皆様はほとんどの人が慣れ親しんでいる日常の中に、タバコ並みに健康に悪いものがあるのをご存知でしょうか?それはテレビを見ることです。1日あたりのテレビ視聴時間が6時間を超えると、推定余命がほぼ5年程度短縮する可能性があるという研究が発表されています。情報が多いので今日明日でテレビの話を書きたいと思います。
これはBritish Journal of Sports Medicineのオンライン版で、オーストリア国民健康調査のデータから推定された結論の様です。25歳以上の成人1万1000人以上の検診データに、週に何時間テレビを見たかという項目が入っていました。このうち1日6時間以上視聴する人は1%、最長9年間のフォロー中の全死亡との関係を解析しています。
その結果、テレビ視聴時間が1時間増えるごとに、成人の平均余命は22分減少することが分かりました。比較してみると、タバコを1本吸うと50歳以降の平均余命は11分短縮するとの試算があり、テレビを30分見るのはタバコを1本吸うのと同じくらい身体に悪いということになります1)。
研究者の分析では、50歳以上の人ではテレビの長時間の視聴が、身体活動や運動の不足、肥満などと同様に、心疾患などの重大な危険因子になるためではないかと推察されています。テレビを視聴しない人では統計的に、男性で1.8年、女性で1.5年平均余命が長くなるということもわかりました。
二つ目はアメリカの論文です。米国の成人3,592人の行動パターンと心疾患の発症や予後を調査しています。約1/3は1日に4時間以上テレビの前に座って視聴、他の1/3は1日に2~4時間はテレビの前に座って過ごし、残りの1/3はテレビの視聴時間が2時間未満でした。
長時間テレビ視聴している人は、非活動的で、過体重、喫煙者、大量飲酒者、低賃金、不健康な食事をする傾向にあるといった特徴もあり、多くの人に高血圧を認めました。平均8.4年間の観察で、205人が亡くなり、129人に心臓発作や脳梗塞などのイベントが発生しました。4時間以上テレビを見る人は、2時間未満の人たちと比べて、死亡または心血管イベントが発生する可能性が49%高かったことが分かりました2)。
また長時間テレビを見る年配の人は、言葉を記憶する力が低下していたという研究もあります。英国の50歳以上の男女計約3600人(平均67.1歳)に単語記憶テストを行いました。6年間の間隔をあけて2回実施したところ、年齢や喫煙などの因子を調整した後でも、テレビを3.5時間以上見ていた群は、それ以下の群に比べて有意にテストの成績が下がっていました3)。
蒼野も子供の頃、テレビばっかり見ていると馬鹿になるよ!と言われたことを思い出します。長時間のテレビ視聴は身体にも脳にも悪そうです。コロナ禍になりおうち時間が増えたここ数年、日本人のテレビの視聴時間はどうなっているのでしょうか?
