筋肉馬鹿は間違い!

2022/04/26

 筋肉馬鹿とかスポーツ馬鹿という言葉があります。筋トレばかり、スポーツばかりしていると勉学の時間が犠牲になり、筋肉はムキムキだけど頭が悪いということを揶揄している言葉です。

 しかし、筋肉が付くことで、頭が良くなる、という研究が最近、沢山報告されているため、今日は、そんな話題を書いてみたいと思います。

 脳が命令して、筋肉が動くというのが今までの常識でした。しかし、筋肉は脳の命令を一方的に受けているだけでは無いのです。筋細胞はマイオカインという物質を分泌することで、脳細胞を活性化したり、脳細胞を増やしたりすることがわかってきました。

 マイオカインは、2000年代以降、運動生理学の分野で注目されるようになった物質です。これまでに数十種類のマイオカインが報告されています。脳との関係で、初期に注目されたのが、有酸素運動で増え、脳の成長に有効な「BDNF」や筋トレで増える「IGF-1」です。

 「BDNF」は脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor)のことです。筋肉が収縮すると、タンパク質の一部が分離して、アイリシンという脂肪の燃焼を促がすホルモンが、分泌されます。このアイリシンが脳に到達すると、海馬を中心にBDNFが作られます。

 BDNFが増加すると、脳細胞の繋がり(シナプス)の形成を促し、記憶力や学習能力を向上させるのです。特に記憶の司令塔である、海馬は、加齢と共に萎縮しやすい部位です。アルツハイマー型認知症の患者様では、著明に海馬の萎縮が見られます。

 アメリカの研究で、平均年齢70歳の男女120人を “軽い有酸素運動をするグループ”と”ストレッチだけするグループ”に分けて、1年後の経過を調査しました。運動グループは、約2%海馬が大きくなっていましたが、ストレッチグループは、逆に1~2%萎縮という結果となりました。運動をすれば高齢者でも海馬は大きくすることができる事がわかったのです。

 IGF-1はインスリン様成長因子といって、インスリンと協力して、糖質を細胞に運ぶ役割があります。成長ホルモンの一種で、ソマトメジンCとも呼ばれます。主に肝臓で生成されますが、筋トレによって、筋肉からも分泌されます。脳内では神経細胞を活性化したり、BDNFの受け皿を増やして学習能力を強化します。筋肉自体の局所的な肥大作用もあります。

 イリシンというマイオカインは、運動すると骨格筋から分泌されます。2010年頃に白色脂肪細胞を褐色脂肪細胞化する作用が報告されていて、基礎代謝を上げ、内臓脂肪を減らします。さらにBDNF分泌を促進する作用があることも発見されました。アルツハイマー患者では減少しており、マウスの実験では、脳のシナプス保護と、記憶力の保持に有効であることが証明されています。

 2016年にはカテプシンBというマイオカインが、脳機能に有効であることが報告されました。マウスを走らせる実験で、血中のカテプシンB濃度が上昇しており、空間記憶能力が高まる事が分かりました。ヒトによる実験でも、4ヵ月間のトレッドミル運動で、カテプシンBの分泌が高まり、覚えた図形の再現テストの結果が向上しました。

 物理的には、筋トレによって、脳への血流が増加し、中枢神経系に豊富な栄養と酸素が運搬されることから、即時的な認知機能の向上に寄与しているという考察や、最大心拍数が増加する様な運動で、コルチゾールが分泌されると、生理学的に、脳が覚醒する効果があることも指摘されています。

 蒼野も事故の前は、週6日の座りっぱなしの全日勤務で、車通勤していました。50代の後半だったのですが、自分でも、使おうと思う薬の名前が咄嗟に出てこなくなっていました。時にはずっと一緒に働いているスタッフの名前までど忘れすることがあって、これはおかしいと思う様になったのです。

 自分が認知症専門医でもあり、認知症だけはなりたくないと思い、明晰な脳を取り戻すために、片道20分の、自転車通勤を始めました。3ヶ月ほど続けると、物忘れはずっと少なくなりました。それが事故につながってしまったのですが、車に乗れなくなったことで、1日1万歩は歩く様になり、最近では、ど忘れが著明に減少したことを実感しています。

 8000人以上を対象とした調査で、コロナ前と比べて60歳以上の約27%に認知機能の低下が進んでいる事がわかっています。外出自粛で運動量が落ち、人との会話も減ったことが関係しているのでは無いかと言われています。

 人生100年時代、加齢に伴い、認知症の発症は増えることが分かっています。認知症を防いだり、認知症を改善する薬は、未だに発売されていません。しかし、ヒトは身体の中に、それを防いだり、改善したりする機能を、元々持っているのだと、蒼野は思います。

 これまで長い間、脳の神経細胞は青年期までに、成長しきったら一生そのままで、飲酒や加齢で一部が死滅したらもう元には戻らないと考えられてきましたし、蒼野も医学部でそう教えられてきました。しかし、運動で、さまざまなマイオカインが分泌され、それでBDNFの分泌が増えれば、何歳になっても脳は発達し続けるのです。

 運動は最も優れた脳トレです。認知症になりたくなければ、運動するしかありません。散歩程度、5分程度のウォーキングからで良いのです。慣れてくればもちろん、運動量は増やして行きましょう。速歩きやジョギングのように強度を高めるのも有効です。

 昨日も書きましたが、無理をして、疲労が溜まり過ぎたり、身体を壊したりすると元も子もありません。運動習慣のない人の筋トレについては、ゆっくり行うスロートレーニングがおすすめです。習慣化するために、食事の後に数回行うことから始めましょう。血糖値の上昇も防いてくれるので、一石二鳥です。

 運動に慣れた人で、時間が無い、忙しい現代人にはHIITがお勧めです。マラソンのような、長時間の高強度運動は、活性酸素の産生が高まるため、脳にとっては逆効果になります。毎日数分間のHIITは、慣れれば、時間が取られないために続けやすく、アフターバーン効果による、脂肪燃焼が続くため、健康効果が高いのです。蒼野も時々、YouTubeを見ながらやっています!

 ということで『筋肉馬鹿』は、真実ではありませんでした。『文武両道』が正解です。運動ができる人は、勉強もできるのです。全く勉強の時間を取らなければ、知らない事は多いかもしれませんが、普通に勉強すれば、出来る脳力は十二分に備わっているのです。

 これは学生だけには限りません。筋肉を鍛えれば、年齢や性別に関係なく、誰もが賢くなれます。これから認知症を発症しない為にも、必ず生活の中に、運動を組み込んでくださいね! やっているとエンドルフィンなどの快楽物質も出てくるので、病みつきになりますよ! 糖質依存をやめて、運動依存にチェンジすれば、健康長寿は達成できます!!

 毎日運動するのが、楽しくて、気持ちよくなってしまった蒼野でした。

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