫細胞の働きを強化する働きがあります。免疫細胞表面のエストロゲン受容体にエストロゲンが結合すると細胞内のシグナル伝達が活性化するのです。

 一方男性ホルモンであるアンドロゲンは、免疫細胞の表面に存在するアンドロゲン受容体と結合し、細胞内のシグナル伝達経路を調節します。免疫細胞の増殖や活性化が抑制され、免疫応答がやや弱められる傾向があるのです。蒼野も子育ての時に、男の子はすぐに熱を出したり、風邪を引くけど、女の子は強いと聞いたことがあります。

 種の保存や繁殖の観点からすると、男の子は少し多く生まれ、適齢期になるまでに、女の子よりも死んでしまうため、ちょうど良くなるという数値で、1.05に落ち着いたのだろうと考えられています。閉経後の女性にさまざまな病気が起こりやすくなるのも、免疫増強作用や抗酸化作用のあるエストロゲンの働きが弱まるためのようです。

 今後産み分けがもっと手軽なものになり、男女比が大きくなってしまえば、様々な問題が起こる可能性を秘めています。結婚市場や労働市場への影響も大きいでしょうし、うまく社会が回らなくなるかもしれません。また倫理的にも、命の選択を行うということの是非が問われます。

 結論は出ないとは思いますが、逆に技術が進歩したのに、それを規制するということも、資本主義社会では難しい事かも知れません。日本では明確な法規制はありませんが、ガイドラインや指針などは公表されています。そのため一般の医療機関での産み分けは難しいようです。

 先日書いたLGBTQの話も、ちょっとしたホルモン分泌のタイミングの違いから生まれるものということです。基本的には男でも、女でも、LGBTQでも、一人の人間として評価されるようになって、生きづらさが変わらない社会になることが重要なのでしょうね。そういう社会になれば、産み分けしたいという価値観はなくなるのかも知れません。

 子供の頃よく、今度産まれるなら男が良いか、女が良いかなんて、みんなとワーワー言っていたのを思い出しました。やったことがないことを、やってみたい性格の蒼野としては、来世は女の子になって、男の子の母親になってみたいなあと、妄想したりしています。

参考文献:
1)A non-randomized clinical trial to determine the safety and efficacy of a novel sperm sex selection technique. ; PloS one. 2023;18(3);e0282216.

2)Flow sorting of X and Y chromosome-bearing spermatozoa into two populations. ; Gamete Research, 16 (1), 1-9.

もし記事が良かったよ!と思われた方は蒼野健造公式ラインのボタンをポチッと押して、ご登録くださいね。ライン登録された方で希望される方は、オンライン面談での相談に乗りたいと思っております。