突発性難聴の対処法!

2023/04/29

 蒼野の勤めている病院には、高気圧酸素治療ができる大きなタンクがあるため、紹介されてくる突発性難聴の患者様を診る機会があります。元々は耳鼻科の守備範囲なので、担当したことが無かったのですが、知っておく必要があるため、今日は突発性難聴について調べてみることにします。

 突発性難聴とは、ある日突然、片耳に聴力障害が起こる疾患です。来院される方に聞くと、聞こえないだけではなく、耳が詰まった感じや、耳鳴り、眩暈など様々な訴えがあり、人によって発症形式は異なるようです。これは蒼野が初めて知ったのですが、その原因については、仮説があるだけで、実は真実が判明していないようなのです。

 一応有力な説は二つ、ウイルス感染説と血管障害説です。ウイルス説については、内耳にある音を感じる細胞(有毛細胞)や、音を伝える神経(蝸牛神経)などに、ウイルスが感染することで、音の聞こえがおかしくなったり、聞こえなくなったりします。神経につくウイルスとしては、ヘルペスウイルスが一番多いようです。

 もう一つは血流です。突発性難聴は糖尿病に合併しやすい疾患でもあります。内耳の血流が悪くなり、機能低下を起こすものです。血流低下が続き、有毛細胞が死んでしまうと、元に戻らなくなります。蝸牛神経が傷んだ場合も、その程度によっては改善が難しいと言われています。

 ストレスや睡眠不足、過労などに合併しやすいのは、それらによって免疫力が下がって、ウイルス感染を許してしまったり、交感神経優位となって、血管が縮小し、血流が悪くなったりすることが考えられているのです。

 年間の患者数は3~4万人、20~60代に起こりやすく、子供には起こりにくいです。発症すると、完治は1/3、聴力低下などの自覚症状が残る人が1/3、聞こえなくなってしまう人が1/3です。片耳がほとんどですので、日常生活に重大な支障は出にくいとは言え、罹りたくない病気ですよね!

 ウイルス感染や血流障害が、内耳で平衡感覚を司る、前庭神経への影響が出る場合には、めまいをともなってきます。診断してもらうのは、聴力検査ができる、耳鼻科になります。病名からは聞こえない場合と思われるかもしれませんが、軽症の場合には、何月何日、何をしている時に急に聞こえがおかしくなった。耳鳴りがした、耳が詰まった、等という症状で発症しますので、心に留めておいて下さい。

 原因もはっきりしていないこともあって、治療は対症療法しかありません。第一選択はステロイド薬です。神経の回復を促すビタミンB12製剤や、血流改善やく、場合によっては抗ヘルペス薬が使われ、ここに高気圧酸素療法(HBO)も選択肢として入ってきます。

 ステロイド剤は、最も抗炎症作用が強い薬剤でもあり、素早く傷ついた神経や、有毛細胞の炎症を鎮めてくれるため、死んでしまう前の早期に使うのが重要です。1週間以内が理想ですが、少なくとも2週間以内に使う方が、予後が改善します。

 HBOも早期の開始が重要です。傷ついた神経や有毛細胞が血流障害で死ぬ前に、たっぷり酸素が供給できれば、損傷は最小限に留められます。通常ステロイドと併用され、合わせて使った方が改善率が良くなるという論文があります。

 逆に治療開始までの時間が長い人に関しては、症状が残る人が多くなってしまいます。有毛細胞の障害は、時間が経つほど重くなる傾向にあり、だからこそ早く治療を始めなければなりません。もしめまいが主訴で脳外科に来院しても、聴力障害がある場合には、突発性難聴を見逃さないようにしなければと、改めて思いました。

 突発性難聴の全例が高気圧酸素治療を受けているわけではありませんが、日本の研究で、発症後の治療開始が平均で4~5日の症例を、後ろ向きに比較したものがあります。ステロイド群115例とHBO併用群75例で比較すると、症状改善率において、ステロイド群76.5%、HBO併用群89.3%でで有意差がありました。治癒率についてはステロイド群41.7%、HBO併用群44.0%で有意差は出ていません1)。

 蒼野は突発性難聴という病気に関しては、研修医の頃にも、同僚の麻酔科の先生が罹患したりと良く聞く病気の一つとして、知っていました。でもこんなに身近な病気でも、原因がはっきりしておらず、治療法も確定していないというのは、知りませんでした。予防法も、疲れすぎてストレスを溜めないことくらいしかありません。

 知っておいてほしいこととしては、やはり早期の診断と治療開始が、現時点では最も改善率が高くなるという事でしょうか? 今当院に紹介されてくる患者様は、1ヶ月くらい薬でやっているけど、良くならないのでダメ元で、高気圧酸素治療を受けに来たという人が多いのも、問題だなあと思います。残念ながら、30回HBOを受けてもあまり変わらない人の方が多い印象です。

 聞こえないとか、我慢できにくいような重症の症状であれば、それが残ってしまうデメリットを考えると、最善の治療として、早期からステロイド+高気圧酸素治療をやってあげたいと思います。タイムリミットがある治療ですから、できれば1週間以内に、診断して、治療の希望を聞いてから方針を決めるのが良いと思いました。

 急に耳の調子が悪くなった時には、早めに診断してもらい、希望する治療を受けることをお勧めします。早期であれば10回のHBOで良いので、併用されてみてはいかがでしょうか? 今日はまた一つ説明できる病気が増えた蒼野でした。

1)突発性難聴に対する高気圧酸素療法の有用性 ー二施設間前向き比較試験ー 耳鼻と臨床 62巻 1号 1-10

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