同じ生活のまま身体を鍛える方法!

2023/04/27

 昨日、70歳になっても、歩行速度が若者並みに速いことが、健康長寿の大きな予測因子になることを書きました。そして中年期からの運動習慣が、その基礎になるため、毎日楽しんで歩くことをお勧めしました。今日はせっかく運動するなら、最大効率を目指そうという話を書きたいと思います。

 面白い論文を読みました。7つのホテルで働く84人の女性部屋係の健康調査を行い、生活習慣が偏らないように、二つのグループに分けました。一方には、今の仕事で身体を動かすことが、身体にとって、すごく良い影響がある運動の条件を満たしていることを、理解できるまで詳細に伝えました。もう一方に情報は与えませんでした。どちらもそのまま、生活スタイルは変えずに4週間過ごしてもらいました。

 4週間後に健康調査を再検すると、情報提供されたグループは、コントロールグループと比較して、体重、血圧、体脂肪率、ウエスト・ヒップ比率、体重指数などが減少し、健康的な値に近づいていました。2グループの仕事量や、生活習慣は同様であるにも関わらず、差が出ていたのです。同じ運動をしていても、それを意識することで、実際に身体に与える影響が変化することが示唆されました1)。2グループの違いは意識だけなのです。

 これはいわゆる「プラシーボ効果」であり、運動の時の『意識性の原則』と呼ばれるものになります。これはトレーニング時の、意識の持ち方によってその効果が変わるということです。ただ闇雲に運動するのではなく、運動の内容、目的、意義をよく理解し、積極的に取り組むことが重要であることを示しています。

 せっかく身体を鍛えて、歩行速度を若い時と同じように保つために運動を行うのであれば、意識する部分を知り、マインドセットをきちんと行わなければ、もったいないと思いました。それでは、すでに足が弱ってきている人(多くの現代人?)が、早く歩くために必要なトレーニングについて説明しておきます。

 筋肉が無くなってきていて、足腰が弱ってきている人は、転倒リスクがあるまま、歩行練習を繰り返すのではなく、筋肉をつけるトレーニングを行うのが有効です。太ももやふくらはぎ、お尻などの筋肉を鍛える筋トレを生活に取り入れましょう。効果的に筋肉を大きくするためには、鍛えている筋肉がどこにあって、どういう役割で、どんな風な動きに役立つのかを意識しましょう。

 これを「内的意識」(内部フォーカス)と言います。筋肉を大きく育てるには内的意識が重要です。下肢の筋力低下は、太ももの前面から起こりやすいので、椅子からの立ち上がりや、階段を登るときなどに、太ももの前を意識しましょう。意識することで、効果的に筋肉を鍛えることができる理由は、マインド・マッスル・コネクション(MMC)と呼ばれています。

 意識して筋肉を使うと、脳から筋肉への神経伝達が向上し、同じ負荷でも、筋肉への刺激が強くなります。また特定の筋肉を意識すると、同じ動きをする関連筋の活動分散を抑制し、目的の筋が効果的に鍛えられます。筋トレ中の適切な姿勢やフォームも維持しやすくなるのです。太ももの前とか後ろ、ふくらはぎ、お尻などを意識して、その部分の筋肉に効く運動を行いましょう。

 筋肉はやればやっただけ鍛えられます。「筋肉は嘘はつかない」というのはよく言われる言葉です。意識してだんだん大きくなってきたり、強くなったりすると嬉しいですよね。ドーパミンが分泌され、やる気が起こり続けるため、運動が続けやすくなります。

 もちろん、筋肉にフォーカスして鍛えるのと同時に、歩く練習も進めましょう。普段歩く時の意識を変えるだけなのです。まずは正しい姿勢です。背筋を伸ばし、肩をリラックスさせ、顔は前を向けて、足元よりも少し遠くを見ましょう。足元も、少し遠くも視界に入れて歩くことで、危険を避けやすくなります。

