尿路結石の対処法!

2023/10/17

 今日は尿路結石に関する興味深い論文を見たので、紹介したいと思います。2018年にイグノーベル医学賞を受賞した研究です。アメリカのディズニーランドで、ビッグサンダーマウンテンに乗ると、尿路結石が出てきた治ったと自慢する人が多いという話を聞いて、実験が行われたそうです。

 ミシガン州立大学の研究グループは、実際の患者さんから排出された大きさの異なる尿路結石を、シリコンで作った腎臓の模型に入れてバックパックで背負った状態で、大きさ毎に20回ずつ、ビッグサンダーマウンテンに乗りこみ、排出されるかどうか実験したそうです1)。

 その結果、先頭座席では排石率が12.5%前後でしたが、最後部では63.9%の結石が排出されたとのことです。結石の大きさが5mm以上になると、激痛で手術が必要になったりするのですが、それより小さな石は、定期的にジェットコースターに乗るだけで排出できるという結論です。これは尿路結石がある方にとっては朗報ですよね!

 脳外科医の蒼野でも、救急の当直をしていると、突然の背部痛で運ばれてくる患者様で、尿管結石の方をしばしば経験しています。近年食生活の変化もあって、日本の尿路結石症の罹患率は、年々増加してきているようです。それでは知識を整理するためにも、尿管結石について説明してみます。

 尿路結石症全国疫学調査では、生涯罹患率は男性では7人に1人、女性では15人に1人と、けっこうな頻度です。再発率が5年で45%、10年で60%と高いことも特徴です。男女比は2.2:1と男性に多い疾患です。好発年齢は男性では40歳代、女性では50歳代です。世界的にも患者数は増えてきており、1965年の3倍に増えています。

 季節とも関係しており、外気温が尿路結石の発生に関係します。日本では7~9月に多く、10月には減少します。肥満、糖尿病、高血圧といった生活習慣病と関係しており、尿路結石はメタボリックシンドロームの一疾患とも考えられています。中でも肥満との関係は強く、インスリン抵抗性が上昇すると、尿のPHが下がるため、石ができやすくなります。

 ある日突然、結石が尿管に詰まって尿路を塞ぐと、片側の背部に激痛(腎疝痛)が生じます。行き場のなくなった尿が、腎臓を押し広げ、尿管が攣縮するため痛みが起こるのです。悪心・嘔吐を併発することもあります。肉眼的~顕微鏡的血尿を認め、最初にエコーで石を確認すると診断がつきます。

 発作時にはまず痛み止め(NSAIDs)を使いますが、腎機能が悪くなっていると、悪影響があるため注意が必要です。漢方の芍薬甘草湯も、尿管の攣縮を抑え痛みを和らげます。この状態になると、さすがにビッグサンダーマウンテンには乗れません。結石の大きさや、結石が詰まった位置と、臨床症状によって治療は異なってきます。

 長径10mm未満の尿管結石の多くは、自然に排石される可能性があります。痛みがコントロールできれば時間を待つのも治療の選択肢になります。結石の自然排出の確率は、1mm以下が 87%、2-4mmが76%、5ー7mmが60%、8mm以上が39%です。また石が詰まった位置が尿管の下部になる程、排出されやすくなります。

 1ヶ月以上排出されない場合や10mmを超える場合は、腎機能低下や感染が起こりやすくもなるため、手術治療の対象となります。有名なものは体外衝撃波結石破砕術(ESWL)です。麻酔無しで日帰りでできる手術で、安全で痛みの少ない手術法です。すべての位置の結石が治療対象となります。ただ他の治療よりも石が残りやすく再発率が高いのが玉に瑕です。

 硬くて、大きな結石は経尿道的結石破砕術(TUL)の適応になることがあります。優れた視野と屈曲角を持つ細径の軟性尿管鏡が開発され、結石を破砕するレーザー装置が開発され、結石の除去に関する成績は、ESWLを凌駕しています。しかし経験や技術は必要で、全身麻酔や1週間程度の入院が必要であることもあり、治療施設は選ぶ必要があります。

