未来の医療はオーダーメイド!

2023/02/17

 昨日はワクワクする未来の医療に、大きな影響があると思われるiPS細胞について調べたのですが、その中にも出てきた個別化医療、つまりオーダーメードで個人に合わせる医療が、おそらくこれからの医療の中心になってくると思われるので、紹介しておきたいと思います。これはプレシジョン・メディシン(精密医療)とも呼ばれています。

 まずは今までの医療の現状から知っておく必要があります。同じ病名の患者様に対して、病気の原因を分析し、それに対して有効な薬を作って、治験を行い半分以上の人に有効な薬というのが現在標準の治療法とされているものになります。人によっては効かない、しかも副作用だけ出てしまうといった事が付き物でした。

 生命科学の進歩により、ゲノム解析が普及して病気の遺伝子が分かるようになると、同じ病気であっても、違う遺伝子の変異が原因で起こっていることなどが分かってきました。肺癌を例に挙げると、手術して同じように見える肺癌組織で、これは小細胞癌ですといったような診断になっても、様々な遺伝子の変異で起こった癌細胞があるという事になります。

 遺伝子の変異が違えば、同じ薬を使っても効く人と効かない人が出てしまいます。異なる病因が治療の効果に大きく影響していたことがわかってきたのです。そこで出てきたのが個別化医療であり精密医療の考え方です。人によって違うのであれば、その遺伝子や分子の異常まで検査して、それに効くピンポイントな薬を最初から使うという考え方です。

 がん医療においては1990年頃からゲノム(遺伝情報)研究が注目され始めました。アメリカでは2015年1月20日に、オバマ米国大統領が演説で「プレシジョン・メディシン・イニシアティブ(精密医療計画)」ということに言及しました。

 米国では100万人規模の患者の遺伝情報および医療記録を含む大規模なデータベースをつくり、患者一人一人の遺伝子、生活環境、ライフスタイルなどに関する違いを考慮しながら、個別に最適な医療を提供し、さらには病気の予防法を確立しようというプロジェクトが始まっています。

 このプロジェクトでは、多様な集団からの100万人の参加者全員の全ゲノム解析を行い、医療用のカルテだけに留まらない健康に関する生体情報を集めています。個人情報は保護しながらも、ウェアラブル端末などの情報も統合し、生活習慣も含めての研究を続けているのです。これらを中央データベースに集積し、医療を変えようとしています。

 今この個別化医療が最も進んでいるのが癌治療の世界です。日本でも2018年6月1日、がんゲノム医療の新たな拠点として「がんゲノム情報管理センター」が開設されました。がん患者から得られた遺伝子異常のデータなどを集約・保管し、その情報から最適な治療法を選ぶ「がんゲノム医療」が始まっています。

 癌を顕微鏡で見た組織で分類せず、「遺伝子異常別」に分類し、それぞれの遺伝子異常に最も合う薬を使うというのが、癌治療におけるプレシジョン・メディシンです。遺伝子検査によって、効く薬と効かない薬をあらかじめ判別できれば、そのメリットはとても大きく、医療費の削減にもつながることになります。

 癌細胞を調べるには、手術による生検だけに頼るわけにはいきません。最近では技術の進歩により、「リキッド・バイオプシー」といって、患者の血液・尿・唾液などの液性検体から、その中に含まれているがん細胞や、がん細胞由来の物質(DNAやRNAなど)から遺伝子異常を調べる事ができるようになりました。治療中に薬が効かなくなった時の、経時的な遺伝子の変異なども捉えられるようになっています。

 もちろん癌のステージや、どこの癌であるかなどで、リキッドバイオプシーの検出率は異なりますが、健常者から検出される率は1%以下であり、がん再発の超早期発見にも応用できるようです。画像で再発が見つかる6~9カ月前に,血漿DNA検査でがん由来DNAを捉えることができることが判明しています。

 もちろんまだ再発して大きくならないうちに治療を開始した方が、癌をやっつけるのに有利であることは間違いありません。現時点での日本の問題は、遺伝子異常に対して使える分子標的薬が見つかる確率が20~25%と低く、また保険適応がない薬が見つかったりして、その医療費も含めた問題がある事です。

 日本で行われる癌遺伝子の解析は、まだ100~200種類程度の特定の遺伝子パネルだけに限られているため、体制を整えて、世界的にはほぼ同じコストで可能である全ゲノム解析に移行したいところですが、日本企業でこれが可能なところは無く、国際競争力では遅れをとっています。

 全ゲノムが解析できれば、癌細胞が癌患者自身のHLAに似せて免疫を回避している部分も分かるため、効果的な分子標的薬を使って免疫療法を行い、癌細胞を殺す事ができます。分子標的薬は、病気の原因に関わる特定の分子だけを選んで攻撃するという特徴があるため、副作用が少なく効果が高いのです。

 同じ病気と思っていても色々あり、また患者自身も色々な人がいます。例えて言うなら、大量生産した服であれば、似合う人もいれば似合わない人もいます。オーダーメードで、しかも体型をカバーし、その人に合った色や生地を選んだ服なら、カッコよく、好印象を与える事ができるといったイメージでしょうか?

 今後この技術を応用すれば、遺伝子の全ゲノムの解析+腸内細菌のゲノム解析からなりやすい病気が予測できて、それを予防するための生活習慣、食べ物などが分かるようになり、健康で過ごすための個別化されたアドバイスができるようになるかも知れませんね。ちゃんと示されれば、概ねその生活習慣を守り続けることが出来る人も多いのではないでしょうか?

 新しい技術のように思いますが、個別化医療と言われると蒼野が思う医療は漢方治療です。証に合わせて生薬を使うと言うのは、古来からある個別化医療です。そのメカニズムはブラックボックスのままではありますが、西暦200年から積み重ねた証の観察と、生薬の組み合わせでの個別化医療にはロマンを感じます。

 将来的には漢方のメカニズムまで、解明される日も来るのでしょうね! 個別化医療、分子標的薬の治療は、今以上に高額の医療費が掛かる治療になります。病気になってからの治療ではなく、なる前の予防に活かして欲しいと強く思います。この技術が病気の治療だけでなく、病気の予防や健康の増進に応用される日がとても楽しみです。

 蒼野が生きているうちには、まだまだ社会実装(保健医療)は難しい気がします。現時点では生活習慣の知恵を絞り、急性の病気には漢方も使いながら、健康寿命を伸ばしてゆきたいなあと思う蒼野でした!

参考文献:「がんプレシジョン医療」の現状と課題. 日本内科学会雑誌 107: 1688-1695, 2018.

参考サイト: 国立がん研究センター ホームページ
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2018/0601/index.html

もし記事が良かったよ!と思われた方は蒼野健造公式ラインのボタンをポチッと押して、ご登録くださいね。ライン登録された方で希望される方は、オンライン面談での相談に乗りたいと思っております。