 しっかり腕を前後にスイングさせると、歩行時のエネルギー効率が上がり、下肢筋力をサポートしてくれますので、より速く歩けます。足の運び方は、躓かないように、足を少し上げて踏み出し、かかとから着地、つま先に体重を移ししっかり蹴ることを意識すると早く歩けます。腹式呼吸も大事です。しっかり息を吸いこむことで、筋肉にしっかり酸素が補給されます。

 人間の意識は一つにしか向かないため、一つ一つ意識しながら、歩行を繰り返しましょう。繰り返すほど、神経の筋肉制御が発達し、よりスムーズに運動できるようになります。歩けるようになったら、自分の体力に合わせて、少し脈が早くなる程度まで、ペースを上げてみましょう。怪我を防ぐためには、ウォームアップとクールダウンも大切です。運動前後にストレッチや軽いジャンプなどで、筋肉の柔軟性を保ちましょう。

 何歳からでも、身体は鍛えれば、強くなり筋肉もついてきます。しかし原則を無視したやり方では効果が上がりません。トレーニングの3原理と5原則については、頭に入れて意識しておきましょう。

トレーニングの3原理

1、過負荷の原理: 

 今までできていたことよりも、少しだけ負荷を上げることで、筋力が増し、筋肉が大きくなります。もちろん同じスピードでも回数や時間を増やす事でも負荷は上がります。息が上がらなくなったら、少しきついなと思う程度に、増やしてキープしましょう。

2、特異性の原理:

 トレーニングを行なった筋肉が強くなります。動かさなかった部分は変わらないか、使わなければむしろ弱くなってしまいます。下肢の筋肉を鍛えたら、下肢が強くなり、上肢は変わらないという事です。

3、可逆性の原理:

 大事なのは続ける事です。昨日も書いたように2週間ベッドで過ごすと、加齢で失われる1年分の筋肉が失われます。筋肉がついて、早く歩けるようになっても、安心してやめてしまうと、元に戻ることは、心に留めておきましょう。人間も動物なので、一生動き続けることが必要です。歩けなくなった動物は死んでしまうのですから。

トレーニングの5つの原則

1、全面性の原則:

 全身をバランスよく鍛えましょう。極端な例では、太ももやふくらはぎだけを鍛え続けても、速く歩けません。有酸素運動、筋力トレーニング、柔軟性、運動神経など、全てを衰えさせないことが必要です。怪我をしないためにも、偏らないように動かしてください。

2、個別性の原則:

 万人に良いというトレーニング法は、実はありません。年齢、性別、体力、生活環境、習慣、性格、運動の嗜好など、人によって様々ですので、出来ることを続けるのが重要です。

3、意識性の原則:

 せっかく運動するのなら、意識を色々なところに向けて運動してみましょう。自分の筋肉に注目したり、動きに注目したり、姿勢に注目したりしながら、早足が上手になりましょう。取り組んでいる運動の内容、目的、意義をよく理解すると、同じ運動でも変化は大きくなります。

4、漸進性の原則:

 コツコツ続けていれば、少しずつレベルアップしますということです。特に中高年では、怪我をしないように少しずつレベルアップしましょう。歩数計や脈拍数、距離などでモニターしながら、自分の成長を記録し、モチベーションを高めましょう。

5、反復性の原則:

 運動は繰り返すほど、神経のコントロールも良くなり、動きが洗練されてきます。せめて週3回くらい歩けると良いですね。週2回はちょこっとで良いので筋トレしましょう。元気なうちに早足で歩く習慣をつけてしまうことが健康寿命を延ばしてくれます。

 意識やマインドセットが、健康にも、自分の成長にも、何を行うにも、最初に必要なことなのだなあ、と実感します。これからも楽しんで身体を変えて行きたいと思う蒼野でした。

参考文献:
1)Mind-set Matters: Exercise and the Placebo Effect. ; 2007 Psychological Science 18,(2): 165-171.

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