老後を生きる意味とは!

2023/09/06

 先日東大の小林武彦先生の「なぜヒトだけが老いるのか」という本を読み終わりました。同じ動物なのに、人間以外のほとんどの生物は、老いずに、いわばピンピンコロリで死ぬというのは、面白い事実です。今日は本を読んで蒼野が感じたことも含め、書いてみたいと思います。

 鮭が産卵したら直後に死んでしまうのは有名です。チンパンジーも死ぬまで子供が産めるので、現役のまま死んでしまいます。つまり老後が無い動物が多いという事になります。動物学的には、子どもを産めなくなった時期、つまりメスの閉経が「老化」であり、それ以降を「老後」と定義しています。

 その定義に従うと、ヒト以外の哺乳動物で老後があるのは、シャチとゴンドウクジラだけなのだそうです。遺伝子が1%しか違わないチンパンジーには老後は無く、寿命は40~50年です。人間も平均的には50年くらいで閉経しますが、その後も30年以上の老後を生きています。老化が進めば様々な病気にもなり、介護が必要な状態を過ごしてから亡くなるのが現代のデフォルトです。

 全ての動物は、進化の過程で有利に働く形質を持ったものが生き残ってきました。つまり老後を30年以上生きると言うのは、我々が生き残ってきたことに有利だったと考えられるのです。それを説明した仮説が「おばあちゃん仮説」です。

 人類の祖先を辿ると、猿人だった頃の画像では、全身が毛に覆われています。しかしいつの頃からか人類は体毛を失ってしまいました。子育てする際に赤ちゃん猿は母親の毛を持ってぶら下がっているため、母親猿は両手を自由に使うことができます。自分だけで、今まで通り木々を移動したり、食べ物を取ったり出来るのです。

 しかし人間の場合には、赤ちゃんは抱っこしなければ育てることができません。赤ちゃんの間、母親をサポートしたり、子育てを手伝ったりする人がおばあちゃんだったという訳です。閉経後でも孫の育児ができる、おばあちゃんの寿命が延びた人類の集団が繁殖して、生き残ったのではないかと考えられるのです。

 おじいちゃんも、子育てに参加する場面もあるとは思いますが、多くの経験を積んだシニアは、若者にその体験を伝え、群れのために生きることができます。そのことで乳幼児の生存率が上がり、その集団が生き延びてゆくのに有利だったから、おじいちゃんも長生きになったと考えられています。

 これは今後世界一の少子高齢化社会になる日本において、意識していかないといけないことだと思います。介護が必要な人ばかりになってしまったり、税金を過剰な医療で使ってしまったりするのは、進化生物学から考えると間違っています。どんどん少数の若者が貧しく、暮らしにくくなり、結婚して子供を作れなくなることは、種の保存から逆行してゆく事になるからです。

 今年の最初に、米イェール大学の経済学者・成田悠輔氏が「高齢者は老害化する前に集団自決、集団切腹みたいなことをすればいい」と発言されたのは、記憶に新しいと思います。確かに若者の目から見ると、能力も低下していて、未来の事も考えず、役に立たない高齢者が、大金をもらってトップに君臨し続けるのが、ムカつくという気持ちは分かります。確かに年功序列というのは問題だと思いますし、ポジションは能力で決められるべきですよね!

 蒼野も63歳で、ほぼ高齢者であり、孫がいてもおかしく無い年齢です(まだですが…)。そして自分の気持ち的には、成田さんの意見は悲しいです。進化生物学的に、自分の残った寿命については、種の保存に有利になるように使ってゆきたいと思います。元気でいれば、シニアの役割が必ずあるはずなのです。

 小林先生によれば、日本が人口増加していた高度成長期の体制=定年制が残っている事が一つの問題と言われています。年齢が来れば解雇になる定年制は、研究者などでは不利になります。特に大学などでは、若者の研究者が減っている事もあり、質の高い論文の世界ランキングも、日本はどんどん落ちていっています。

 20年前はアメリカ、イギリス、ドイツに次ぐ4位でしたが、2020年には12位まで後退しており、首位の中国とは、論文数で10倍超の差をつけられているそうです。アメリカの大学は教員に定年制がなく、多くのシニア研究者が活動を続け、分野を牽引し、若手を育てています。しかし日本では現在も、定年でシニアの研究者を積極的に排除することが続いているのです。

 脳は使えば使うほど発達します。健康な生活習慣を保っていれば、シニアの脳の経験値は上がってゆき、バランス感覚も良くなります。蒼野自身も感じていることなのですが、若い独身の頃は、自分中心に考えることは多かったのが正直なところです。60歳で事故に遭ったこともあるかも知れませんが、残った寿命を、子供達や社会のためにも使いたいと思うようになりました。

 一般的にも、シニアは私利私欲が少なくなり、国や社会のために頑張りたいと思う人が増えてくるようです。それこそがおばあさん仮説やおじいさん仮説につながる遺伝子のプログラムなのかも知れませんね!社会のお荷物にならないシニアが増えてゆくことは、決してマイナスにはならないはずなのです。

 蒼野が追求したい健康長寿は、死ぬまで働けて、役に立つ健康長寿です。昨日まで仕事してたのに、朝になったら冷たくなっていたというのが、ピンピンコロリの理想かなと思ったりもします。様々な病気があるので、そうとばかりはいかないとは思いますが、例えば自分が70歳を超えて癌が分かったとすると、治療は慎重に選択したいと思います。

 手術や抗がん剤の副作用で、ベッドの生活が長くなる可能性が高いようであれば、そんな選択は控えて、残された穏やかな日々を楽しみたいと思うのです。これは沢山の患者様をみているからそう思うのかも知れませんね! でも少子高齢化に社会基盤が変わったのなら、高度成長期のままの慣習は変えるべきだと思うのです。

 日本人は生涯医療費の半分は70歳以上で使っています。少子高齢化の社会では、高齢者に対して、病名だけをみて、今までと同じ、若者と同じ医療を行うことは、医療費の増大だけではなく、患者様自身にも決して良いことばかりではないと思います。毎日診ている植物状態で生きている患者様たちを見ていて、患者様もその家族も幸せを感じているとは思えないからです。

 同じような考えは、養老孟司先生も書かれています。「69歳を超えた人には、がんになっても積極的な医療を保険提供しない」と決めるといった方法もあるのでは無いかということです。AI診断が発達すれば、もっと予後予測の確率は上昇します。今までのように、奇跡を信じて、できる治療は保険を使って全部しましょうと言うのは、それを負担する若い世代にとって、決して良いこととは思えません。

 確かに入院を前提に成り立っている、慢性期の医療機関の多くは潰れるかも知れません。でも医療はビジネスでは無いと、蒼野は思うのです。日本には1000人当たり13床のベッドがあります。アメリカは2.9床、カナダ2.5床、フランス5.9床、イギリス2.5床、イタリア3.1床、ドイツ8.0床です。そしてベッドが多い県ほど、一人当たりの医療費が高くなるというのは、とても皮肉な話です。医療者としては、入院する人が減れば減るほど喜ぶべきです。

 めざせ生涯現役です! シニアの1人として、死ぬまで働けるように、自分の健康に気をつけながら、おじいさん仮説を証明していきたい蒼野でした。

参考書籍: なぜヒトだけが老いるのか   小林 武彦

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