現代の生活習慣は変えられない?!

2023/06/08

 患者様の健康指導をしていて、いつも蒼野が感じる事があります。いや患者様だけでなく、自分自身や自分の家族についても、『健康に悪い』という明らかなエビデンスが既に叫ばれている習慣にも関わらず、『それがやめられない』事が多い事です。そして健康的な生活習慣を身につけるのは、よほどのモチベーションや環境の変化がないと難しいという事実です。

 これは個人の意思が弱いとかという問題では無さそうです。日本人の死因の7割を占める、生活習慣病=慢性疾患は、いくら薬を飲んでも、手術をしても、生活習慣が変わらなければ、根本的な解決には至りません。病気を発症してボロボロになっていても、生活習慣が変えられないというのは、何か大きな理由があるはずです。今日はその理由について考えてみたいと思います。

 これは人類の進化のために、我々に受け継がれている二つの本能が原因となっているようなのです。一つ目は現状維持バイアス(status quo bias)です。人類の歴史は飢餓の連続です。少しでもエネルギーを節約し、リスクを回避する事で、生き延びてきました。そこで役に立ったのが、この現状維持バイアスなのです。

 新しい食べ物を試したり、知らない場所を探検したりするのはリスクを伴います。最初にフグを食べた人は死んでしまったと思いますし、知らない場所では、突然猛獣に襲われても不思議ではありません。できるだけ今まで安全だった同じ行動をとり、リスクを回避する遺伝子を持った人が、生き延びやすかったのは事実だと思います。

 また新しい事を行うには、脳を最大限使う必要があります。エネルギーを大量に使用する脳を毎日働かせるよりも、安全で既知の選択を、あまり考えずに行うことも、生存に有利に働いたに違いありません。選択肢が多い時や、新しい事の情報が不確実な時にも、考えずに既知の選択肢を選びやすいのです。リスクに対して慎重な人であれば、新しい事をトライして後悔するよりも、今まで通りの方が良いと考えます。

 新しい習慣を行うということは、裏を返せば今までの習慣はダメだったということにもなります。人間は自分の考えや行動に一貫性を保ちたいという強い傾向を持っています。群れの中では、行動や意見はコロコロ変わらない方が信頼されます。また決めた事を貫くことが、自尊心を高め、メンタルの安定にも繋がります。以上の理由で、人は目の前の状態、現状が良いと認識しやすいのです。

 こんな性質を持っている人間が、新しい生活習慣をゲットするのは、かなりハードルが高そうですよね。これに加えて人類のもう一つの生存戦略が、立ち塞がります。それは現在志向バイアス(present bias)です。遠くのご褒美よりも、すぐにもらえるご褒美を手にしやすいというものになります。

 滅多に手に入らない食べ物を見つけた時、人類は可能な限り消費することを選択してきました。果物の木を見つけたら、将来食べれるように残しておいて、誰かに食べられてしまうよりも、その場で食べてしまった人の方が生存に有利だったのです。即時的な報酬を優先する遺伝子を持つ人々が、我々の祖先です。

 原始人にとって、明日のことは不確実なことばかりです。今日我慢することで、明日本当に大きな報酬になるかどうかは分からないのです。現代は資本主義社会です。モノが売れる事が正義とされています。即効的な快感や喜びが得られるものが、沢山売られています。健康に悪い習慣のほとんどが、今この瞬間の快感や喜びにつながる物であるのは、意図されたものでもあるのです。

 1本のタバコや1杯のアルコールを、今我慢することで、将来の健康が確実に変わるかどうかの確信は持ちにくいです。しかしタバコやアルコールの摂取で、即効的な快感や喜びが得られるのは確実なのです。原始人と違いのない遺伝子を持つ我々が、目の前にそんなモノがあれば、飛びつく方が普通です。

 タバコやアルコールだけではありません。スイーツやパン、甘い飲み物、スナック、ジャンクフードや塩分、脂肪分が豊富な食べ物、カフェインやドラッグ、スマホなど、すぐに快感や喜びが得られるものが、現代には溢れています。それが身体には良くない事がわかっていても、我々はなかなかやめる事ができません。

 そこで行動に一貫性を持たせたい我々は、様々な言い訳を口にします。『我慢する方がストレスになるので体に良くない』『誰でもやっているし…』『ちょっとぐらい我慢しても(頑張っても)、何も変わらない』『やめろと言われるとやりたくなる、やれと言われたらしたくない』『こんなに美味しいものが、体に悪い訳がない』など、蒼野も患者様にいっぱい言われてきました。

 また蒼野自身、そう言って事故の前には、毎日赤ワインを飲んでいました。特にストレスがあったりすると、ボトル1本開けたりしていました。ポリフェノールが身体にいいんだと主張し、みんなも飲んでるよと言い、休肝日を作っても変わらないと言い、家族に「飲み過ぎよ」と言われると、逆にもう一杯追加したりして…。

 それだけに、生活習慣が変えられない人の気持ちはよく分かります。今考えると、認知が歪みまくっていました。基本飲まなくなって、初めて身体への影響が分かりました。アルコールだけでなく、現在は本能に訴え、依存を起こすことで、大量に消費を促すビジネスが溢れています。メディアからの情報は、かっこいい喫煙シーンだとか、爽快なビールの宣伝、B級グルメやジャンクフード、そしてスイーツだらけですよね!それらが、毎日潜在意識に刷り込まれているのです。

 そして身の回りの人が、それにどっぷり使った生活をしていたら、自分一人が生活を変えられるのでしょうか? 他にも沢山の要素が絡みます。以前も書きましたが、独居の中高年男性は、脳卒中で運ばれてくる人が多いです。座りっぱなしの仕事や、自由度のない仕事、残業などのストレスは、健康的な生活へのモチベーションを奪ってしまい、合理的に考えることもできなくなります。自炊する時間や、運動する時間も無く、ストレス発散に喫煙やアルコールに走れば、生活習慣病を発症しない理由がありません。

 シフトワーカーだと、食事、運動に加えて睡眠も障害されます。そんな環境で生活習慣病を発症した人に『自己責任だから仕方が無い』というのはあまりに酷な気がします。生活習慣を変えにくいのは人間の本能です。あなたが悪い訳ではありません。でもその結果が、将来健康寿命と平均寿命の10年前後の差に繋がるとしたら、少しずつ生活習慣を変えてゆきたくはならないでしょうか?

 生活習慣を変えてゆく方法については、また改めて書きたいと思います。まずは現状把握からですね。身体に悪い事を知っているけど、やめられない事があるかどうかチェックしてみましょう。そして、それをどんな言い訳で片付けているのかも言語化してみてください。根拠のない自信は、ある日突然の病気の発症に繋がります。健康は失くした時に初めてその大切さに気付く物です。

 特に日々の不調がある人は、是非一度振り返ってみてくださいね! 繰り返しになりますが、生活習慣病は、発症してから病院に罹っても、対症療法しか無いからです。ピンピンコロリの実現は、中年期からの生活習慣に掛かっています。悪い習慣を全て排除はしなくて構いません。少しずつ減らして、慣らしてゆきましょう!

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