食の正解は様々な食材にあり!

2023/06/22

 今日は日々の食事について、蒼野が思っていることを書きたいと思います。バランスよく食べるというのは本当に難しいなあと思っているのです。必要なビタミンやミネラル、体を作るタンパク質や、エネルギーの元となる炭水化物や糖質、さまざまな脂質などは、何をどれくらい摂ると良いのかというのは、未だに分かっていないブラックボックスのようです。

 年齢、性、身長や体重まで同じである人でも、遺伝子の違いや生活習慣の違いによって、栄養の必要量は異なるはずです。肉体労働の人とデスクワークの人を考えれば、分かりやすいですよね! 遺伝子もそれぞれ違いますし、腸内細菌も異なっています。必要な栄養についても個人差は大きいと思われます。

 蒼野の今勤めている病院には、自分で食事ができない寝たきりの人も多く、ちゃんと栄養士さんが身長や体重などから、胃にチューブから入れる栄養を決めています。しかし何年も経ってくると、肌の状態が悪くなる人が多いです。今までの知識から、人間に必要だと思われる栄養は全て入っているはずなのですが、本当に微量だけど必要な栄養が不足してきたり、毎日同じ栄養だと腸内細菌の多様性が失われたりするのだろうと想像します。

 最近見たサプリメントの宣伝で、尿検査から不足しているビタミンやミネラルを見つけて、その人に合ったサプリメントを作って届けてくれるというものがありました。一見よさそうには見えるのですが、食生活を変えずに、それを飲み続ける事で、果たして病気が防げたりするのかについては、全く保証はありません。

 蒼野もよく陥ってしまいがちな考え方に、『癌になるのは、体内の炎症で生じた活性酸素が、正常細胞のDNAを壊してしまい、癌化してしまうのだから、抗酸化ビタミンを十分に摂っていたら癌にならないはずだ!』という論理を、そのまま信じてしまう事です。身体はもっと複雑にできているので、理論的には正しそうでも、実際はそうはならないこともあったりするのです。

 これには有名な研究があります。フィンランドの男性喫煙者(50~69歳)約29,000人を対象に、ビタミンE、ベータカロテン、またはその両方のサプリメントをランダムに割り当て、平均6年間観察しました。ビタミンE摂取では発癌率の改善は無く、ベータカロテン群では、なんと肺がんのリスクが18%上昇し、全体的な死亡率も8%増加していました1)。

 別の研究では、約18,000人の喫煙者、およびアスベストに曝露された非喫煙者を対象に、ベータカロテン+ビタミンAのサプリメントをランダムに割りつけて5年間観察しました。するとこちらの研究でも、サプリメントグループの肺がんのリスクが28%上昇し、全体的な死亡率が17%増加することが示されました2)。ちょっと衝撃的な結果ですよね!

 『夏バテにならないように、豚肉を食べましょう!』というのも同様です。豚肉には良質なタンパク質やビタミンB1が豊富に含まれています。タンパク質とビタミンB1は血液中のアルブミンなどを増やし、エネルギー代謝を改善し、疲れをとる物質です。ゆえに豚肉を摂ると夏バテが予防できますという論理です。しかし過去の研究で豚肉が疲労を有意に回復したとする研究結果は出ていないのです。これはあくまで仮説のお話です。

 牛乳にはカルシウムがたくさん含まれている。カルシウムが不足すると骨が弱くなる。だから牛乳を沢山飲むと骨が強くなるという理論も同様です。日本人の3倍以上乳製品を摂るような欧米の国々では、骨折のリスクが高いというデータもあります2)。

 タンパク質摂取が多いと、体内が酸性に傾き、骨からカルシウムを放出して中和するため、尿中のカルシウム排泄が増加するという報告もあり、カルシウムを多く含む食べ物を食べたら、骨が強くなるということには繋がらないようです。最近のメタ解析によると、乳製品の摂取が増えると、骨粗鬆症は改善するが、大腿骨骨折のリスクは増加するという相反する結果が出ており、摂取と病気のリスクは関係が無いという結論になっています3)。

