サーチュイン遺伝子とNMNのお話!

2023/02/05

 昨日に引き続いて、今日も抗老化の話を書きたいと思います。抗老化に関係のある経路は、オートファジーの他にサーチュイン遺伝子(長寿遺伝子)というものがあります。アンチエイジングを目指し、老化に関係した病気を遠ざけて、健康長寿を目指すには、こちらも知っておかねばなりません。

 サーチュイン遺伝子が老化と寿命に大きな影響を与えるのが分かったのは2000年のことです。ワシントン大学の今井眞一郎先生が、酵母においてサーチュイン遺伝子が作る酵素が、様々な遺伝子の発現を制御するスイッチであることを発見されました。そしてその酵素活性がエネルギー代謝とも連動していることを突き止めました1)。

 その酵素がNAD+依存性タンパク質脱アセチル化酵素です。NAD+の存在下でサーチュインは、この酵素を使って染色体の遺伝子のスイッチのON-OFFを行ったり、様々なタンパク質を活性化させたりする機能を持っているのです。生命の回数券テロメアの短縮を防ぐのもサーチュインの作用です。しかしNAD+が不足するとこれらの反応は起きにくくなります。

 NAD+(ニコチナミドアデニンジヌクレオチド)は、ミトコンドリアでエネルギーが作られる際に補酵素として働く物質です。ミトコンドリア内では使い回しが出来るため減らずに使うことができます。しかしこれはサーチュインが起こす反応において、減少してゆきます。加齢とともに減少するため、徐々に若い頃と同じような反応が起きにくくなるのです。

 サーチュインとNAD+がどこで反応を起こすのかについても、今井先生のグループが解明しています。2013年に発表された論文では、哺乳類のサーチュイン遺伝子であるSART1(サーティーワン)の機能を脳にだけ特異的に高めたマウスを作り、3~4年観察したところ、老化が遅れ、健康寿命がメスで16.4%、オスで9.1%伸びる事が分かりました2)。

 人間の60歳以上の年齢に当たるマウスでもSART1が活性化したマウスでは、二日間の断食後も動き回って餌を探します。SART1が活性化していないマウスは、動けなくなっていました。自然界で餌が探せなくなるというのは、すなわち死を意味します。SART1が活性化したマウスは若いマウスと同じように、酸素消費量が増え、体温が上がり、身体活動量が増やし、睡眠の質を上げていました。生き延びるために必要な活動を起こしていたのです。

 その後の研究で反応を起こし、骨格筋に命令を出す場所が視床下部であることが判明しました。視床下部でSART1がしっかり働くためには、先ほどのNAD+が必要になります。我々の身体はビタミンB3(ニコチンアミド=ナイアシン)から、NAMPT(ニコチナミド・ホスホリボシルトランスフェラーゼ = ナムピーティ)という酵素を通じてNMN(ニコチンアミド モノヌクレオチドヌクレオチド)を作り、NMNがNAD+に変わります。

 しかし先ほども書いたように、体内のNAD+は加齢と共に低下してしまいます。NAD+の量が老化の引き金となっていると考えられるのです。NAD+が不足しているのなら、それを補えば良いのではないかという事はシンプルに考えられます。NAD+は摂取しても吸収の過程で分解されてしまうため、安定したNMNの形で投与する実験が行われました。

 人間の20代に相当する5カ月齢のマウスに、NMNを1年間飲用させました。人間の60代に相当する17カ月齢のマウスは、飲用しなかった群と比較して、加齢による肥満はなく、インスリン感受性やエネルギー産生は保たれ、活発に動き回り、網膜機能、骨密度、免疫機能が保たれるなど、遺伝子の発現が若いマウスのまま保たれ、顕著な抗老化効果が確認されました3)。

 この論文を機に世界中でNMNの研究が激増しました。数々の検証も行われ、動物レベルであればNMN投与は間違いなく、抗老化作用と老化関連疾患の予防に寄与することが分かったのです。その間にワシントン大学では、世界初の人体での臨床研究が始まりました。

 NAD+欠乏による老化プロセスで一番先に影響を受けるのが、膵臓のβ細胞や脳の神経細胞であることから、糖尿病予備軍で閉経後の肥満女性25人に対して、NMNを1日250mgを内服してもらう臨床試験が行われました。その結果NMN摂取群では、血中のNAD+濃度が上昇し、骨格筋においてのみインスリン感受性が25%上昇し、耐糖能は正常に戻っていました4)。

 ヒトでの抗老化作用の証明は、時間もかかることからまだ証明はされていませんが、期待が持てるのではないかと思います。時系列で研究の結果を見てゆくと、研究者のワクワク感を感じて、蒼野もドキドキしてしまいました。さて今わかる結果をどう生活に取り入れるかが、自分も含め一番重要ですよね!

