mTORとIGF-1!

2022/08/01

 今日は、健康長寿のために絶対に必要であり、様々な慢性疾患のコントロールの糸口となる、細胞の新陳代謝に関して、深掘りをしてみたいと思います。最近の蒼野は、特にこの分野に興味があり、生物や細胞の不思議さを味わうことができるため、大好きな分野なのです。

 我々の身体は、約37兆個の細胞から出来ており、細胞が健康であれば、その集積である身体も元気でいられます。皮膚の細胞は新陳代謝で、日々真皮から新しい細胞が生まれ、表面の肌へと成長し、約6週間で古い細胞はどんどん垢となって、はがれ落ちていきます。ちゃんとこのサイクルが守られれば、肌は常に新しい細胞で作られ、いつまでもきれいなままなのです。

 全ての細胞が新しく生まれ変われば良いのですが、神経細胞や心筋細胞は、一生同じ細胞を使い続けることになっています。どんな物質でも年月が経てば、劣化が進み、機能が低下してきます。しかし驚くことに細胞はそれに対抗する手段を持っているのです。

 それがオートファジーと長寿遺伝子の働きです。蒼野が専門の脳細胞で考えてみましょう。脳細胞が、全く新しい細胞に常に生まれ変わるとすると、過去の記憶も消えてしまい、自分が自分であることが失われてしまいます。経験を記憶にしまい込んで、細胞の中身を新しくすることで、その人らしさを長く保つシステムが、オートファジーと長寿遺伝子なのです。

 おさらいしておくと、オートファジーというのは、3種類の働きがあります。

1、飢餓の時に栄養が無くなると、細胞の中で劣化したものや、要らなくなったものを分解して補うシステムです。100%リサイクルできるため、栄養補給を補う面では完璧です。カロリー不足や、タンパク質不足で発動します。

2、飢餓で無い時も、常に少しずつ働いていて、ランダムに細胞内器官を作り替えています。例えばミトコンドリアは一個の細胞に100以上存在するのですが、劣化したミトコンドリアを新しく作り替えています。

3、病原体やウイルス、細胞にとって毒になるものなどがあると、それを狙って分解しています。少量の毒はオートファジーを活性化する引き金になります。

 生命の歴史において、オートファジーは細胞が飢餓状態に陥った状態を救済するシステムであり、また原始的な細胞の免疫システムでもあります。細胞内が劣化して、DNAが損傷し、細胞死が起こるのを防ぐシステムでもあるのです。これがちゃんと働けば、健康長寿が達成できることがご理解頂けるでしょうか?

 本当に大事な働きですよね! そして新しく作り替えるのを促進するのが、サーチュイン遺伝子(長寿遺伝子)の役割です。分解のオートファジーと新生のサーチュインの働きによって、必要な細胞の中身が新陳代謝されるため、正常な機能を保ち続けることができます。病気も、老化もしなくなるのです。

 細胞には成長する局面と、修復する局面が存在します。これは同時には起こりません。成長期や妊娠期、授乳期などでは、細胞は成長局面でなければいけません。オートファジーとサーチュインが働くのが修復局面なのです。これが周囲の環境や条件によって、切り替わりながら生物は生きています。

 これを切り替えるスイッチは、モアイ像で有名なイースター島の土壌から発見されました。土壌に棲む微生物が、競合する他の微生物の増殖を止めるラパマイシンという物質を出していることが発見され、それは哺乳動物を含む多くの生物の細胞増殖を止めることが分かりました。

 生物の細胞質にあるmTORというタンパク質に、ラパマイシンが結合し、mTORの働きが抑えられると細胞は成長モードから修復モードになり、オートファジーが起こるのです。mTORは栄養状態などの環境に応じて、細胞のモードを切り替えるスイッチであることが分かりました。

 その後の実験でmTORを抑えると、老化が進まず、生物の寿命が伸びることが分かりました。また癌の増殖を抑制することも判明しました。mTORを抑制する生活をすれば、老化せず、癌にも罹らずに、長生きすることができるのです。

 逆にmTORを活性化し、成長モードにするのは、インスリンや、インスリン様成長因子1(IGF-1)です。IGF-1は成長ホルモンが、肝臓の受容体に働いて生成される物質で、インスリンと同様、糖質やタンパク質を食べると分泌されます。

 IGF-1は、ヒトでは筋肉、骨、神経などの細胞を成長させ、発達させます。炎症を抑え酸化ストレスも抑えます。細胞が障害されたときの生存能力を高め、脳内ではアミロイドの蓄積を防ぎます。抗うつ効果や動脈硬化を予防し、骨粗鬆症を防ぎ、免疫系も活性化するのです。一方短所は、mTORを活性化し、癌の増殖を促し、寿命を短くします。

 要はバランスが大事です。IGF-1も重要な機能を担っています。成長期、若い時はがんのリスクも低い時期でもあり、妊娠期や授乳期も含めて、IGF-1が必要な時期です。しかし中年期に差し掛かると、細胞老化やDNA損傷が問題になり、がんのリスクも増加してくるため、IGF-1は低く抑える必要があるのです。成長ホルモンは、インスリンがある時にだけ、肝臓でIGF-1を作ります。癌や老化を防ぐには、インスリンを出さない食事が重要ということになるのです。

 世界の長寿地域の食事は、mTORを抑制し、IGF-1が低くなる食材でできていることがわかっています。よく食べるものは、低GIの野菜や炭水化物、豆やナッツ、魚介類です。少ないものは肉、乳製品、果物、飽和脂肪酸、カロリー(腹八分目)です。数値で言えばタンパク質は1日約39gと少なく、食物繊維は23gと多いのです。

 現代の生活では、インスリンを増やす糖質とタンパク質(特に肉と乳製品)が多く、食物繊維や野菜が少ないため、常にmTORがオンになっており、オートファジーが働きにくくなっているのです。

 これは原始の狩猟採集社会での食事に、通じる物があります。厳しい季節には、食料が得られにくい時期があったのは当たり前です。そんな時期には修復モードに切り替え、オートファジーと長寿遺伝子の働きで、細胞内のリサイクルを行い、生き延びてきました。

 植物が一斉に芽吹く春や、収穫の秋には、比較的食べ物は得られやすかったと思います。そんな時期には成長モードに切り替えて、活発な活動や、身体の強化、生殖活動などを行ったのだと思います。まだ確証は得られていませんが、バランスとしては、修復モード2に対して成長モード1が最適な割合であると考えられています。

 8ヶ月の修復モード+4ヶ月の成長モード、あるいは2ヶ月の修復モード+1ヶ月の成長モードを繰り返すのが良いバランスになる様です。ついつい身体に良いと聞くと、蒼野も毎日多めのタンパク質を摂ったり、ビタミンミネラルのサプリメントを摂ったりしがちです。

 何事も『過ぎたるは及ばざるが如し』ですので、原始人や長寿地域の生活を参考に、毎日の生活を、成長モードと修復モードを使い分けながら送ってゆきたい蒼野でした。

参考書籍: SWITCH     オートファジーで手に入れる究極の健康長寿    ジェームス・W・クレメント

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