当帰芍薬散!

2021/12/24

 寒い日が続く時には身体を内側から温めると免疫力が上がります。今日は身体を温める薬について書きたいと思います。体を温める薬は西洋薬にはありません。蒼野の大好きな漢方には、体内の熱産生能を上げる反応に、働きかけるものがいくつもあります。

 今日は、片頭痛に使ってみた時に、意外にこれだけで頭痛が起こらなくなった経験がある、蒼野お気に入りの『当帰芍薬散』について書いてみます。冷え性の女性に喜んでいただける漢方です。

 『当帰芍薬散』について解説する前に、漢方の基本的な考え方を、おさらいしておきたいと思います。西洋医学は、病気には原因があって、それを薬でやっつけたり、手術で除去したりすれば治るという考え方です。

 一方漢方は、患者の個性を重視し、患者が今どんな状態なのかを『気 血 水』とか『虚証 実証』といった状態に当てはめて、判断します。そして、その状態が健康な状態から外れているところを、補って元の良い状態に近づけていけば、健康が取り戻せるという考え方なのです。つまり冷えていたら温めるという薬が存在するのです。

 生きていくのに必要なエネルギーが『気』です。バイタリティとか、ミトコンドリアの数とかのイメージでしょうか? エネルギーは四肢抹消まで、滞りなく流れなくてはいけません。通常、気は上から下へ流れ、中心から四肢の末端に流れる、と考えられています。

 エネルギー不足の状態が『気虚』、流れが悪くなった状態が『気鬱』『気滞』、気の流れが逆行すると『気逆』という状態で、それぞれを治す漢方が存在します。

 血はまさに血液のイメージで、適度な濃さで、全身を滞りなく流れている必要があります。血が不足して、流れる量が減った状態が『血虚』、ドロドロになって抹消での循環が悪くなった状態が『瘀血(おけつ)』という状態です。

 水は体の6~7割を構成する、水分のバランスを指しています。水分バランスが悪くなった状態を『水滞』と言い、身体の中で必要な部分に水が足らなかったり、余っていたりするのです。これを改善する漢方もあるのです。

 虚証は、気も血も乏しく、水分が滞って多くなっている状態で、体が冷えてきます。痩せ型で、免疫力の乏しい、体力、筋肉のないタイプです。加齢によって増えてきます。一方実証は、若く元気な人に多く、暑がりで、体格が良く、免疫力も強く、体力、筋力があるタイプです。漢方には同じ症状であっても、虚証と実証に使う薬は、異なるのです。

 少し分かりにくかったでしょうか? 要約すると、気が不足していれば補い、流れが悪くなっていれば、正常な流れに戻す。血が不足していれば補い、流れが悪くなっていれば、循環を改善する。水が滞っていれば、余分な水は排出するし、不足しているところには補うといったアプローチをすることで、身体を本来の健康な状態に近づけてゆく医療が、漢方薬なのです。

 ある意味、自然治癒力を高める薬が、揃っているとも言えます。さて今の考え方で『当帰芍薬散』を考えてみましょう。この漢方は血虚、水毒に対する薬です。血虚には瘀血を伴っていることも多く、駆瘀血剤にも分類されています。対象となる証は虚証です。

 具体的には、『当芍美人』と言われる、竹久夢二が描く日本美人のような人に合う、とされている漢方です。血虚のため痩せており、貧血気味の、元気のない気だるい雰囲気です。瘀血のため、肩こりが強く、骨盤内の微小循環障害から、月経困難や生理不順などが起こりやすいです。水毒もあるため、四肢抹消は冷えて、浮腫んでいます。水毒でめまいや下痢なども起こしやすいです。

 例えば症例を挙げると、24歳女性、痩せ型で冷えがあり下痢することも多い。高校生の頃から頭痛持ち、拍動性のこめかみ痛が多く、数時間から数日持続する。頭痛が起こる前に目の前がチカチカする。頭痛は月経2日前くらいから強くなり、月経3日目くらいから軽減することが多い。月経中は顔面や足が浮腫み、月経痛にも鎮痛剤が必要である などという患者さんが来たら、蒼野は、『当帰芍薬散』を処方したくなります。

 漢方は粉が苦手で飲めない人もいるので、大丈夫かどうか聞いてから処方します。患者様の個性の判別を、漢方的には『証』と言いますが、症例のような方は、まさに『当帰芍薬散』の証です。鍵と鍵穴のように『証』が合う漢方を処方すると、その1剤だけで、冷えや頭痛、月経困難や下痢、浮腫みなどが全部治ってしまったりするのです。

 いろいろ話を聞いて、お腹を触って(腹診)、考えて漢方を処方し、次の受診の時に、改善していた時の喜びはたまりません。『よかったですね』と言いながら、心の中でガッツポーズです。これが西洋薬だと、冷えは治せず、頭痛には鎮痛剤、月経困難にはピル、下痢には止痢剤、浮腫みには利尿剤を使わなければいけなかったりするのです。その副作用を考えても、自分の娘と同じ歳の娘に、そんなに薬が出したいか?と言われたら、蒼野は出したくないのです。

 漢方の醍醐味を、少しでも理解していただければ嬉しいです。健康の基本は生活習慣です。でもどうしても無理したりして、調子が悪くなった時には、漢方で、身体が正常な状態に戻るのをサポートしてあげたいなあと思っています。これがまた、あまりに患者様が多かったりすると、時間がなくてできないのがジレンマです。

 『当帰芍薬散』は薬局でも買えます。元気が出る人参を配合した、『ルビーナめぐり』とか『当帰芍薬散』という名前でも売られています。末端冷え性や肩こり、貧血、動悸などがあって、むくみが気になる方、月経が辛い方、下痢気味の方、片頭痛の方などは、試してみる価値があると思います。

 ちなみに蒼野の妹は、これを飲んで子供ができたと言っていました。女性の万能薬とも言われている、女性三大漢方の一つになります。

 これからも、奥が深く、興味深い漢方薬について、勉強してゆきたいと思っている蒼野でした。