今日は昨日書ききれなかった、今ある脳の神経細胞の機能を高め、細胞が減っても能力を維持する方法について書いてみたいと思います。認知症の原因は多岐にわたりますので、出来るだけその要素を排除し、脳を使い続けることが重要です。
繰り返しにはなりますが、60歳以上の日本人高齢者1193人の研究で、17年間観察した前向き研究では、認知症の生涯リスクは55%(女性65%、男性41%)です1)。中年期以降の方は、生活の中に認知症予防の要素を取り入れてゆく事が、平均寿命が伸びている現代では必須であると言っても過言ではないと思います。
2020年に改定されたランセットの研究論文によると、12個の認知症リスク因子が同定されています。これらを避ければ認知症発症リスクが40%下がるとされているのです。それは(1)難聴 (2)社会的孤立(3)抑うつ (4)喫煙(5)大気汚染(6)高血圧(7)糖尿病 (8)肥満(9)運動不足(10)頭部外傷(11)過剰飲酒(12)教育歴(知的好奇心の低さ)でした2)。
昨日認知症になりやすくなる健康習慣については解説しましたので、喫煙や高血圧、糖尿病や肥満、運動不足、過剰飲酒などについては昨日のブログを参照にして頂けますと幸いです。難聴に関しては、医療機関で相談することと、補聴器をしっかり使う事が大事です。耳からの情報が少なくなると、脳の刺激が減り認知症を誘発しやすくなります。
音の刺激というのは、覚醒時も睡眠時も脳を刺激しています。そして脳は休むことなくそれを処理しているのです。人間の身体は使わないものはすぐに衰えます。実際に難聴があると脳萎縮が進むと報告されており、軽度難聴者の認知症発症リスクは、難聴でない人の2倍、中等度難聴者では3倍に上がると言われているのです。
難聴の主な原因としては、騒音(大きな音を聞き続ける)、動脈硬化、加齢などが挙げられます。蒼野も少し聞こえが悪く、特に妻の高音の声が聞き取りにくい事があるので、イヤホンの音量には注意したいです。また頭部外傷はもう事故で負ってしまったので心配ですが、他の事でカバーしたいと思います。
この12個には挙がっていませんが嗅覚もとても大切です。五感の中で加齢で真っ先に衰えるのは嗅覚だからです。日頃から意識して食べ物や花の香りを嗅ぎましょう。認知症回復に効果が報告されているものとしては、ローズマリーカンファーやレモンの香りをアロマとして使ったりすると良いようです。
社会的孤立や抑うつを避け、知的好奇心を保つ生活習慣が、残っている脳の神経細胞の機能を高める方法になります。一番大事なのは歳を取っても、毎日楽しい事をして遊ぶ事です。アイルランドの劇作家バーナード・ショーは『歳をとったから遊ばなくなるのではない、遊ばなくなったから歳をとるのだ』と言っています。遊びで若さを取り戻しましょう!