 それでも取れない大きな結石に関しては、経皮的腎砕石術(PNL)で除去することがあります。この方法は、背中に小さな切開を入れ、トンネルを作成して腎盂鏡(内視鏡の一種)を挿入し、レーザーを用いて結石を砕いて破片を回収します。患者様の負担は大きい治療です。

 尿路結石の成分は様々です。最も多いのはシュウ酸カルシウム結石です。金平糖のようにギザギザなので尿管に引っかかりやすいです。リン酸カルシウム結石や尿酸結石、シスチン結石や、腎臓でサンゴ状になるリン酸マグネシウムアンモニウム結石などの種類があります。カルシウム結石が90%を超えます2)。

 これらの成分が、結晶化して石にならないように、生活習慣を整えることが、尿路結石の予防になります。まずは水分摂取です。一般的には1日2000ml以上、食事以外に水を飲むことが勧められています。尿が薄くなりどんな結晶も出来にくくなります。指標になるのは尿の色です。透明または淡黄色の尿を目指しましょう。

 カルシウム結石は、結石の多くを占めます。尿中のカルシウム濃度を高めないことが必要です。塩分摂取が多いと、尿中に塩分排出が促されます。この時に一緒にカルシウムの排出も高まるため尿中のカルシウム量が増加します。高塩分摂取は、骨からのカルシウム流出も促進することでも、尿中カルシウムが増加してしまうのです。

 逆説的ですが、カルシウム摂取が少ないと、腸でシュウ酸と結合して排出されるカルシウムが不足し、シュウ酸の吸収が高まります。低カルシウムの食事は、副甲状腺からのPTH分泌を促し、骨からのカルシウム流出を高めます。腎臓でカルシウム再吸収を促すことで、尿中のカルシウムとシュウ酸が増加した状態となり、これらが結合してシュウ酸カルシウム結石を作りやすくなります。

 リン酸はさまざまな食材に入っていますが、現代の食事では、加工食品やファーストフードに含まれる「~リン酸塩」などの添加物や保存料、コーラなどの炭酸飲料によるリン酸吸収が増えていると言われています。やはり食事は、自然の物を自炊するのが安全です。

 男性患者さんのデータを見ていても、近年高尿酸血症の方は多いです。一般的に男性は20-30%、女性は3-5%程度が高尿酸血症であると言われています。肥満やアルコール摂取、甘い飲み物を避け、運動不足は避けましょう。高尿酸血症は、尿酸結石のみならず、シュウ酸カルシウム結石も有意に増加させることが報告されています。

 クエン酸は尿をアルカリ性にすることで、シュウ酸カルシウム結石、尿酸結石、シスチン結石の形成を抑制します。レモンなどの柑橘類、梅干し(塩分少なめが良いです)、トマトやベリー、キウイフルーツなどを積極的に摂りましょう。

 運動は縄跳びやジョギングなど、上下運動で結石が自然排出されやすくなります。蒼野は昔、結石が出来たら「ビールを沢山飲んで縄跳びをすると良い」と聞いたことがありますが、ビールはプリン体が多いため、お茶や水のほうが良いようです。そして最後はビッグサンダーマウンテンの後部座席でしょうか!?

 メタボリックシンドロームを気をつければ、尿路結石の予防にもなるのですね! これからもレモン緑茶と朝散歩を続けてゆこうと思った蒼野でした。

参考文献:
1)Validation of a Functional Pyelocalyceal Renal Model for the Evaluation of Renal Calculi Passage While Riding a Roller Coaster.;J Am Osteopath Assoc. 2016; 116(10): 647-652.

2)日本泌尿器科学会 他 編:尿路結石症診療ガイドライン 2013年版(第2版).金原出版,東京,2013.

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