今日は蒼野が面白いと思った記事で、未来の医療につながる話を書いてみたいと思います。医療探知犬を使って、新型コロナ感染症に感染しているかどうかを検査した結果、WHOの推奨する基準を超える診断精度だったという論文が出たというお話です。
ドイツの大学で、新型コロナ感染の有無について、8匹の医療探知犬が2802例の人の脇汗を綿布で拭ってもらった物を、2匹の医療探知犬が2匹とも陽性と判断したものを陽性と判断し、それ以外を陰性としています。これをPCRの結果と比較しました。
2802例中38例がPCR陽性でしたが、医療探知犬の陽性適中率は70.02%、陰性適中率は99.96%でした。医療探知犬の診断一致率は全体で99.68%で何回検査しても、同じ結果を導き出したそうです(P>0.05)。1)
医療探知犬によるSARS-CoV-2陽性の判別能は、感度81.58%、特異度99.93%で、これは現在蒼野の病院でも行っている迅速検査ID-Now(POCT検査)の基準である特異度97%以上、感度80%以上を超えています。医療探知犬がいれば、綿棒を鼻の奥に突っ込まなくても、信頼度の高い感染のスクリーニングが可能だと思われます。
ちなみに感度とは、COVID-19感染者を「感染している」と犬が判定する確率で、特異度とは非感染者を「感染していない」と犬が判定する確率です。犬が感染していないと言えば、まずセーフだということです。
すごい能力ですよね。以前線虫癌検査の話をブログで書いたことがあるのですが、犬の嗅覚は想像を超えています。論文では1例だけですが、PCRが陽性になる前のウイルス排出が起こる前の変化を感知した例があって、本当に微量な有機化学物質の変化を検知している可能性が示唆されています。
この凄い犬がどんなものなのか調べてみました。9頭の探知犬を、新型コロナウイルス感染者を特定できるようにトレーニングしています。訓練後に感度80%以上、特異度80%以上だった4頭を選んでテストに入ったそうです。同じ犬でもやはり才能があるのでしょうね!
実験が行われたのは2020年9月から翌年4月ということで、新型コロナウイルスが野生株からアルファ株に移行する時期だったそうです。野生株で訓練した探知犬のCOVID-19感染者判定力はアルファ株の場合に低下しており、間違う事があったようです。しかし数時間再訓練をするだけで、別の変異株の感染者も特定できるようになることもわかりました。
関連した記事を探していると、実際に活躍している凄い犬たちが出てきました。手荷物や国際郵便物などから動植物検疫の検査を必要とする肉製品、果物等を嗅ぎ分けて発見する動植物検疫探知犬です。様々な家畜の伝染病や、ミバエなどの植物の病害虫が日本へ侵入することを防ぐという重要な役割を担っています。
2005年成田国際空港に動物検疫探知犬2頭を導入されたのが最初で、2021年には140頭体制となり、全国23箇所で活動しています。39,632件、31,497kgの日本に入ってくる危ないものを防ぎました。犬種はビーグルとラブラドールレトリーバーです。
さらにさらに『がん探知犬』というのも発見しました。呼気を袋に詰めて郵送するだけで、癌を検知できるよう訓練されたワンコが癌があるかどうかを判別してくれるというものです。ドッグラボという名前で、検査できるワンコと契約しているクリニックがいくつかありました。
時間がないとか妊娠中で被曝したくないとか、閉所恐怖症で機械に入れないというような方でも簡単です。一般的には癌の有無を探す検査はPET検査です。人間ドックの一環でもあり、癌の塊では、糖質が高濃度に取り込まれるため、ブドウ糖に微量の放射線物質を結合させた薬剤(FDG)を注射後に、全身のCTでこれを検出するものです。
全身に被曝する事と、検査料が10万円前後かかるのが、ちょっとハードルが高いところです。また1cmより小さな癌や、消化器粘膜にできる早期癌(胃癌や食道癌)、悪性のスキルス癌、細胞がばら撒かれているような播種性転移、通常でもブドウ糖濃度が高い脳や心臓、排出され高くなる腎臓、尿管、膀胱、ブドウ糖が集まる肝臓などの癌も見つけにくい検査になります。
癌は早期発見なら治る病気になってきています。がん探知犬の判定確率は、約90%(感度0.91、特異度0.99)。ワンコが癌はありませんと言ってくれればまず安心です。しかも早期がんや高度異形性などの前癌状態にも反応し、その的中率もとても高いのです。
論文でも肺がん、食道癌、胃癌、大腸癌、肝癌、胆管癌、膵臓癌、腎癌、膀胱癌、前立腺癌、乳癌、子宮癌、卵巣癌、悪性リンパ腫、白血病などのがんが探知されることが判明しています。2)ちょっと蒼野も検査してみたくなってきました。蒼野は医局を辞めて就職しようと決めた40歳の時にPET検査をしてからは、癌の検査はしていません!
