今日は蒼野の趣味でもある生物の話です。何度か書いたことのあるハダカデバネズミですが、最近知らなかった情報も目にしました。普通のネズミの10倍と言われる、その長寿の秘密について、そのメカニズムが分かれば、我々が参考にできることがあるかも知れません。今日はハダカデバネズミについて深掘りしてみます。
ハダカデバネズミの写真を見たことがある方は、おられますでしょうか? 全身の毛がなく、ピンク色。出っ歯で、目は退化して小さく、あまり可愛い容姿はしていません。いや、どちらかというと気持ち悪い部類です。東アフリカの乾燥地帯で、地下に巣穴を掘って、集団で暮らしています。
哺乳類には珍しく、一匹の女王を中心とした分業体制がしっかりしている、真社会性生物です。昆虫だと、蜂やアリが真社会性生物です。一匹の繁殖可能なメス(女王)と1-3匹の繁殖可能なオスを中心とし、残りのメンバーは、働きバチ、働きアリのような存在です。100匹の集団(コロニー)となり、巣穴の長さは3kmにも及びます。
暗い穴の中で一生過ごすため、視力は低下し、光を感じる程度です。その代わり嗅覚は発達しており、狭い巣穴ですれ違うために、シワシワの柔らかい身体をしています。出っ張った前歯で穴を掘り、植物の根や塊茎などを探し、餌にしています。水分も植物から摂るので水は飲みません。稀に昆虫や肉を食べることもあります。
分業体制としては、護衛係、子育て布団係、巣穴掘り・掃除係、食物調達係などに分かれています。天敵は蛇で、蛇は時々巣穴の中に入ってきます。入ってきた蛇に対峙した護衛のネズミは、自らが食べられることで、他のネズミが巣穴に蓋をする時間を稼ぎます。布団係ネズミは、生まれた子ネズミの体温が下がりにくいように、自らが布団になって子ネズミを守ります。
ハダカデバネズミは、哺乳類のくせに、変温動物だそうです。30度程度で安定した気温の巣穴で、長年暮らしていたことで、体温調節能力を失ってしまいました。体温調節には多大なエネルギーを要します。体温を調節しないことで、餌の少ない巣穴の環境でも、省エネモードで生きてゆくことができるのです。
巣穴の中は沢山のネズミがいることもあり、常に低酸素状態になっています。進化論的に言えば、天敵の少ない地下に巣穴を掘っていたネズミが、分業して、仕事時間や仕事量を減らし、体温調節をやめて、低酸素、低栄養の状態でも生きて行けるよう、心拍数さえもマウスの3分の1まで落とすことで、代謝全体を落としたネズミの子孫が生き残ったのです。
こういう暮らしぶりが幸いし、ハダカデバネズミの寿命は普通のハツカネズミの10倍、なんと30年も生きます。人間に置き換えてみると、日本人なら80歳過ぎまで生きますから、ハダカデバネズミの長寿メカニズムが使えれば、800歳まで生きれるということでしょうか! ハダカデバネズミはほとんど老化せず、癌にもかかりません。30年くらい経ったら、ピンピンコロリでいきなり死ぬのです。
安全な巣穴に住んでいて、逃げ回る必要はありません。酸素が薄いため、酸素消費も少ない上、食物が少なく、常にカロリー制限状態です。体温は32度程度で環境にお任せですので、ここでもエネルギーは使いません。分業することによっても、布団係はゴロゴロ寝ているだけ、護衛係は食われるだけですので、エネルギーを使わないのです。つまり本当に低代謝で、ミトコンドリアがエネルギーを作ることで、活性酸素を作る機会が少ないのです。
体内の酸化は起こりにくく、老化が進みにくい体質です。DNAの損傷も少なく、癌になりにくくなります。ハダカデバネズミは、他の動物の5倍の大きさのヒアルロン酸を、体内に多く持っています。研究では大きなヒアルロン酸は細胞同士の密度を高くすることで、癌細胞が増殖しにくくなるのです。ハダカデバネズミは癌にならないことでも有名な動物です。
遺伝子操作でヒアルロン酸を作れなくしたハダカデバネズミには癌細胞が出てきます。ヒアルロン酸を分解する薬の投与でも癌が起こるようです。現時点では、ヒトにこのヒアルロン酸を作らせることはできませんが、なんとか応用出来ないかと、研究が進んでいるようです。
ハダカデバネズミは餌の代わりに糞も食べるのですが、女王ネズミが妊娠している時の糞を食べると、含まれるホルモンの影響で、働きネズミの排卵が止まるそうです。一時的には女王ネズミ以外のメスは子供が産めない状態となります。しかし女王ネズミが死んでいなくなると、排卵が復活した他のメスネズミが下剋上を果たし、女王ネズミに昇格します。
なかなか死なないハダカデバネズミは、ねずみ算式に増える、多産多死の他のネズミに比べると少産少子です。天敵が少なく、食べ物が少ない環境では、少なく産んで長生きする方が、遺伝子を後世に残る確率が高いと言えるのです。その方が子供を育てる労力を減らすこともできます。
さて、ピンピンコロリの健康長寿を目指したい蒼野としては、是非参考にしたいハダカデバネズミです。低酸素環境や、変温動物になり、代謝を落とすというのは、実際には難しいですね。でもカロリー制限や、間欠断食を心がけ、食べ過ぎないことや、激しい運動をし過ぎないというのは、オートファジーを活性化する方法とも一致しており、参考になる事項です。
社会的には、より安全で、ストレスが低い環境にすることが重要ですね。ストレスは体内の酸化を進め、老化の大きな原因となります。子育ては本当に大変です。産んでくれるカップルの負担を、分業でなるべく軽くして行く事は、真似できるかもしれません。産めば産むほど豊かになるような社会システムになれば、少子高齢化はあっという間に解消すると思います。
最近では元気なお年寄りも増えてきていますので、定年を作らず、高齢になっても分業で、出来る仕事が増えてゆけば、ハダカデバネズミの社会に近づくように思います。少子高齢化で若い人しか働かない社会では、働いている人の負担は大きくなる一方ですし、人手不足は続きます。
未来の職業が無くなると話題の、生成AIのサポートで、仕事の効率を上げ、みんながハダカデバネズミのように、ストレスなく、昼寝しながらでも働ける社会になれば、全体のストレスも減り、ギスギスした社会が、寛容な社会に変わらないでしょうか?
確かに蒼野の夢物語ではありますが、世界一の超高齢化社会となる日本人は、ハダカデバネズミに倣ってみるのも悪くないように思います。決して派手な生き方では無いですが、無理せず、細く長くの人生も、遺伝子が喜ぶ一つの生き方なのでしょう。
ちなみに日本の動物園でも、ハダカデバネズミが見られるところが6つあるそうです。円山動物園、埼玉県こども動物自然公園、上野動物園、伊豆シャボテン動物公園、iZoo体感型動物園イズー、長崎バイオパークの6施設です。蒼野としては上野か長崎に、きもかわいいハダカデバネズミを見に行きたいと思ったりしています!
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