双子研究は興味深い!

2023/04/10

 蒼野が最近知った知識で、面白いなあと思っているのが遺伝子です。我々は両親から、半分ずつ遺伝子をもらい、それに環境や経験などの影響が絡み合って、今の能力や状態を決めています。加齢によっても遺伝子の発現のスイッチが、少しずつ老人型に変化してゆき、先日書いたように、人間という種の存続と繁栄のために死んでゆくのだなあと思います。

 双子研究という研究ジャンルがあります。1卵生双生児と、2卵生双生児の、特定の特性や病気に関して、遺伝要因と環境要因がそれぞれどのくらいの影響を与えているのかを調べる方法です。研究は20世紀初頭に始まり、半ば辺りから広く認知され発展しました。多くの人が関心を持つようになった「ジム・ツインズ」の話は、とても興味深いものでした。

 アメリカのオハイオ州で育った一卵生双生児の兄弟がジムツインズです。1940年に生後3週間で別々の家に養子の出され、39歳の時に初めて再開しました。お互いの存在さえ知らず、全く別々の環境であったにも関わらず、二人は本当に驚くほど、似た人生を歩んでいました。

 2人は偶然にも、養父母に「ジェームズ』と名付けられました。二人が飼った愛犬の名前は同じく「トイ」。子供時代は二人とも、数学と木工が得意で、つづりが苦手でした。二人が結婚した女性の名前は「リンダ」、二人とも離婚し、再婚の相手の名前は「ベティ」。二人とも片頭痛持ちで爪を噛む癖があり、ヘビースモーカー。タバコは同じ「セーラム」でした。同じ色のシボレーに乗り、仕事は警備員と副保安官というセキュリティ関係の仕事を行いました。休暇も同じフロリダビーチで過ごしたそうです。

 蒼野はビックリして、あんぐりしてしまいました。全く同じ遺伝子の二人が、環境が違う家庭に育って、ここまで類似しているというのは驚きです。ジム・ツインズのストーリーは遺伝と環境の影響に関する研究の重要性を、再認識させるきっかけとなり、双生児法を用いた研究に対する関心がさらに高まることにつながりました。

 多くの双子研究の結果、遺伝子が全く同じ一卵生双生児は、一般知能は大人になるにつれて8割方が類似し、科目別の学業成績も、小学校時点では8~9割が類似します。特に音楽や数学、スポーツにおいては9割前後の類似性が認められます。しかし、性格やパーソナリティの類似は5割以下です。嗜好については喫煙や大麻、マリファナは8割前後、青年期の反社会性も8割に類似性が認められます。

 双生児法は、簡単に説明すると、全く同じ遺伝情報を持つ1卵生双生児と、半分くらい同じ遺伝情報を持つ2卵生双生児について、特定の特徴について、どのくらい似ているかについて観察します。一卵性で特徴が一致する確率は、遺伝(X)+共有環境(Y)の影響です。一方2卵生が一致する確率は遺伝(X)/2+共有環境(Y)です。一卵性と2卵生のある分野における一致率がそれぞれ分かれば、X+Y=何%とX/2+Y=何%という連立方程式が成立するのです。

 これを解くことでX=遺伝とY=共有環境の影響の数値が算出されます。非共有環境の影響は1ー(X+Y)で算出されます。日本でもこの研究は行われています。この研究によって、勉強やスポーツ、音楽、性格、感情、嗜好などにおける遺伝と環境の関係が分かっています。1)。環境の影響も、同じ家庭や同じ学校のような共有する環境と、個人の友達やそれぞれの経験といった非共有環境の影響が算出できます。

 さて注目の結果ですが、学力については、遺伝の影響が半分近くありますが、共有環境による影響も小さくありません。共有環境とは学校や、先生の影響が大きいと言うことです。良い学校に入れたくなるのも無理はないことでしょうか? しかしこれを一般知能(IQ)に限れば、成長すればするほど、遺伝の影響が大きくなっています。

 性格、パーソナリティに関しても、遺伝の影響が半分ほど認められます。親に似た性格というのは、よく見られますよね!しかし残りの半分は、個人的な友達付き合いや経験などの、個人的な環境です。良い友達のいる環境や経験はとても重要のようです。

 いわゆる才能、スポーツや芸術などへの、遺伝の影響の割合は8割近くあります。これはちょっとショッキングな真実かも知れません。同じ才能でも、チェスや美術、記憶や知識は遺伝の影響が6割近くです。努力によって、ある程度カバーは可能だということです。

 メンタルについてはどうでしょうか? これには遺伝の影響は少なくなり、非共有環境の影響が大きいです。自己肯定感(7割)や一般的な信頼(6.5割)、うつ傾向(6割)は友人や経験などの個人的な環境に影響されます。環境を変えれば自己肯定感や信頼感が増し、鬱々しなくなる可能性が高まります。

 これらから導き出される原則は3つあります。(行動遺伝学の3原則 Turkheimer. 2000)

1、人の行動特性は全て遺伝的である。

2、同じ家族や環境などで育てられた影響は遺伝子の影響よりは小さい。

3、複雑な人の行動特性のばらつきの、かなりの部分が、遺伝子や家族では説明できない。

 しかし、遺伝が全てではありません。また同じ遺伝子でも、実際に発現している遺伝子は、3%程度なのだそうです。つまり使われていないまま眠っている遺伝子が97%もあるということです。基本に立ち戻ると、遺伝子とはすなわちDNAです。我々の身体の約37兆個の細胞の核の中に、同じDNAがそれぞれ入っています。

 精子と卵子が一つになって出来た一個の細胞が分裂し、細胞の中のDNAの一部が翻訳されることで、皮膚の細胞になったり、心臓の細胞になったり、脳の細胞になったりして我々が作られます。同じDNAでも、その中の遺伝子のスイッチがONになったり、OFFになったりする事で、別々の全く違う細胞に変化するという事なのです。

 生まれてきてからも、この遺伝子のONーOFFは常に行われています。若い間はONになっていた遺伝子が、加齢とともにOFFになると、老化が進みます。逆に若い間にはOFFとなっていた遺伝子がONとなって活性化する事で、癌ができたりすると考えられています。遺伝子の発現=ON-OFFに影響しているのが、エピジェネティックな修飾と言われるものになります。これが複雑な人の行動特性のばらつきの本質です。

 つまり、例えて言うなら、我々が両親から受け継いだ遺伝子は、トランプで配られるカードのような物になります。エピジェネティックな修飾は、カードを引いて、手札を入れ替えるようなイメージです。最初はあまりパッとしないカードだったとしても、良い入れ替えを行なってゆけば、凄い上がり手に変わる可能性があるのです。

 長くなって来たので、エピジェネティックな修飾についての話は明日、改めて書きたいと思います。一人の遺伝子が持つ情報量は、1ページに千字ある千ページの本で約三千冊分だそうです。その情報はどんな人でも99.9%同じなのです。我々に発現している遺伝情報は、その中で最初に開かれているページです。エピジェネティックに別のページをめくれば、他の人が出来ていることで、出来ないことは無いと思いませんか?

 明日は『エピジェネティックな修飾を自分で変化させる方法』について、書こうと思います。本当に人間って面白いなあと、改めて感動している蒼野でした!

参考文献: 
1)行動の遺伝学-ふたご研究のエビデンスから  安藤 寿康  日本生理人類学会誌 Vol.22,No.2  2017, 5 107 – 112

参考書籍: 生命(いのち)のバカ力(ぢから)  村上 和雄

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