今日は人間の思い込む力について、書きたいと思います。いわゆる『プラセボ(プラシーボ)効果』についてのお話です。蒼野の経験でも、この薬は最近開発されたすごく良く効く薬だよ、と言って患者様に処方すると、より効果が高いと感じます。
この現象は昔から観察されて来ており、1811年くらいから、患者の利益のために、偽薬を飲ませるなどして使われて来ています。例えば頭痛などの痛みの改善効果は30~40%もあり、本当の薬を飲ませた場合と、あまり変わらないこともあると報告されています1)。「痛いの痛いの飛んでゆけ〜」で痛く無くなるのも、これですよね!
しかし面白いのは、人によっては効果がない場合もあることです。思い込みの力は人それぞれです。プラセボという言葉はもともとラテン語の「喜ばせる」という言葉から来たもののようです。中世フランスでは「治療が難しい病気にかかった患者を喜ばせて、苦しみを和らげること」と定義されていました。詐欺師に応用されることもあったようです。
近年ではプラセボによる脳内の反応が観察されるようになり。脳科学的に、痛みが減ったり、うつが改善したり、パーキンソン症状が改善したり、免疫力が増したり、気分が良くなったりする作用が説明できるようになって来ました2)3)。
まだ完全には、解明されていませんが、思い込む感情によって、効くはずだと嬉しくなり、報酬系に属する側坐核が刺激されると、ドーパミンが放出され、パーキンソン症状が良くなることが示されています。痛みに関しては、感情に連動して、下垂体前葉や中脳などから、脳内麻薬を言われるエンドルフィン(オピオイド)が放出されることによって、痛みを感じにくくなります。
これはオピオイドをブロックするナロキソンの投与によって、効果が無くなることから、オピオイドが関与していることが明確に証明されました。またプラセボ投与で、オピオイドによる典型的な副作用である呼吸抑制も生じるケースがあります。心拍数が減少したりと、心血管系への影響も出ることがあります。思うことがきっかけで、脳の中で色んな物質が行き交うのです。
オピオイドだけではなく、他の神経伝達物質の放出も絡み合っており、単純には解説出来ないのですが、脳局所での血流が増えたり、f -MRIで脳の一部、痛みを感じる部位の活性が下がったり、鎮痛系が活性化することが観察されたりしており、実際に脳内に生理反応が起きているために、効果が認められるということが分かって来ました。
思い込みの力は大きいのです。良い医師はプラセボ効果を最大限に使える医師だと蒼野は思っています。「良く効く薬だよ」と説明してあげるのは、信頼関係のある患者様には大きなプレゼントになると思います。言葉にすると悪いのですが、信じやすい人は病状が回復しやすいのです。
これは経験的な、あるあるなのですが、手術するのに迷ったり悩んだりしている時期には、状況が許す場合には、無理に手術は勧めません。手術したくない人を手術すると、簡単な手術でも、びっくりするような合併症が出やすくなるのです。心から納得して手術を受けてもらえるように、何度もお話したのを覚えています。
2008年のイグノーベル賞では、値段が高いプラセボと安いプラセボを比較した論文があり興味深いです4)。電気ショックの痛みを和らげる薬を投与された2群の比較では、高い薬の方が鎮痛作用が強かったのです。高い薬だと、鎮痛の期待がより高まるのでしょうね!
蒼野の経験では、若い頃、夜になる度に、麻薬ではないものの、モルヒネ類似の鎮痛作用があり、投与されると気持ちが良くなるという(蒼野は打ったことはありません)ソセゴン(ペンタゾシン)という注射を打ちに来る患者が居ました。昔は使用基準が緩かったため、腰痛などの痛みでも、何度も打つ人が居たのです。
しかし回数を重ねると、ソセゴン中毒という依存症が発生します。ある時期からソセゴンの使用は必要最小限にするべきというのが常識となり、他の痛み止めは効かないからどうしても打ってくれという患者さんに、プラセボ注射をするようになりました。これが面白いことに、痛くない生理食塩水よりも、PHの関係で打つと痛い蒸留水の方がよく効くのです。
この患者様は、来るたびに蒸留水を三角筋に打っていたのですが、同じような部位に、打ち続けていたため、ある日組織が浸透圧で破壊されて、皮膚に穴が空いてしまったという事件に発展してしまいました。組織が破壊されるくらいの痛みがある方が、エンドルフィンが沢山出たのでしょうね!
この他にも様々な実験があるようです。例えば「うるしに触るとかぶれる」知識がある二つの群に、「うるしの葉」と「栗の葉」を触らせ、うるしの群は「栗の葉」、栗の群に「うるしの葉」を触らせたところ、栗の葉を触ったグループに発疹が出て、うるしの葉を触ったグループは何も起こらなかったそうです。
色はメンタルに影響しますが、うつ病の薬は黄色い薬が最もよく効くそうです。赤い薬は刺激を受け、緑の薬は不安が和らぎ、白い薬は胃の不調が良くなるそうです。薬に表面に、有名な製薬会社の刻印があるとさらに効くのだそうです。興味深い実験ですね!
しかしプラセボ効果の応用は、医療だけには留まりません。根拠がなくても、きっと上手くいくと信じられる人の方が、物事は上手くいく確率が増えるのです。確かに失敗すると思いながらやった事が、すごく上手くいった経験は蒼野にはありません。
ソフトバンクの孫正義さんは「他の人間にできることならば、同じ人間である僕にできないはずはない。」といつも考えています。仕事を頼む時でも、「君なら出来るから任せる」と言われると出来ないという選択は無くなります。
自分が出来ると思える事は、今までの自分のレベルをちょっと超えたくらいの、ちょい難が良いですね。自分のコンフォートゾーンを少し踏み出すことで、成長のサイクルが回り始めます。ナポレオンヒルの「思考は現実化する」とか、稲盛和夫さんの「君の思いは必ず実現する」というのは、このプラセボ効果が後押ししてくれているのでしょうね!
仕事以外にも、恋愛でも、勉強でもこれは応用できます。特にスポーツでは、勝てると思っていなくて勝てることは無いと思います。まず出来ると強く思うこと、そして出来るための方法を考えて、粛々と実行してゆくことで、何事も実現するのだと思います!
『信じるものは救われる!』 書いていて、色んなモチベーションが高まってきた蒼野でした!
参考文献:
1)The powerful placebo. JAMA, 1955 159(17), 1602-1606.
2)Neurobiological mechanisms of the placebo effect. ; Journal of Neuroscience 9 November 2005, 25 (45) 10390-10402
3)The neuroscience of placebo effects: connecting context, learning and health. ; Nature Reviews Neuroscience, 2015 16(7), 403–418
4)Commercial features of placebo and therapeutic efficacy. ; JAMA. 2008 ; 299 (9) ;1016-1017
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