 一連の研究の中で蒼野が今まではっきり認識していなかった事をいくつかおさらいしてみます。カロリー制限はオートファジーだけではなく、サーチュインも活性化します。視床下部が空腹を感じると、脂肪組織に命令が出て、脂肪組織からNAMPTが放出されます。ビタミンB3からNMNが作られ、NAD+に変わることで、視床下部のSART1を活性化するのです。

 これには健康な内臓脂肪組織が関与します。加齢と共にNAMPTが低下することでNAD+が低下します。痩せ過ぎると内臓脂肪自体がなくなるため、NAMPTが作れなくなります。これが歳を取ったら少し小太りくらいが、長生きしやすいという理由ではないかと考えられているそうです。NAMPTを補給する物質についても現在研究が行われています。

 SART1と筋肉も密接に繋がっています。NAD+でSART1が活性化すると、筋肉のインスリン感受性は上がり、酸素消費も増え、活発に動かせる若い状態に戻ります。筋肉自体の修復も早くなります。NAD+というのはある種のエネルギーの通貨のようなものです。加齢によって衰えるエネルギーや筋肉を補給してくれるようなイメージです。スポーツ選手にもNMNを取り入れている人がいる様です。

 体内時計の主時計がある視床下部がSART1の中枢ということで、NAMPTやNAD+も日内リズムに従って動いています。毎日の24時間のリズムを崩さない生活が老化を遅らせます。1日の始めにNAD+を高くするには、朝しっかりと栄養を入れる事だそうです。理想は朝からディナーの様な食事が良いのです。ここでも『朝は王様のように、昼は貴族のように、夜は貧者のように食べよ』が長寿の秘訣になります。

 NMNは少量ですが食べ物にも含まれます。植物の種子や実などで、枝豆やブロッコリー、アボカド、キュウリ、トマトなどに含有が多めですが100g当たりいずれも1mg以下です。赤血球の中にはもっと多く含まれます。スッポンや蛇の生血を飲んだり、血入りの食べ物というのが世界各地に残っていますが、いずれも精力増強とか長寿と謳われているのは偶然では無さそうです。

 そして気になるサプリメントですが、星の数ほど売られています。今井先生によれば、ヒトが体内で使えるのはβNMNのみで、工業的に作るとαNMNや生体内に存在しない物質が含まれたりするのですが、αNMNや不純物を摂り続けた時のリスクは分かりません。しかしαとβの区別は難しいのです。製造方法が体内で合成する方法の製品であれば安全の様です。もし飲むのなら、βNMNを探しましょう

 経口投与では必要以上のNMNは吸収されないために安全なのですが、最近NMN点滴というのもあります。高濃度のNMNはSARM1というNAD分解酵素を活性化します。実はSARM1が活性化した病態がALS(筋萎縮性側索硬化症)であるという知見があります。NMN点滴を繰り返すことでSARM1の活性が落ちなくなったりすれば大変なことになるため、お勧めできません。

 蒼野が見たところ研究に使われたβNMNは1ヶ月で11万円越えです。飲んでみたいけど、蒼野は現時点では他のアンチエイジング生活を頑張りたいと思います。でもほんとに楽しみですね。少子高齢化社会を救うのは、年を取っても元気で動けること、働けることです。研究が進み、西洋医学が大きくそこに舵を切ってきている時代なのかなと思います。

 すっぽんの血も通販で買えるみたいです。1匹で5000円くらい。1ヶ月続けるとNMNより高いし、生臭いみたいです…(笑) また不老不死のドラキュラの伝説も、NMNの補給から考えたら理屈に合っているなあ、と妄想してしまった蒼野でした!

参考文献) 
1)Transcriptional silencing and longevity protein Sir2 is an NAD-dependent histone deacetylase. ; Nature 403, 795–800 (2000)

2)Sirt1 extends life span and delays aging in mice through the regulation of Nk2 homeobox 1 in the DMH and LH. ; Cell Metab,2013 Sep 3;18(3):416-430.

3)Long-Term Administration of Nicotinamide Mononucleotide Mitigates Age-Associated Physiological Decline in Mice.  ; Cell Metabolism2016 24(6): 1-12

4)Nicotinamide mononucleotide increases muscle insulin sensitivity in prediabetic women. ; Science, 2021.Vol 372, (6547) : 1224-1229

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