80歳を超えてくると、体力も衰えそれまでしていたゴルフなどのスポーツを辞めてしまう人も増えてきます。これは社会的な孤立や抑うつにも繋がりやすい行為です。自分が楽しめる事であれば、幾つになっても趣味や仕事を続けるというのが、認知症予防の為にとても良い方法です。それまで行ってきた習い事なども辞めない事が大事なのです。
もしかしたら趣味が無いという方もおられるかもしれませんね。お勧めの遊びとしては、カラオケでしょうか? 歌は顔や喉の筋肉を使い、肺活量を増し、歌を思い出すと同時に、目で歌詞を追いながら、自分の声を聞いて音程を調節するなど、脳にも身体にも非常に良い刺激が得られる遊びです。誰かと一緒に行ければ社会的な孤立も防げますし、ストレス発散で抑うつも防ぎやすくなります。
コロナ禍で、カラオケでクラスターが発生したニュースなどもあり、ここ数年は自粛した方も多かったかもしれませんね。コロナ禍で認知症患者数が激増したと言われているのは、社会的孤立や抑うつの影響が大きかったように思われます。
料理も脳をフル回転で使う方法です。何を作るか決め、材料を吟味、用意し、手順を考える必要があります。匂いや味、見た目や温度など五感も全部使います。認知症予防にはもってこいの方法です。上手になったら誰かに作ってあげて一緒に食べれば、孤立、抑うつも防げます。料理教室に通うのも好奇心を満たし、新しいコミュニケーションが生まれるのでとてもお勧めです。
他にも絵を描いたり、スポーツ観戦や映画観戦、コンサートやお笑い、グルメ探しなどで、外出して楽しむ事が重要です。人はいつもと環境が違う所に行く事で脳が活性化します。原始人は、敵を避けながら、食べ物や住居を探す時に一番脳を活性化する必要がありました。新しいことをするということが脳にとっての一番の刺激になるのです。
おしゃべりなどのコミュニケーションもとても重要です。高齢になると特に男性では社会との接点が薄れやすいです。楽しめるようなら地域活動やボランティアに参加したりして、知らない人とも話しましょう。実は気心の知れた人とばかり喋っていると、お互いに大体どんなことを話すかが予測できることもあり、脳への刺激が減ってきます。しゃべってストレスになる人との会話は避ける方が良いのですが、外出先などで挨拶したり、簡単なコミュニケーションを取ることも心がけたいものです。
家庭菜園などで野菜や草花を育てるのも大きなメリットがあります。屋外での活動が増えることでセロトニンが増えます。植物にはリラックスパワーがあり、フラワーセラピーという治療もあるのです。ストレスを緩和し、自律神経を整え、睡眠の質が高まり、疲労回復、気持ちが明るくなるのは経験された方も多いのでは無いでしょうか?
ペットを飼うのは高齢者には特に勧めたいです。散歩の必要から筋肉が減りにくくなりますし、触れ合うことでオキシトシンが分泌され孤立、孤独が緩和されます。日本の月額介護保険サービス利用費を比較した調査ではペット飼育者は非飼育者に比べ介護費が半額になるという研究があります3)。健康寿命が長くなる人が多くなるのです。
少し逆説的ですが、可能であれば一人暮らしを続けることも、普段から頭も体も使う必要があることから、老化や認知症になりにくくなります。歳を取って心配だからと同居してストレスを溜めたり、生活のためにする事が減ってしまったりするのは、かえって認知症を進めることになりかねません。
またもし自分の蓄えがあるのであれば、あの世には持って行けませんので、定期的に旅行に行ったり、自分が一番やりたい贅沢に使ったりするのも、脳が目一杯活性化する方法になります。楽しい、気持ち良い体験を多くすれば、うつも認知症も進みにくくなります。
広島で一人暮らしをしている90歳の母親ですが、週2回パソコン教室に通い、麻雀をしに出かけ、時々広島交響楽団のコンサートも聴きに行くようです。友人がどんどんいなくなるのが寂しいと言っていますが、外出するよう蒼野も勧めています。自分で料理もしている様です。パソコン教室の先生が良い方で、出来るだけ連れ出してくれるのが本当にありがたいです。
幸い良い習慣が残っているので大丈夫かも、とも思いますが、物忘れは進んできているため、もっとコミュニケーションを増やして、顔を見る機会を増やそうと決意している蒼野でした。
参考文献:
1)Lifetime cumulative incidence of dementia in a community-dwelling elderly population in Japan. ; Neurology. 2020 08 04;95(5);e508-e518.
2)Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission . ; THE LANCET Published:July 30, 2020DOI:https://doi.org/10.1016/S0140-6736(20)30367-6
3)Pet ownership-related differences in medical and long-term care costs among community-dwelling older Japanese. ; PLOS ONE Published: January 27, 2023 https://doi.org/10.1371/journal.pone.0277049
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