宇宙頭痛と飛行機頭痛

2022/04/07

 今日は皆様の話題の種に、聞いたこともないし、あまり関係ないかもしれない頭痛の話を書いてみます。『宇宙頭痛』なるものがあるのだそうです。地上では全く頭痛が無い宇宙飛行士のうち、71%に、宇宙旅行中の強い頭痛の経験があることが分かりました。

 今までは短い宇宙旅行中の、自覚症状のみである頭痛は、他の人には分からないため、一般的では無かったのですが、2009年に17人の宇宙飛行士(男性16人、女性1人)のうち実に12人が、打ち上げから宇宙滞在・帰還時までの間に、中程度から重度の頭痛を経験していたことが、頭痛学会誌に報告されたため、知られる様になったそうです。

 頭痛が生じやすいのは、離陸の時と、宇宙ステーションで滞在している間です。着陸の時には少ないそうです。離陸時にだけ片頭痛様の拍動性頭痛が起こります。緊張型の重たい頭痛は離陸時にも認められます。宇宙飛行士も離陸の際は緊張し、ストレスが高い状態となることが影響している様です。

 宇宙ステーション滞在中には、診断がつきにくい、非特異的な頭痛が多く見られ、微小重力環境が影響しているのではないかと言われています。宇宙ステーションは、完全に無重力では無く、地球に近いため、地球からの重力の影響が少しある環境になるのです。

 頭部で痛みを感じる部位は、頭皮内の神経や血管、脳を包む硬膜や硬膜血管、脳内血管などです。脳自体には、感じる神経がありませんので、痛みは感じません。血管の痛みは、血管周囲の神経が感知するため、血管が拡張すると痛みとなることがあります。

 言うまでもなく微小重力環境では、地上と違って、身体の血液や髄液などにかかる重力も少なくなります。地上では重力のために、動脈圧や静脈圧、髄液圧などは、頭部で低く、下肢で高くなります。これが宇宙ステーションではほぼ同じ圧力になり、地上に比べて頭部の圧が高くなるのです。

 すると血管が拡張して、周囲の神経を圧迫して痛みを感じたり、髄液圧が上昇して、硬膜にかかる力が強くなり、痛みとなると考えられています。実際宇宙空間では、顔面が腫れやすく、下肢はchicken legと呼ばれるほど細くなる現象が観察されます。

 もう一つの影響因子としては、宇宙ステーション内の二酸化炭素濃度が高いことも、指摘されています。これに伴って血液中の二酸化炭素濃度が増えると、血管が広がりやすくなるため、拡張した血管に圧迫された、血管周囲神経の痛みが出てくるのではないかと言われています。

 頭蓋内圧が上昇する頭痛は、地上では、脳出血とか、大きな脳腫瘍とかの頭痛です。普通ではない痛みであろうことが推測されます。経験者は「じっとしていられないほど強い痛み」と表現しています。もともと頭痛が無い人だったら、きっとびっくりすると思います。

 離陸の際には、ロケットの加速度も加わって、過重力の状態になります。血液の流れが悪くなったり、下肢方向に重力がかかったりすると、脳血流が減少して失神につながるため、水分や塩分の摂取と下肢の圧迫などの準備をする必要がある様です。

 宇宙頭痛の本態は、頭蓋内圧亢進であろうと言われていますが、宇宙飛行士の頭蓋内圧を測る方法は、腰椎穿刺とか、頭蓋内圧センサーを頭蓋骨に穴を開けて、装着するような、侵襲的な方法しかないため、まだ証明はできていません。

 しかし宇宙飛行士の60~70%に視力障害や視力調節障害の症状が出ていて、眼圧が上昇していることから、おそらく頭蓋内圧の亢進によって眼圧亢進や、視神経への圧迫の症状が出てくるものと推測されています。宇宙ステーションに長期に渡って滞在する宇宙飛行士ほど多い症状です。

 宇宙頭痛を起こしやすいかどうかに関しては、地上でもベッドを、頭が下にくるように10度程度、角度を挙上した状態で寝てもらうと、30分くらいすると頭痛を起こす人がかなりいるため、予測に使えるかもしれないと考えられています。

 もっと将来、宇宙旅行が一般的になれば、我々も関係があるかもしれませんが、現時点では前澤友作さんくらいしか、関係がない頭痛だと思います(笑)。でもすでに国際頭痛分類に、記載されているのは面白いですね。『宇宙飛行による頭痛』と記載されていています。

 しかし全てが解明されている訳では無いため、宇宙旅行中の頭痛と言うだけで、特徴とか、診断基準は記載がありません。イーロンマスクさんのスペースXで、火星への移住計画が本格化すれば、多くの人が頭痛に悩む可能性があるかもしれませんね。

 似た様な頭痛に、飛行機頭痛と言うものもあります。片頭痛の方は経験がある方は多いかもしれません。航空機利用者の8.3%に生じる、ある程度有名な頭痛です。蒼野の外来にもキャビンアテンダントさんで、仕事中の頭痛で悩んでおられる方が受診されます。

 特に着陸前に、飛行機が降下し始める時が9割を占めますが、上昇時や水平飛行時にも起こります。前頭部から目の周囲の激痛が特徴的です。気圧が変化する時に、副鼻腔の通気が悪くなっていたりすると、気圧の変化で引っ張られて、三叉神経が刺激されることで起こります。

 圧力の変化に弱い片頭痛の患者様や、鼻炎や蓄膿症(副鼻腔炎)がある人、頭蓋内に嚢胞がある人などに多いと言われています。30分以内に治ることが多い頭痛ですが、初めて経験される方は、痛みが突然で強いため、心配される方も多いです。

 飛行機頭痛の時には、副鼻腔の通気を改善して、気圧差を無くすように、あくびや、唾を飲み込む、耳抜きのように鼻を摘み、口を閉じた状態で呼気の圧をかけるなどで改善する場合があります。前もって着陸態勢に入る、30分前くらいに五苓散を倍量内服しておくと、頭痛になりにくいと言われています。西洋薬では、通常の痛み止めの予防投与となります。

 蒼野は、これから宇宙旅行には行きそうもありませんし、飛行機の頭痛も経験はありません。でも皆様は、知っておけば、もし起こった時に少しでも安心できると思うので、頭の隅に残しておいて貰えると良いのではないかと思っています。

 今日は乗り物頭痛の話でした。宇宙からの地球は、一度見てみたい気がする蒼野でした。

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