高血圧はカリウム摂取で防ぎましょう!

2023/06/16

 蒼野の外来には脳卒中後の患者様も多く、いつも血圧をチェックしています。高血圧は脳卒中の最も危険なリスクファクターですので、とても気になるのです。しかし、いろいろな生活習慣を指導していても、中々血圧が下がってくれない患者様は多いです。結局は薬でのコントロールになってしまいます。

 先日入院した患者様に、他院の救急外来でもらった降圧剤が裏目に出てしまった方がおられ、やはり薬による対症療法だけでなく、生活習慣の改善で、血圧コントロールができるのが理想だなあと思いました。そこで、最近の血圧コントロールについて、改めて調べてみることにしました。

 その患者様は、77歳男性、突然グルグル回る目眩を感じて、夜間の救急外来を受診すると、血圧が210/110mmHgとバカ高かったので、強めの降圧剤が処方され帰宅したそうです。二日間薬を飲んでいたら、左手足の動きが悪くなってきたということで当院を受診されました。

 頭部MRIを試行すると、右橋にパラパラと三箇所ほどの急性期脳梗塞が認められました。小さな血管が1本だけでなく3本詰まったと思われる所見です。普通に考えると、めまいは橋から小脳へとつながる小脳脚の病変による症状で、最初にここの血管が詰まった様です。少しでも局所の血流を増やすために、身体が反応して、血圧を上げたところで、血圧をドーンと下げる薬を飲んだため、血流が悪かった周囲の血管まで詰まって、3箇所の梗塞となり、麻痺が出始めたものと推測しました。

 入院加療とし、すぐに降圧剤は一旦中止、抗血小板剤と活性酸素除去の薬を点滴しながら、高気圧酸素治療を始めました。幸い数日で麻痺は改善し、めまいのみとなりました。リハビリ後、無事退院され、一人暮らしに戻ることができました。振り返ってみると、血圧の治療も、急だったり、タイミングを誤ると罪深い場合があるなあと感じます。

 血圧が高い人が、お医者さんにまず言われるのは減塩です。確かに栄養とライフスタイルは、血圧にとっても重要なのですが、最近の論文では、カリウムの豊富な、果物、野菜、ナッツなどの食事が、血圧低下に重要であるというものが増えてきています。ナトリウム摂取が多くても、カリウム摂取が十分であれば、血圧は上がりにくくなる様なのです。

 蒼野が習ってきたのは、ナトリウムの制限ばかりで、カリウム摂取を積極的に勧めるというのは、最近のことの様です。2014年の論文では、ナトリウム過剰だけではなく、カリウムの明らかな血圧効果作用と、その欠乏による高血圧と新血管リスクへの悪影響が検討されていました1)。

 カリウムは腎臓でのナトリウム排泄を促進し、体内のナトリウムバランスを調節するというのはよく聞きます。これだけだとちょっとナトリウムを減らす補助的な作用だけの様な印象です。しかしカリウムは血管壁の平滑筋に働き、弛緩させるため、直接血圧を下げる効果があるのです。また神経細胞の働きを調節する作用もあり、神経による血圧コントロールに重要な役割があります。

 カリウムの降圧効果は、高血圧患者や、高いナトリウム摂取量の被験者では特に顕著で、カリウムが十分にあれば、ナトリウムが高いことで血圧が高くなるのを相殺してくれる効果が認められています。また疾患リスクについても、カリウムが多ければ、脳卒中リスクは、約25%減少します2)。

 末期腎不全患者(CKDステージ3-5)の場合には、高カリウム血症になって、不整脈を誘発しない様に、摂取に注意が必要ですが、初期のステージの慢性腎臓病患者にとっては、カリウム摂取が腎機能の低下を遅らせる可能性が示唆されています。

 高血圧は、過剰な食事性ナトリウムだけではなく、他にも多くの因子が原因となっています。過体重/肥満、不健康な食事、不十分な食事性カリウム、不十分な身体活動、およびアルコールの摂取などが影響します3)。総合的なライフスタイルの改善が必要ということです。高血圧が怖いのは、全身の血管を痛め、病気につながることです。血圧の値自体が問題になるわけではありません。

