暑い日が続きますが、皆様の胃の調子はいかがでしょうか? 食欲がないからといって、冷たいものや素麺、うどんなどを食べ過ぎると、どんどん胃の調子が悪くなります。今日はそのメカニズムについて、解説してみたいと思います。
胃の調子が良いというのは、具体的には、胃の運動がスムーズで、胃の内容物を速やかに十二指腸に送ることができる状態の事です。蒼野は若い頃は、食べ過ぎては、病院ですぐに手に入る胃薬や制酸剤に手を伸ばしていました。それがいつの頃からか、全く必要なくなり、少なくともここ10年は胃薬を飲んだことがありません。
調子が良くなった原因を深く考えることは無かったのですが、最近知ったのは、炭水化物はドロドロになるまでよく噛まないと、とても消化が悪いという事実です。お腹に優しいと言われるうどんやお粥は、喉越しが良いので、そのまま飲み込みがちですよね!
炭水化物の消化は、口の中で始まります。唾液中のアミラーゼが噛んでいる間に、炭水化物を糖に分解するのです。ご飯でもパンでも、よく噛むと甘くなるのはその為です。胃に入ると、炭水化物の消化は一時的に停止します。胃酸と胃から分泌されるペプシンはタンパク質の消化に重要であり、炭水化物の消化にはあまり関与していません。
形が残ったままの炭水化物は、胃の蠕動運動で物理的に分解されます。大きな塊で飲み込んでしまうと、分解にとても時間がかかります。タンパク質は胃酸で溶かされるために、一定の時間で溶かされ、先に十二指腸に流れてゆきます。炭水化物の中でも、特に小麦食品は、含まれるタンパク質であるグルテンが、胃では完全に消化されにくいため、胃の滞留時間が長くなります。
蒼野自身の食生活を思い出してみると、10年前に血糖スパイクが老化、病気の原因になることを知り、ぽっちゃり体型を改善したい気持ちもあって、積極的な糖質制限を行いだしました。それ以来、胃薬を飲まなくなったことに気がついたのです。
道路でたまに見かける吐物も、肉や魚や卵と分かるものは少なく、麺類やご飯粒がそのまま出てきていることを考えても、炭水化物が消化が悪いというのは納得です。うどんを食べる時に、形が無くなるまで噛んでいる人がおられるのでしょうか? 大雑把に噛んで飲み込んだうどんは、胃の中で5~6時間は、消化されずに残り続けるそうです。
食欲が無い時に、お粥やうどんが定番なのは、単に口当たりが良く、飲み込みやすいという理由なのです。お米やパンであっても、やはり炭水化物は胃の中で4~8時間は留まり続けることが多いようです。実はこれが胃の調子が悪くなる原因の一つになっているというのは、今日まで知りませんでした。
12人の健全な大人での実験では、同じ炭水化物量の料理を食べた時の胃からの排出速度は、早いものから1、マッシュポテト 2、パン 3、ご飯 4、スパゲッティだったという論文もありました1)。 麺類の食べ過ぎはリスキーですね!
