今日は皆様に気をつけてもらいたい、実際的なお話です。コロナ禍のストレスや、生活習慣の変化による免疫力低下、ワクチンの影響などで、帯状疱疹の若年化や、発症自体が増えているのではないかという話題が、ちらほら上がってきます。
蒼野が診るのは、ピリピリ痛む頭皮や顔面の痛みが、帯状疱疹(ヘルペス)ウイルスの再活性化で起こってくるものですが、やはり実感としては少し増えているような感じがするのです。診察時に発疹が出ていなくても、画像に異常がなく、他の神経痛を起こす原因が無いものでは、消去法で抗ヘルペス剤を処方します。
この疾患は、日本人の9割が罹患する水ぼうそうで、原因となるヘルペスウイルスが、身体の神経の根本に潜伏することが始まりです。ストレスや環境によって、免疫力が下がると、潜伏しているウイルスが再活性化し、その神経領域に神経痛を起こし、皮膚に水疱となって現れるのです。
これは早めに抗ヘルペス剤を飲み始めると3日くらいで痛みが治ってくる人が多いです。場合によってはその後1週間以内に、痛む部位の皮膚に皮疹が出てきたりもします。皮疹が出れば確定ですが、出ない場合には、ヘルペスを意識している医師に罹らなければ、なかなか抗ヘルペス剤は出してもらえないので要注意です。
帯状疱疹で問題になるのは、帯状疱疹後神経痛という後遺症がある事です。もちろん全員では無いのですが、約10%程度に痛みが残り、長期間苦しむ人がおられます。記事ではハイヒールモモコさんが罹患され、「骨折より、出産より痛いですよ」と話されています。帯状疱疹発症後、72時間以内に抗ヘルペス剤を飲めば、後遺症は少なくなります。最初が肝心という訳です。
見極める方法は最初の痛みです。「ピリピリと刺すような」痛みだったり、「時々皮膚の奥がズキンとするような」痛みは神経痛の痛みです。これが身体の片側に発症したら、まずヘルペスを疑うべきだと思います。場所としては顔面(特に目の周囲)、頭部(耳の上や後頭部)、胸部、腹部などが多いです。引き続いて発疹が身体の片側に帯状に出てくれば間違いないのですが、痛みだけの場合もあるのは知っておく必要があります。
そしてその痛みが帯状疱疹後神経痛として残ってしまうと、人生の質が下がってしまいます。完治はなかなか難しく、治療は痛みのコントロールがメインとなります。ペインクリニックなどで治療は受ける事ができますが、2年以上症状が続いてしまうと、完治するケースは稀です。10~20年も通院し続けるケースがあるのです。
そこで使われる薬も、副作用が心配です。帯状疱疹後神経痛の治療には様々な薬が使われます。一般的には痛みを管理するための薬の使用です。ガバペンチンやプレガバリンなどの抗てんかん薬、アミトリプチリンなどの抗うつ薬、リドカインパッチなどの局所麻酔が一般的に用いられます。重度の痛みに対しては、オピオイド鎮痛薬の使用も検討されることがあります。
トラマールやトラムセット、フェンタニルやモルヒネ、コデイン、オキシコドンなどは、オピオイド受容体に働いて、神経の痛みを直接抑えます。しかし長期間の使用で、依存性と、薬剤耐性により使用量が増える人が多いのです。2017年にはアメリカで、オピオイドによる過剰摂取死が、年間約7万人に達したとの報告がありました。蒼野もなるべく患者様には使わないようにしています。
繰り返しになりますが、帯状疱疹が疑われる痛みが出た時の、初期対応が鍵になります。できるだけ早く抗ヘルペス剤を飲みましょう。少なくとも発疹が出てから72時間以内に、治療を始めれば、神経痛への移行は少なくなります。帯状疱疹は70%は1ヶ月以内に治りますが、30%は長引き、うち10%が帯状疱疹後神経痛になる事を頭に入れておきましょう。
受診する科としては、皮膚科でしょうか? 皮疹が出る前の方が良いのですが、出ていないと薬を出さない先生もいるかも知れません。もちろん頭痛で脳外科に来ることもあります。宮崎で行われた研究によると、帯状疱疹の発症率は50代から上昇し、その後70代でピークをむかえ、80歳までに3人に1人が帯状疱疹を経験する推定されております1)。
もう一つ耳寄りな情報があります。帯状疱疹初期に飲むと帯状疱疹後神経痛への移行を抑えてくれる漢方薬があります。28番の越婢加朮湯です。利水,鎮痛,消炎,抗ウイルスなどの作用があり、重症例を含む65例(平均年齢66.8歳)の帯状疱疹に対し抗ウイルス薬と越婢加朮湯を併用したところ、帯状疱疹後神経痛の発症が1例のみであったことが報告されています2)。
最後は帯状疱疹ワクチンです。50歳以上の帯状疱疹予防には、シングリックスという不活化ワクチンが効果的です。2ヶ月間隔で2回接種すると、免疫は10年以上、97.2%(70歳以上では89.9%)の発症予防効果があり、85.5%以上の神経痛予防効果があります。ただ税込22000円×2回=税込44000円と少しお高いです。しかし自治体によっては助成があるところがあるようなので、打っておきたいと思うオーバー50の方は、問い合わせてみてください。
50歳以前であれば、水痘の弱毒化生ワクチンは打つ事ができます。あくまで水痘予防という名目にはなりますが、こちらは1回のみの8000円です。免疫効果の持続は8年程度で、発症予防効果は51.3%。神経痛予防効果は66.5%です。反復性群発頭痛はヘルペスウイルスが関与しているという可能性があり、頭痛クリニックでは、群発頭痛で悩んでいる50歳以下の人には、この水痘ワクチンを接種していました。
効果は個人差が大きいので、ダメで元々という感じではありました。50歳以上の反復性群発頭痛に関しては、東京女子医大の2019年のデータで、シングリックスを打つと、9割に発作の改善が見られたそうです。群発頭痛は、痛みで眠れない辛い病気ですので、もし身近で悩んでいる人がいたら教えてあげてください。
帯状疱疹は早期に疑い、早期に治療するのがマストになります。ピリピリやズキンなどの強い痛みには、いち早い対処をお勧めします。蒼野はまだ帯状疱疹の経験はありませんが、疲れた時に、帯状疱疹が出たことのある娘には、しっかり知識を伝え、越婢加朮湯を持たせています。越婢加朮湯はネットでも買えますので、既往がある方は常備しておくと良いかも知れません。
皮疹が出ていない痛みの患者様が、抗ウイルス剤と、越婢加朮湯で良くなると本当にうれしくなる蒼野でした。
参考文献:
1)Miyazaki Dermatol-ogist Society, Open Forum Infect Dis 4(1), 2017
2)帯状疱疹後神経痛に対する越婢加朮湯の予防効果の検討. ; 漢方と最新治療 29 :57-63 2020
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