 2018年に報告された、18ヶ国、255のコミュニティ心血管疾患の無い35-70歳の成人82,544人について、尿中のナトリウムとカリウムの量を摂取量の代替指標として、平均8.1年追跡し、心血管疾患や死亡率との関係を調べました。するとWHOが勧告する塩分量5g/日未満が守れている国は皆無で、255のコミュニティ中224(84%)が、7.7~12.8gの食塩を摂取していました。そして、塩分摂取が2.56g増えるごとに、血圧は2.86mmHgずつ高くなっていました。

 しかし心血管イベントについては、食塩摂取とは正の相関認められず、全ての主要な心血管疾患は、全ての国でカリウム摂取量が増加するにつれて減少する事がわかりました4)。実は今までの論文では、塩分摂取の多さが、有意に心血管疾患の発症につながるというデータは出ていないのです。心血管疾患を減らすには、塩分量の制限よりも、カリウム摂取を増やすことが重要なのです。

 今回の結果の検証のため、過去の論文のレビューを加え、21ヵ国、664の地域の35-70歳、約16万8千人についての疫学コホート研究として、さらに調べた結果でも、やはり十分なカリウム摂取が心血管疾患を減らすという結果が確認されました。

 皆様も、果物や野菜、ナッツなどを、毎日しっかり食べましょう。塩分を摂る場合には、塩化ナトリウムではなく、ヒマラヤピンクソルトのような岩塩の方が、カリウムを始めとする他のミネラルが豊富に入っています。海の塩に関しては、海洋汚染の影響でマイクロプラスティックの混入が懸念されるため、岩塩の方が安全です。

 塩化ナトリウムは、加工食品に多く添加されており、旨み成分のグルタミン酸Naもナトリウムです。カリウムが多く含まれているものはほとんど無いため、バランスが悪い食品です。心血管疾患のリスクを増やさないためには、加工食品をなるべく減らしましょう。新鮮な野菜や果物、ナッツなどを食事の中心に置くことで、血圧は下がりやすくなり、少し高めでも病気につながりにくくなるのです。

 日本人の高血圧患者数は約4,300万人と試算されています。しかも3100万人がコントロール不良とされています5)。血管は加齢と共に硬くなりやすいため、高齢化に伴い今後も増えてゆくと予想されます。そして塩分を制限するのは、美味しいと感じにくくなるため、本当に難しいです。また汗をかく人とかかない人では、必要塩分量も変わってくるのです。

 新鮮な野菜や果物やナッツを増やすのは、血圧のみならず、腸内細菌叢のバランスも改善し、健康全体に良い影響があるはずです。世界中で減塩基準が守られていないことを考えると、減塩にこだわるよりも、加工食品を食べないことにこだわるのが有効だと感じました。

 蒼野の上がりかけていた血圧は、飲酒をやめ、毎日歩き、果物と野菜を中心に食事をする様になって、降圧剤が卒業できました。血圧高めで気になる人は、まずは家庭料理の比率を、出来るだけ増やして欲しいとというのが、新しい論文が示している事だと思います。

参考文献:
1)The Impact of Sodium and Potassium on Hypertension Risk. ; Seminars in Nephrology 34 (3) 2014, 257-272

2)Should we eat more potassium to better control blood pressure in hypertension? ; Nephrology Dialysis Transplantation, Volume 34, Issue 2, February 2019, Pages 184–193

3)Prevention and Control of Hypertension: JACC Health Promotion Series. ; J Am Coll Cardiol. 2018 Sep, 72 (11) 1278–1293

4)Urinary sodium excretion, blood pressure, cardiovascular disease, and mortality: a community-level prospective epidemiological cohort study. THE LANCET 392 (10146)2018, 496-506

5)日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会(編):高血圧治療ガイドライン2019

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