今日は歯科領域の話題です。先日歯茎が腫れて出血した蒼野は、まさか歯槽膿漏?と少し狼狽したのですが、歯科受診すると、歯の割れ目から感染した歯髄炎でした。今まで歯槽膿漏について調べたことが無かったため、今日は国民病とも言える歯周病について調べてみたいと思います。
厚生労働省のレポートによれば、歯周ポケット保有者(4mm以上)の割合は年齢が増すにつれて高い傾向を示し、45歳以上では過半数を占めるそうです。全年齢層の約4割の人に、歯肉出血が認められます。そして歯周病罹患率は15-24歳が20% 、25-34歳で30% 、35-44歳で40%、 45-54歳は50%、そして55歳以上は55-60%と、加齢と共に過半数を超えてきます。
まさに国民病ですね! 誰が罹ってもおかしくありません。歯周病は、歯周病菌の感染によって引き起こされる炎症性疾患です。口腔内にも腸と同じように細菌叢があり、その中に歯周病菌も含まれています。そのバランスが保たれていれば、異常に増殖したりはしません。しかし口腔内の健康は、全身の健康とも密接に関わっており、さまざまな原因でバランスが崩れると、歯周病を発症します。
最初は歯肉の炎症です。腫れたり、歯磨きで出血したりすることから始まります。よくあることですが、これを放置してはいけません。悪化すると歯と歯茎の間から、感染が奥に進み、歯周ポケットが深くなります。それも放置してしまうと、ポケットは深くなり続けて、歯を支える骨(歯槽骨)を溶かしてしまいます。歯はグラグラとなり、自分の歯とサヨナラすることになります。
歯周病は文明病の側面があるようです。狩猟採集時代の原始人の化石では、虫歯も歯周病の痕も見られないようです。農耕生活開始後、約5000年前のエジプト文明の、パピルスの古文書にはすでに歯槽膿漏の記述が認められています。日本でも「歯腐れ病」と呼ばれる病気が、奈良時代から平安時代にかけての文献に登場します。
歯周病菌の餌になるのは炭水化物や糖質です。食事の中でこれらの割合が多くなれば、菌が糖質から作る酸で、歯が溶かされて虫歯になったり、酸性環境を好む歯周病菌の数が増えて、歯周ポケットの炎症を起こしやすくなったり、プラークが出来やすくなったりするのです。様々な種類の天然食品を食べていた、狩猟採集時代には、口腔内環境が健康であったため、ほとんど発症が無かったと考えられています。
歯槽膿漏とは、歯周病の最重症の状態です。疑うべき症状は次のとおりです。歯肉の腫れや赤み、出血、悪臭や口臭、歯周ポケットが深くなる(5mm以上)、歯茎が下がって歯が長く見える、歯がグラグラする、などになります。こんな症状に気づいたら迷わず、歯医者さんに診てもらうべきです。
若年性の歯周病があることも知っておいてください。10代から30代の特定の歯(通常は第一大臼歯と前歯)に、アクチノバチルス・アクチノミセテムコミタンスという歯周病菌が増殖して、入れ歯が必要となるような歯周病(局所性急速進行性歯周病)を、発症する場合があります。特定の歯だけに起こる謎は解けていませんが、あっという間に歯がダメになるので、若いからといっても、放置しない事が重要なのです。
大事な事は、歯周病を放置すると、歯が無くなるだけでなく、様々な病気のリスクをあげてしまうという認識です。歯周ポケットから、歯周病菌やその毒素(エンドトキシン=LPS)は直接、体内に入ってしまい、血流に乗って全身を回ります。サイトカインの放出も促し、老化や様々な疾患の原因である、体内炎症の大きな原因となるのです。
動脈硬化を進行させ、心血管病のリスクになりますし、インスリン抵抗性を上げることで、糖尿病のリスクにもなります。糖尿病の人は、歯周病を治療すると血糖コントロールが改善することも報告されています1)。糖尿病の人は約50%に歯周病を合併しているのです。
またアルツハイマー病では、脳内から歯周病菌の代表とも言えるポルフィロモナス・ジンギバリスが検出されている症例があることが報告されています2)。歯周病は、アルツハイマー型認知症などの神経変性疾患のリスクとしても、強く疑われているのです。
