昨日のブログでは、研究で効果に有意差を認めている薬でも、個人で使う場合には、思ったほどの効果は認められないことが多い、という事に関して書かせて頂きました。今日は、それならもっと基準が甘いトクホやサプリメントでは、どういうデータを参考に判断したら良いのかということについて、昨日書ききれなかったことを追加しておきたいと思います。
表現の違いが、我々の意思決定に及ぼす影響はとても大きいです。今日の降水確率が30%と言われると、念の為、折り畳み傘を持ってゆきたくなりますが、雨が降らない確率は70%と聞くと、持ってゆかなくても良いかと思う人が増えます。
これはフレーミング効果と言って、マーケティングでよく応用されている方法となります。サプリメントやトクホ商品、化粧品に至るまで、大抵はお客様の声として「使って良かった」「こんなに変わった」「もう手放せない」などの体験談が載っています。しかし、これは全く当てにはならないと考えて間違いありません。
研究で統計的に、飲んだ人の中によくなる人がいるということが分かり、認可された優秀な薬剤でも、平均的なNNTは30~50です。30人が飲み続けて1人に効果が出るという意味です。はるかに基準が甘いトクホやサプリメントを飲んだだけで、全員に効果があるはずがないのです。もちろん研究には多額の費用がかかりますので、これらの商品に対する効果の裏付けデータは、普通はありません。
トクホは国の認可があって、効果が保証されているのでは?と思われる方もおられると思います。トクホの審査は、統計的に明らかな差がある、ということが基準になっています。しかしその実験の母数は数十人である事が多いです。たまたま結果が出ただけかもしれません。例を挙げてみます。
「コーヒー豆マンノオリゴ糖」を配合し、食事からの脂肪の吸収を抑え、体脂肪が気になる方のためのトクホに『ボスグリーン』という商品がありました。2015年に発売され、すでに発売は終了しています。16週間、肥満(BMI 25~30)の男女48人に毎日1本飲ませたところ、腹部の脂肪面積が20.8平方cm減少したそうです1)。ちゃんと論文があるため、太っている人はみんな飲んだら良さそうに思えます。
しかし腹部の脂肪面積が20.8平方cm減少というのは、腹囲85cmの人のウェストの脂肪の厚みが2mm程度減るということを意味しています。16週間毎日コーヒーを真面目に飲み続けることで、2mmの脂肪が減るということです。皆様は嬉しいですか?
しかもこの効果の原因とされている「コーヒー豆マンノオリゴ糖」を54人の男女に12週間飲ませた別の実験によると、男性では有意なダイエット効果が認められましたが、女性では全くダイエット効果が認められなかったのです2)。
実験結果がグラフになっていたりすると、先ほどのフレーミング効果も手伝って、画期的な商品という印象になりますよね! トクホ審査は一つの論文だけでOKなので、48人のデータが、全員に当てはまる訳ではないということなのです。これはほとんどのサプリメントについても当てはまります。
それほど効果がある物であれば、製薬メーカーが目をつけて、薬になっていてもおかしくないですよね。一口にエビデンスと言いますが、研究や論文には、エビデンスのランクが存在します。あまり効果の期待できないものにお金を払い続けるのは馬鹿らしいと思います。それゆえ信頼度のランキングを知っておくのは大事なことになります。
最も信頼できるのが『メタ解析』です。多くの信頼に足る論文を集めて解析するため、母数も大きくなることから、その精度は高くなります。次はランダム化比較試験(RCT)です。その薬を飲むグループと偽の薬を飲むグループを、ランダムに選択して振り分け、結果を比較する物です。『ボスグリーン』の研究もこの方式なのですが、母数が小さいと、違う結果が出る場合も多々見られます。しかも脂肪の厚みが2mm違うだけでも、明らかなダイエット効果が認められたと表示する事が可能です。
食べ物の場合には、観察研究が主流です。食べない人はいないため、野菜を多く食べる人と食べない人を、何年も追跡し、野菜を食べる人は死亡率が低いという結果が出れば、野菜は体に良いという結論が導かれます。しかし野菜を意識して食べている人は、健康意識が高く、運動や、睡眠も気をつけている可能性は高いです。野菜が全ての鍵を握っているかどうかは、判断できないのです。
もっと信用できないのは、専門家の意見です。蒼野の立場で言えば、もちろん信頼して欲しいのですが、データもなく何万人も見てきたという経験からの主張は、科学的には信用に足るものではありません。さらに素人の体験談は、それが有名人だったとしても、自分に当てはまるかどうかの保証には全くならないと言って良いと思います。
個人の良かった体験があっても、よくなかった体験の方が圧倒的多数である可能性だってあるのです。その商品を使った人の人数と、良かった人の人数が欲しいところですね!しかしここにもバイアスがかかります。期待してその商品を買った人は、効果が無いとは思いたく無いのです。どこか良かったというところを見つけたくなります。
蒼野も、人の言うことはそのまま受け止めやすい人間なので、良かったという話を聞くとやってみたくなるのですが、人に健康法を伝える立場としては、その根拠をしっかり調べないといけないなあと、最近は特に感じるようになりました。生活習慣を変えずに、サプリやトクホを取り入れても、お金の無駄遣いになる可能性があることは、皆様に知っておいて欲しいと思います。
そのことを踏まえて、TVショッピングなどを見ると面白いですよ! よくある悩みから始まり、商品に含まれる健康成分が、年と共に減る成分であったり、野菜で摂るには食べられない量であることなどを説明し、使った人が口々に「良かった」「もう手放せない」と言います。そしてお値打ち価格であることを強調し、今すぐ買ったり、定期購入すればさらにお得になると迫ってきます。
サプリもトクホも健康器具も、ほとんどこのパターンで、マーケティングしています。よく考えてみると、科学的な信頼度は高くはありませんよね。しかし蒼野は何度も思い立ってはこんな商品を買い続けてきました。お腹ブルブルのシックスパッドや、ワンダーコア、レッグマジックX、金魚運動器、ふくらはぎマッサージ機など、みんなしばらく使ってみて、効果が感じられずに、押し入れの肥やしになっています。サプリも良さそうなものは、結構試してしまうお馬鹿さんなのです。
世の中はこれから、ますます高齢化社会になってゆきます。健康願望も増してゆき、健康市場はますます大きくなるのでしょうね? いろいろ試して自分に合うものを見つけるのも大事だとは思いますが、無駄な出費にならないよう、また逆に副作用が出たりしないように、信頼できるデータや統計についての知識を、頭の片隅に置いておいて欲しいです。
健康オタクは出費が嵩みます。CMに踊らされずに、これからはもっと、食材や運動、睡眠、ストレスコントロールなどの技術習得を追求しよう、と思う蒼野でした。
参考文献:
1)マンノオリゴ糖配合ミルク入り液体コーヒーの摂取が体脂肪低減に及ぼす影響. ; 2008 36, (6) , 541- 548
2)A Weight-Loss Diet Including Coffee-Derived Mannooligosaccharides Enhances Adipose Tissue Loss in Overweight Men but Not Women. Obesity 2012. 20 (2) 343-348
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