 乳製品に関しては、さまざまな研究があり、乳製品の摂取が増えると脳卒中や心血管病が少し減少します。ヨーグルトやチーズの摂取が多い人ほど糖尿病リスクも下がりますが、男性では前立腺癌、女性では卵巣癌が増えるというデータもあるようです。一般的なイメージとして、カルシウムが不足するから乳製品を摂るべきだというのは、思い込みの領域でしかありません。

 干しエビやしらすなどの小魚、海苔やひじき、ワカメなどの海藻、小松菜などの緑黄色野菜や、大豆製品などにもカルシウムは豊富ですので、牛乳にこだわる必要はありません。日本人の73%は、遺伝子的にラクターゼが産生できない人が多く、乳糖不耐症です。乳糖を分解する腸内細菌が多ければ下痢にはなりませんが、無理に取る必要は無いのです。

 ということで、世の中にはスーパーフードと言われるものも結構ありますが、~が含まれるからこの病気に効くという考え方は、短絡的すぎるということを覚えておくべきです。例えその食品や栄養素が一つの病気のリスクを減らしてくれたとしても、他の病気のリスクを増してしまうことがあれば意味がありません。脳卒中にならなくても、癌になったら意味ないですよね!

 ということで、テレビなどでよく見かける『~を食べると~に良い』とか『このサプリを飲むとこの成分で痩せる』などと言えるほど、身体の仕組みは単純ではありません。エビデンスがあるように伝えられていますが、そこはビジネスマーケティングの手法です。

 これは学問的には『還元主義』と言い、複雑な事象であるにも関わらず、単一の要素に着目して結論づける方法です。葉っぱだけ見て、森が見えなくなっている状態ですね! 食べ物の身体に対する影響はずっと複雑なはずです。一点だけにこだわると、全体のバランスが悪くなり、健康から遠ざかる場合があるのです。

 還元主義に対する考え方は『(食の)相乗効果、全体性』です。食べ物の組み合わせや、食べるタイミング、誰とどんな状況で食べるか、食事の時の姿勢や気持ちなど、食生活に関するすべての要素を考える必要があるということです。考えただけでも複雑です。食の正解は自分で探すしかないのかも知れません。

 やはり食と健康の関係は複雑で、ブラックボックスだと感じます。個人差も大きいと思います。食べたい物を食べるというのは、身体が必要としているという点では正しいのですが、超加工食品は、その感覚を狂わせるようにできていて、繰り返し同じものを食べてしまうことが大きな問題です。

 伝統的な日本食は「一汁三菜」です。旬に取れるものを食卓に取り入れながら、多種類の食材を食べてきたのが日本人です。これは海外の健康の専門家たちが感心する方法です。一皿料理で毎日同じ物を食べるのは、いくらスーパーフードでもNGだと思います。新鮮な多種類の素材を組み合わせて、ゆっくり噛んで食べ、満足出来たら終わるという食事法が最強であるように思います。

 我々の体には、季節の旬に応じたさまざまな植物と、陸上動物60種類、魚類70種類、貝類300種類を食べていた縄文人の遺伝子が、刻み込まれています。確かに調理は大変ですが、工夫しながら、旬のものを中心に、多種類の食材を食べてゆきたいものですね! 食の正解は概ねこの中にあるように感じています。

 患者様を見ていても、食べ物が偏っている人は病気になりやすいです。独身の中年男性が不健康なのも、食事に原因があることが多いと感じています。人は目の前にあるものを食べてしまいます。これからも色んな食べ物に興味を持って、様々な食材にトライしたいと思っている蒼野でした。

参考文献:
1)The Effect of Vitamin E and Beta Carotene on the Incidence of Lung Cancer and Other Cancers in Male Smokers. ; N Engl J Med 1994; 330:1029-1035

2)Effects of a Combination of Beta Carotene and Vitamin A on Lung Cancer and Cardiovascular Disease. ; N Engl J Med 1996; 334:1150-1155

3)calcium and osteoporosis. ; J Nutr.1986 116 (11) :2316-2319

4)Consumption of milk and dairy products and risk of osteoporosis and hip fracture: a systematic review and Meta-analysis. ; Critical Reviews in Food Science and Nutrition 60 (10) 2020 1722-1737

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