スマホで脳は壊れてゆく!?

2023/05/31

 スマホは大人のみならず、子供にとっても必要不可欠のライフラインの一つになっているのが現状です。2020年に出版され、ベストセラーになった「スマホ脳」には、スマホ依存になるメカニズムと、その危険性が指摘されていました。電車に乗っても、誰もがスマホを見ている現代において、一番その影響が心配なのは、子供達であるといいう研究を目にしたので、今日はそれを解説したいと思います。

 東北大学加齢医学研究所は、2010年度より毎年、仙台市教育委員会と共同で、全仙台市立小中学生、約7万人を対象とした大規模調査(学習意欲の科学的研究に関するプロジェクト)を実施しています。標準学力検査の結果と、普段の学習、生活習慣について調べた調査です。2007年に発売されたiPhoneから始まったスマホは、あっという間に広がり、2010年前後には多くの人が手にするようになりました。

 以前のブログでも書きましたが、スマホやSNSなどのアプリは、人類の本能を刺激するようにデザインされています。サバンナに居た人類の脳と、現代の我々の脳はほとんど変化はしていません。当時は獲物の情報や、猛獣の情報、安全な場所などの新しい知識を得ることは、種の保存の可能性を高める物であり、ご褒美としてドーパミンが分泌されるようにできています。

 また他人の情報を得て、うまく協力してゆくことでも、生存の可能性は上がりました。スマホの新しい情報や、SNSでの他人の情報をゲットすると、脳は快楽を感じるようにできています。特に、果実を探していて、偶然発見した時などに、ドーパミンは余計に分泌されます。時に良い情報、面白い情報に巡り会えるスマホを、我々は手放せなくなっているのです。

 スマホには、こういった人間の行動心理を利用したアプリやゲームがふんだんに盛り込まれています。意図的に依存になるように仕向けられている物です。スティーブ・ジョブスやビル・ゲイツも自分の子供には、こういったデバイスは与えず、与えても厳格にスクリーンタイムを制限していたというのは、有名な話です。

 脳の発達を考えると、自分でスマホを制限できるようになるのは、かなり大人になってからです。25歳でようやく自分の衝動にブレーキがかけられるように、前頭葉が発達、成熟してくるのです。しかしドーパミンで快楽を感じる報酬系は、小学生でもすでに機能しています。スクリーンタイムを、大人がコントロールして上げなければ、脳の発育に、大きな影響が出てもおかしくないのです。

 仙台市の大規模データでは、恐ろしい結果が示されていました。2017年の小5~中3までの41000人余りの、国語、算数、理科、社会の偏差値と、スマホやタブレット、インターネット音楽プレーヤー、インターネットゲームを合わせた、スクリーンタイムを調べました。これらの大半はスマホでした。

 スマホを持っていない群の偏差値は51.3、持っていても全く使わない群、「1時間未満」使用群は緩やかに上昇し、「1時間未満」使用群では53点前後まで上昇しピークとなります。その後1~2時間群、2-3時間群、3-4時間群、4時間以上群とスクリーンタイムが長くなるごとに、偏差値は下がってゆき、44程度まで下がっています。単純に考えると、スマホを捨てるだけで、偏差値は10くらいアップすると言えるのです。

 そのメカニズムの一つは、良質な睡眠との関係です。睡眠障害の治療を受ける若者の数は、スマホが無かった2000年に比べると8倍に増えています。寝る前のブルーライトで、良質な睡眠が障害されるというのは、もう皆様もご存知ですよね! 睡眠は90分間隔で、nonREM睡眠+REM睡眠を繰り返しています。記憶は深く眠った後浅くなったREM睡眠の時に、整理されて定着しています。

 ブルーライトで、脳が夜なのに昼間の光の刺激を受けてしまうと、睡眠のリズムが狂ってしまい、記憶が定着しにくくなります。しかも睡眠不足が常習化してしまうと、脳自体に影響が出てきます。平均年齢約11歳の子どもたち、290人の脳の画像と、睡眠時間の関係を調べたところ、睡眠時間が短い子どもたちほど、記憶を保存する海馬の容積が小さいことが判明したそうです。