現代の食事は、意識していないと、炭水化物過多になっていることが多いです。炭水化物は安くて、ボリュームもあるし、主食と言うだけあって、嫌いな人はあまりいません。弁当やカレー、寿司や丼物、麺類やパンは、バブル後暗黒の40年を彷徨う日本では、食卓の主役ですよね! これらを、3食食べている人がとても多いのです。よく噛んだ場合は、今度は血糖スパイクを起こしやすくなります。
炭水化物が胃に残っている状態で、時間が来たら食べる習慣のまま、朝昼晩きちんと、炭水化物を食べていると、胃にはどんどん炭水化物が溜まってゆきます。つまり胃腸の消化能力を超えて、キャパオーバーにもなりやすいのです。
炭水化物が胃の中で残り続けると、自動的に胃酸も分泌され続けます。一緒に食べたタンパク質は、お先に十二指腸から小腸へと流れてゆき、小腸からコレシストキニン、セクレチン、GLP-1、ペプチドYYなどの様々なホルモンの分泌が始まります。この時点で胃の消化は終わったと判断されるため、胃の噴門部にある下部食道括約筋は緩んでしまいます。
分泌され続ける胃酸が食道に逆流しやすくなり、逆流性食道炎を始めとする胃もたれなどの症状を起こしやすくなるのです。病院で相談すると処方されるのは、胃酸抑制剤です。短期間の内服なら問題ない薬ですが、炭水化物を食べ続ける食生活では、毎日飲みたくなってしまいます。
胃酸が抑えられると、理論的にはタンパク質の吸収も悪くなります。また口から入ってくる菌が胃酸で殺されないため、小腸の細菌が増えるSIBOの発症につながり、ガスを発生させたり、下痢や便秘の原因になったりもします。ガスがゲップとして食道に逆流すると、逆流性食道炎を起こすため、PPIやH2ブロッカーなどが手放せなくなるという悪循環に陥ります。
もう一度復習すると、炭水化物の過剰接収 → 胃に滞留 → さらに炭水化物を追加 → 胃酸過剰分泌とキャパオーバー → 胃薬やガスター10などを飲む → 逆流性食道炎、慢性胃炎、SIBOなどの様々な胃腸の障害を誘発 という流れになりやすいのです。
この時の処方箋は、ズバリ『炭水化物制限』と『12時間以上食べない時間を作る』です。特に小麦は控えましょう。難しいと考える人は、朝食の小麦をやめましょう。目玉焼きとサラダ、ヨーグルトと果物を食べれば、バランスの良い朝食になります。
朝はお腹がぺこぺこなので、どうしても炭水化物が欲しいという人は、ご飯をドロドロになるまで、よく噛んで食べましょう。その代わり夜は、主食を豆腐やもやしなどにして、タンパク質をたっぷり摂り、糖質を抜くと消化が良いと思います。3食のうち、どこかで炭水化物を抜くのは、糖質過多が問題になっている現代の食事では重要です。
米やパンという主食を、野菜に置き換えれば、現代人が不足している食物繊維が増えます。どうしても口寂しい人は、食事の終わりにダークチョコや青バナナを食べると満足できるのは、蒼野も実証済みです。基本的にはお腹が空いてから食べるということを守れると良いですね。
炭水化物から離脱できるようになれば、16時間断食もお勧めです。蒼野の場合は消化管の時計遺伝子を揃えるために、朝食の代わりに生レモンを絞った炭酸水を飲んでいます。まだ科学的なエビデンスは限られていますが、炭酸で胃が膨れると、その刺激が消化管の時計遺伝子を整えると感じています。
断食のメリットは、胃腸の負担が軽くなり、お昼前にはお腹がグーっとなるMMC(消化管の蠕動運動)が起こることです。MMCは食物残渣や分泌物、死んだ細胞などを小腸から大腸へ移動させ、栄養を吸収する大事な小腸を掃除してくれます。SIBOも起こしにくくなり、お腹の調子を改善してくれるのです。もちろん体重コントロールも、断食+糖質控えめでバッチリです。
時計遺伝子を整える作用は、炭水化物が最も大きいと言われてはいるので、1日のリズムが不規則な人は、しっかり和食で朝食を摂ってください。特にメンタルが弱っている人は大事です。しかし血糖の乱高下は、メンタルを悪くするため、、昼と夜の炭水化物や砂糖は控えめにすることが肝心です。
冷たいものでさらに胃が動かなくなるこの時期は、胃腸の調子には十分注意が必要です。素麺もほどほどにお願いします。胃薬要らずを10年続けている蒼野でした。
参考文献:
1)Relationship between the rate of gastric emptying and glucose and insulin responses to starchy foods in young healthy adults. ; Am J Clin Nutr. 1988 ; 48 (4) : 1035-40.
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