総務省のページによると、2020年度では、傾向としてインターネット時間が平均168.4分と増え、テレビ視聴時間の163.2分を上回った様です。しかし年代別に見てゆくと、認知症や、運動不足による健康への影響が出やすい年代、50代以降では、テレビがまだ多くの時間を奪っています。
平日で50代は213分、60代は266分、70代以上は328分です。土曜日は50代は252分、60代は319分、70代以上は353分です。日曜日は50代は254分、60代は301分、70代以上は349分と高齢になるにつれてテレビの視聴時間は長くなり、平均で6時間に近くなっているのです4)。
仕事も引退し、自宅に居てすることと言えば、テレビになってしまうのは理解できます。しかしテレビは、我々の健康に重大な影響を与えることを認識しておく必要があります。テレビは受け身の娯楽です。情報のインプットしか行われないために、前頭前野は働きません。蒼野が診てきた認知症の患者様も、家ではずっと座ってテレビを見ている人ばかりでした。
寝たきりになるフレイルやサルコペニアを助長するのもテレビ視聴です。座っているとほとんど筋肉を動かしません。筋肉が落ちてしまえば、転倒リスクも増しますし、骨折で寝たきりになる確率も増えてしまいます。下肢を動かさないことで、深部静脈に血栓が形成され、エコノミークラス症候群(肺塞栓症)を起こす可能性も高まります。突然死することだってあるのです。
また加齢により耳が遠くなっているために、長時間大きな音でテレビを見ることも、難聴をさらに進めてしまうことになります。ヘッドフォンや、近くに置いたワイヤレススピーカーなどを使うことでも、聴覚の神経細胞に強い負荷がかかります。難聴は認知症の大きなリスクです。
日本は世界一の超高齢化社会であると同時に、世界一座る時間が長い民族です。座り過ぎの害については以前のブログにも書いたことがありますが、シドニー大学の研究では、世界20カ国の成人の座位時間を調べたところ、日本人が最長で1日420分=7時間も座っていました5)。世界の平均は5時間です。
さらに典型的な日本人のデスクワーカーを考えてみると、仕事中に6~7時間、会社を出てからも自宅でテレビやスマホ、パソコンなどを触ってさらに2~3時間、平均的に見ても9時間は座っていることになります。
座りすぎは肥満や糖尿病に限らず、高血圧症や心筋梗塞、脳梗塞、がんなどの病気も誘発し、死亡リスクを上げることが、研究でわかってきており、座りすぎによって大腸がんは30%、乳がんは17%も罹患リスクが上がるというデータがあったり、総死亡リスクについても、座位時間が4時間未満の人に比べると、8~11時間の人だと15%増、11時間以上だと40%増えるというデータが出ています。そしてこのパーセンテージは、WHOが推奨する1日30分以上のウォーキングやランニングなどの運動を週5日実施していても、相殺できないことも判明しているのです6)。
さあ対処法です。思い切ってテレビを押入れに入れ込むというのは、根本的な解決法ではありますが、なかなか踏み切れないかもしれません。座り続ける害に関しては、CMの度に立ち上がって爪先立ちになるとか、座っていても踵挙げを心掛けるとか、時には立ったまま見るなどが良いと思います。
目的もなくぼーっと見ているのは脳にとって良くありません。刺激のある番組、スポーツの試合とか、感動したりドキドキしたりする映画、思い切り笑える「笑点」や落語などは、脳内物質が分泌され、脳を活性化するので良い番組です。
誰かと一緒におしゃべりしながら見たり、一緒に歌いながら見るのも良いと思います。録画して見たい番組だけに絞って見るのが良いでしょう! テレビだけでなく想像力が掻き立てられるラジオを聴くというのも、脳を活性化する生活になります。
なんとなくインプットしているだけでは脳は使われないのですね。テレビもアウトプット前提で番組を選ぶのが良いと思います。明日はテレビの報道内容にも問題があるというお話を、書いて見たいと思います。テレビの本質を理解して、うまく付き合えると良いですね!
参考文献:
1)Daily TV quota of six hours could shorten life expectancy by five years. ; BMJ-British Medical Journal. published online August 16, 2011
2)Types of Sedentary Behavior and Risk of Cardiovascular Events and Mortality in Blacks: The Jackson Heart Study. ; Journal of the American Heart Association Vol.8 (13) 2019
3)Television viewing and cognitive decline in older age: findings from the English Longitudinal Study of Ageing. ; Scientific Reports Vol.9 (2851) 2019
4)NHK 国民生活時間調査 https://www.nhk.or.jp/bunken/yoron-jikan/
5)The descriptive epidemiology of sitting. A 20-country comparison using the International Physical Activity Questionnaire (IPAQ). ; Am J Prev Med. 2011 41(2):228-35.
6)Sitting time and all-cause mortality risk in 222 497 Australian adults. Arch Intern Med. 2012 Mar 26;172(6):494-500.
参考書籍:テレビを捨てて健康長寿 ボケずに80歳の壁を越える方法 和田 秀樹
過去ブログ:
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