 もちろん勉強時間が短ければ、成績が悪くてもおかしくありません。そこで勉強時間と睡眠時間とスマホ時間についても、学力との関係を調べています。その結果としては、スマホ時間が1時間を超えない群においては、勉強時間が長く、沢山寝ている子どもほど、偏差値を超える成績が取れていました。しかし睡眠時間が5時間未満であれば、3時間以上勉強していても偏差値を超える成績は取れていません。

 大人でも6時間以下の睡眠時間を5日間続けている人では、一晩徹夜したのと同様の脳機能状態になることがわかっています。それはアルコール濃度が1%程度、ほろ酔いでは済まず、酩酊状態の脳機能と同等なのです。いかに睡眠不足が学力に影響するのかが証明された結果となっています。四通五落は嘘のようです。東大の合格者の平均睡眠時間は8時間だそうです。

 しかしこの傾向は、スマホ時間が長くなるにつれて、成り立たなくなります。スマホ時間が3時間以上の群では、どんなに寝ていても、どんなに長く勉強していても、偏差値50は越えられなくなります。スマホの長時間使用で、睡眠時間が削られたり、勉強する時間がなくなったりすることだけではなく、スマホを長時間眺めること自体が脳に直接の悪影響があることがわかったのです。

 平均年齢11歳の子どもたち223人を、3年間MRI脳画像を追跡してわかった結果は衝撃的です。スマホ時間との関係を調べると、広範囲の脳の発達に、悪影響が見られました。これは発達途上の子供の脳で、初めて証明されたものになります。認知機能を支える前頭前野、記憶や学習に関わる海馬、言葉に関係する領域、感情や報酬を処理する領域などの発達が、遅れてゆくのです。

 スマホ、インターネットを「ほぼ毎日使用する」と回答した子どもたちの脳の発達は、ほとんどゼロに近い数値でした。これは中学校入学のお祝いにスマホを買ってもらって、喜んで毎日使っていたら、脳が発達しないため、小学6年生の頭脳で高校受験を行わなければいけないことを意味しています。タバコを毎日吸っていたら、肺が真っ黒になって、高齢になると酸素ボンベを引いて歩く必要があるような印象です。

 「スマホ脳」でもすでに、多くの研究がスマホ自体が持つリスクを示していました。その後のコロナ禍で、それはさらに加速していると言っても良いと思います。まだスマホが社会に浸透して、たかだか13年です。今後スマホのために、脳が萎縮したとか、脳発達が阻害され、生活できなくなったという方が出てきてもおかしくありません。

 タバコの害が知られていなかった、一世代前では、吸うのが当たり前の世の中だったのと似ているように思います。2018年から始まったスクリーンタイムの表示は、企業が訴えられないように、自己責任であることを主張するためのものでもあるようです。仙台市の教育委員会と東北大学は、子供にスマホ時間は1時間/日以下にするべきだと提唱しています。

 スマホもAIも、便利なものを、今から我々が手放すという選択枝はありません。リスクを知りながら、いかにうまく使いこなし、自分の脳も発達させてゆくかということが、将来人類が絶滅してしまわないために課せられた、我々のミッションのような気がします。

 SNSやメールの処理の時間がもったいないなあ、と感じながらも、ついつい触ってしまう蒼野でした。

参照ページ: スマートフォン・携帯電話の 長時間使用が学力に悪影響を与える! 
 https://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/awardimg/award20150319_01.pdf

学習意欲の科学的研究に関するプロジェクト    リーフレット集
     https://www.sendai-c.ed.jp/~tooricho/pdf/gakushuiyoku.pdf

参照書籍: スマホはどこまで脳を壊すか  榊 浩平  川島 隆太

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