ドッグラボの費用ですが37000円でした。現在保険会社の対応がどうなっているのかは不明なのですが、世間的にはドックラボは医療行為ではないというになっていて、カルテも存在しません。ということはドッグラボで癌が見つかってから、がん保険に入ったりもできるということになりますよね…! 手遅れの場合だって、ドッグラボで癌が疑われてから生命保険に加入し死んでしまっても、告知義務違反にはならないはずなのです。
ただドッグラボでは、どこに癌があるのかまでは分からないそうです。しかしステージ0という超早期から見つけられるというのは凄いことです。癌治療を受けた後でも、1年以上経てば再発があるかどうかも分かるそうです(1年以内はまだ最初の癌の匂いの影響で精度が悪い)。
繰り返しになりますが、現時点で身体のどこにも癌がないかどうかの検査は、全身PET・体幹部CT・消化器MRI及びMRCP・胃カメラ・大腸カメラ・各種腫瘍マーカーまで調べなければいけません。医療保険は使えないドックになるため、3日間かけて35万円位掛かります。蒼野はドッグラボをやっているクリニックの回し者でも、友達でも無いのですが、コスパ最高で、身体の負担が少ないなあと感じてしまいました。
ワンコの嗅覚はヒトの100万倍~1億倍以上です、その中でもがん探知犬になれる犬はごくわずかのようです。2017年時点で国内に5頭のみ、その訓練は大変で、1頭に500万円かかるのだそうです。第一号になったのは水難救助犬だったラブラドールレトリバーのマリーンで、現在のがん探知犬はすべてマリーンの血筋だそうです。
現在癌の匂いがどの物質なのかの研究が進んでいます。アメリカではがん探知犬を模倣するよう学習したAIが、尿から前立腺がんを70%の精度で判別できるようになったそうです。がん患者の匂いをガスクロマトグラフィーで解析し、がん探知犬が反応したものの学習を繰り返すことで、機械でもがん患者の判別が出来るようになる時代が来そうですよね!
蒼野が生きている間には間に合わないと思いますが、アップルウォッチやスマホに息を吹きかけるだけで、人間ドックのように健康状態のチェックができるようになる未来は、決して遠くはないように想像してしまいました!
昨日は玄関のシクラメンをひっくり返し、めちゃくちゃ怒られたのはウチのワンコです。まだ1歳にならない悪戯盛りの柴犬なのですが、以前飼っていたゴールデンレトリバーとは全然性格が違います。「お手」も気まぐれで「来い」にも反応しません。こんなやつにも出来ることを見つけてやりたいなあと思ってしまった蒼野でした!
参考文献:
1)Scent dogs in detection of COVID-19: triple-blinded randomised trial and operational real-life screening in airport setting. ; BMJ global health. 2022 05;7(5)
2)がんの匂いセンサ開発に向けての研究 Journal of Japan Surgical Society 119(3), 272-277, 2018
3)Feasibility of integrating canine olfaction with chemical and microbial profiling of urine to detect lethal prostate cancer. ; https://doi.org/10.1371/journal.pone.0245530
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