関節炎や腎炎にも、歯周病の関与が疑われています。これらの原因となる黄色ブドウ球菌や連鎖球菌は口腔内に多く存在しています。外部からの菌が直接体内に入れる部位は歯茎だけであるため、歯周病が重くなるほど、これらのリスクが上がることが報告されています。
歯周病菌は、高齢になってからの誤嚥性肺炎の原因菌の多くを占め、歯周病を予防することで、誤嚥性肺炎も予防しやすくなります。また閉経後女性の骨粗鬆症と歯周病は関連性があると言われています。エストロゲンの減少により、歯周ポケットの炎症が起こりやすくなり、歯を支える歯槽骨も弱くなります。
歯周病は生活習慣病なのです。動脈硬化を進行させ、心筋梗塞や脳梗塞を起こします。心内膜炎の原因でもあり、糖尿病とは密接に関係しています。腎臓や関節を悪くし、妊娠中であれば、早産の原因になったり、低体重の子供が生まれたりします。現代生活では、ありふれた疾患ですが、放置してはいけない疾患なのです。
まず大事なのは口腔ケアです。磨き残しに含まれる歯周病菌が歯垢として溜まると、異常に増殖してゆきます。歯垢1mgには約10億個の細菌が含まれています。溜まりやすいのが歯石や歯周ポケットの内部です。正しい歯磨きの習慣と、定期的(4~6ヶ月に1回程度)の歯科受診で、歯石を除去してもらうことが必要です。
口腔内の細菌叢のバランスを健全に保ちましょう。そのためには、糖質過多の食事を減らし、加工食品の割合を下げることが必要です。全身炎症を増すような食材は減らしましょう。腸に良い食事は、口腔内の細菌にとっても良い食事です。プレバイオティックスとプロバイオティックスがポイントです、発酵食品と食物繊維の割合を増やしましょう。キシリトールガムは有効です。
食後の歯磨きは、食後30分から1時間程度待ってから行うのが良いでしょう。糖質を摂ると、口腔内のPHが少し下がり、酸性となる為、歯の表面のエナメル質も弱くなります。すぐに歯磨きをすると、摂取したプレバイオティックスとプロバイオティックスで、口腔内で善玉菌が増える時間も無くなりますし、エナメル質を削ってしまうことにもなります。少し時間を置いてから口腔ケアを行いましょう。歯ブラシとフロスが基本となります。
あとは、全ての生活習慣病の予防策と同様です。喫煙や過剰なアルコールを避け、十分に眠り、適度な運動を行い、毎日楽しく過ごして、ストレスをコントロールしましょう。1.5~2Lの多めの水分摂取、一日1回は12時間以上は食事間隔をあけて、口腔内のpHバランスを回復させましょう。よく噛んで唾液をしっかり出すことも重要です。
蒼野は口腔内細菌が増殖している起床時に必ず、歯ブラシでブラッシングをおこなっています。毎回のフロスは面倒でなかなか出来ないのですが、ステーキなどを食べた時には行います。普段は電動歯ブラシとジェットウォッシャーで、食べ物のカスがなるべく残らないようにしています。
半年ぶりに歯医者に行きましたが、歯周ポケットは深くなっておらず、歯周病は大丈夫と言われたのが嬉しかった蒼野でした。一生自分の歯で食べれるように、口腔ケア、頑張ってゆきましょうね!
参考文献:
1)The effect of periodontal therapy on glycemic control and fasting plasma glucose level in type 2 diabetic patients: systematic review and meta-analysis. ;
BMC Oral Health17, (31) 2017
2)Porphyromonas gingivalis in Alzheimer’s disease brains: Evidence for disease causation and treatment with small-molecule inhibitors. ; SCIENCE ADVANCES 23(5)2019 DOI: 10.1126/sciadv.aau3333
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