「歳は取りたくない!」こう考える人は多いと思います。でも誰もが歳を取るのを止めることは出来ません。蒼野も還暦を2年も過ぎ、小さな字は読みにくくなり、顔のシミも増えて、白髪を定期的に染めるようになりました。アンチエイジングというのは、人類の一つの夢ですが、ヒトが生き物である限り、加齢による自然な変化は避けられません。
人生100年時代と言われますが、100歳に近づいてゆくごとに、身体は衰え、出来ない事が増えてゆくのは、万人に共通する事だと思います。出来ない事が増える中で、歳を取っても幸せに暮らすために、大事なマインドセットや考え方があるようです。今日はそんな話題です。
娘が「25歳を過ぎてしまった」と嘆くのを聞くと少し驚いてしまう蒼野です。世の中には「老害」とか「劣化」とか、加齢を非難し、否定するような風潮があることは否めません。もちろん加齢と共に死は近づいてきますし、ヨボヨボ歩いている人は、認知機能まで落ちているように感じてしまいます。
しかしこれは認知バイアスの一つです。高齢によって外見が悪くなると、能力が低いと判断されやすくなり、動きが遅いと病気に見えます。ヒトは病気を回避する本能があるため、病気の人とは距離を置きたくなります。虚弱なお年寄りには近づきたくなくなるのです。
誰もが自分がそういう存在にはなりたくありません。アンケートを取ると、自分が高齢者だと思う年齢は、高齢になるにつれて高くなるのだそうです。確かに蒼野は、2~30代の頃は、60代はおじいさんの様な気がしていましたが、いざ自分がなってみると、おじいさんの年齢はまだまだ先で、60代は30代と変わらない様な気がしてしまうのです。
自分が若いと思うことは悪いことではありません。でも出来ない事が増えて、本当に自分が歳を取ったという証拠を突きつけられると、人は落ち込んだり、鬱々したりしやすくなります。転んで骨折しただけで、気持ちが立ち直れずに、リハビリが進まず、そのまま寝たきりになったりするのです。老年期うつというのもよく見かける状態です。
米エール大学の研究で、若い頃から老いを恐れている人ほど短命であるという研究結果が出ています。老いを毎日嘆いて暮らしていると、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が増え、交感神経優位で過ごす時間が増えてしまいます。血圧や心拍数は上がり、血糖も上昇し、動脈硬化が進むため、血管病のリスクが上昇します。免疫力も低下するため、感染症にも弱くなるのです。
老いに対する恐れや嫌悪に囚われることで、老いに対して前向きな人と比べると、寿命が7.5年も短くなります。心を痛めながら、年齢に逆らうアンチエイジングを追求するのではなく、加齢してゆく自分を認めて、加齢のスピードを遅らせ健康維持に努めることが重要なのです。
良い歳の取り方の見本となる様な人についてご紹介します。20世紀最大のピアニストと呼ばれるアルトゥール・ルービンシュタインです。絶対音感を持ち、2歳の時に姉のピアノレッスンを聞いて、即座に再現できたという天才です。13歳の時から交響楽団と共演し、80年にわたって演奏家としてピアノを弾き、95歳で亡くなりました。
流石のルービンシュタインも高齢になると指が動かなくなったそうです。それまでは多くのレパートリーを弾きこなしていましたが、戦略を変更し、レパートリーを厳選して、1曲当たりの練習時間を増やしました。速く弾けない部分は、それまでの部分を遅くしてメリハリを付けることで、コントラストをつけ、抑揚の利いた見事な演奏で晩年まで、人々を魅了したのです。
これは心理学的にも正しい方法です。選択最適化補償と呼ばれ、目標と資源を分析した上で、最適のものを選択し、減った資源を補って目的を達する方法です。難しく書きましたが、要は今できる目標に変更して、自分の出来るスキルの中で、やり切る方法を見つけるという事です。
加齢で出来なくなったのではありませんが、蒼野は事故で複視が残り、大好きだった運転やゴルフが出来なくなりました。数ヶ月は何とかまた出来る様になりたいと、自分でも焦ったり、家族を困らせたりしましたが、そのうちにそれ程、固執する気持ちが無くなってしまいました。
どこに行くのにも公共機関か徒歩になりました。時間は掛かりますが、今はそれが楽しめる様になっています。幸い近くの物なら、メガネを掛けて一つに見える様になったので、読書やパソコン、文章を書いたりすることは出来ます。歳を取っても、脳は鍛えられると信じているので、インプットとアウトプットを繰り返して、脳を死ぬまで良くして行きたいというのが、現在の目標に変わりました。
事故までは、加齢による容姿や体力の衰え、若いときは出来たのに、今出来なくなっていることなどに逆らいたい気持ちは大きかったのですが、事故を経験してから、今の自分を受け入れる事が出来る様になり、これから出来ない事が増えて行っても、心穏やかに過ごしてゆけそうな気持ちになってきました。
もう一度選択最適化補償のやり方を書いておきます。1、今まで出来ていたり、目標にしていたことが出来なくなった。2、どうして出来なくなったのか考える。3、今出来ることを考える。4、何を利用すればできるか考える。5、今出来ることで、何かを利用すればできることを目標に日々を過ごすことにする。
これが出来れば、歳を取ることを嘆く必要はなくなります。好きなことを見つけて目標にしながら、人生を全う出来れば、幸せな人生になると思います。さらに寝たきりになってさえも、幸せであり続けられる方法もあるそうです。蒼野はまだその境地には至りませんが、紹介しておきます。
最近の研究で、単身で寝たきりでも幸福感で満ちあふれている超高齢者が大勢いることがわかってきました。もちろん生涯現役が理想ですが、そうで無くなっても心穏やかに暮らせる人は居られるのです。老年心理学の研究で『老年的超越』というものがあります。
スウェーデンの社会学者、ラルス・トルンスタム教授が大規模調査の結果を踏まえて提唱したもので、若い頃の「物質主義的で合理的な世界観」は加齢と共に変化してゆくそうです。
1、自分自身への関心が薄れ、身体機能の低下や容姿の衰えが気にならなくなります。
2、お金や社会的地位への執着が無くなり、周りのことを大切に考えます。
3、自分の存在が、過去から未来への人類の歴史の一部であり、先祖ともつながっていると感じます。そして死ぬことも怖くなくなります。
ほとんど悟りの世界、仙人が語る話の様ですが、年齢を重ねる程、こういう人が増えてくる傾向にあるのだそうです。「できないならしょうがない」「あるがままに」と現在を受け入れ、自然体で生きる事ができる人は、メンタルも安定し、幸せを感じながら過ごす事が出来るのだそうです。
過去を振り返って、「今まで頑張ってきて、悪くない人生だった」と肯定できる人が老年的超越に至る大切なポイントです。これはまだまだ長くなりそうな老後を幸せに過ごす最終兵器になりそうですね。今の自分を受け入れ、肯定し、毎日できることを頑張った先にある幸せ! 寝たきりになっても、毎日ニコニコ過ごしている爺さんになりたい蒼野でした!
参考記事: 老いを恐れる人ほど短命に? 「ジェロントフォビア」の罠
長生きして幸せになる人たちが持っている トルンスタムの「老年的超越」とは
幸福感が高い人はやっている? 「SOC」で生き方点検 西川 敦子
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