タバコをやめると太る理由!

2023/06/25

 蒼野が外来をしていると、時々ポケットにタバコの箱を入れている患者さんがいて、とても気になります。メタボ体型の人も多かったりしますし、生活習慣病の薬を飲んでいる方も多いからです。気を悪くしないように、「どのくらい吸うのですか?」とか「そろそろやめませんか?」と声をかけて、気持ちを確認するところから始めます。

 先日もお話ししていると、一旦タバコをやめていたけど「体重が10kgも増えてしまい、また吸いだしました」という患者様がおられました。吸い始めても体重は戻っていないそうです。ある意味、踏んだり蹴ったりです。これから禁煙する患者様も含めて、太るメカニズムと対策を立てておきたいと思い、今日は禁煙後の肥満について調べてみます。

 まずは、禁煙するとどうして太るのかについてです。タバコに含まれるニコチンは、脳内のニコチン性アセチルコリン受容体に結合し、交感神経系を活性化します。これは脂肪細胞にも影響し、脂肪の分解を促進し、体内の熱産生も促します。蒼野は吸ったことがないので分からないのですが、吸うと少し体温が上がる、喫煙後ヒートアップがあるのだそうです。

 禁煙するとこの効果がなくなりますので、代謝は低下しやすくなります。つまり同じだけ食べていても太りやすくなるという事です。またニコチンは中枢神経系に影響して、食欲増進作用のある神経ペプチドYを抑制しています。禁煙すると食欲が増すため、太りやすくなります。

 喫煙によって影響され、鈍っていた味覚や嗅覚が、禁煙により復活すると、食べ物が美味しく感じられます。美味しいとついつい食べすぎますよね! またタバコをやめると口寂しく、ついつい、そばにある物を口に入れたくなってしまいます。禁煙のストレスを代償しようとして食べるものは、脂質や糖質などのコンフォートフードが多いのです。

 ニコチンは脳の報酬系に働きかけ、ドーパミンを放出させます。タバコが好きな人は、このドーパミンによって気分が良くなり、リラックスでき、頭がスッキリと冴えるのを感じています。吸い続ける事で、ドーパミン依存ループにハマり、タバコが無いと耐えられず、年々量が増えやすいという悪循環に陥っています。

 禁煙中は、その代わりとなる、新たな依存に陥りやすいのです。食べ物(特に糖質や脂質の多い食べ物)、アルコール、ギャンブル、スマートフォンの使用などが、これに該当します。加工食品は、糖質と脂質が多いものが多く、依存しやすくデザインされた食べ物です。コストも安いため口寂しさもあって、食べ始めると止まらなくなることも多いのです。

 さらに、禁煙すると全身の微小な血流が改善します。タバコを1本吸っただけで、全身の血管は強力に収縮します。久しぶりにタバコを吸うとクラっとする人がいるのは、脳の血管が収縮して脳貧血が起こったからなのです。禁煙で消化管の血流が改善すると、栄養の吸収が良くなります。今までと同じ量を食べていても、太りやすくなる訳です。

 そして近年の研究では、禁煙により、腸内細菌叢が変化し、残念なことに、ヤセ菌が減ってデブ菌が増えることが報告されています。この影響は大きく、食べる量を減らしても太る人がいるのです。禁煙者10名と対照10名(喫煙者5名、非喫煙者5名)を9週間調べた結果が報告されています。

 禁煙群は、禁煙後の8週間で平均2.2kg 体重が増え、対照群は変わりませんでした。腸内細菌は、禁煙によって40%程度だったデブ菌(ファーミキューテス)が急増し、70%弱まで増えています。一方ヤセ菌(バクテロイデス)は元々40%弱でしたが、15%程度にまで減ってしまいました1)。論文(スイス人)では、禁煙すると約8割の人が平均7~8kg増えてしまうと報告されています。

 しかし体重が増えたからといって、禁煙をやめてしまうのは最悪です。2012年の少し古い論文ですが、日本人の死因リスクとして、単一のリスクとしてはタバコはNO.1であり、死亡の12.9%に寄与しているとされています。高血圧や運動不足、高血糖、塩分過多、アルコール高脂血症などを抑えてNO.1なのです。これらが複合した死亡リスクが15.7%と最大とされていますが、もちろんこれには喫煙も含まれています2)。

 太ってメタボが悪くなった上に、さらに喫煙に戻ってしまうのは本当に危険です。喫煙は、総死亡リスクを2倍に上昇させるといわれています。しかし体重増加によって、死亡リスクが2倍になるのは、45㎏の体重増加で、ようやく同等のリスクと言われています。喫煙を再開したからといっても、どんどん脂肪が減る訳ではなく、体重増加の解決にもなりません。

 禁煙すると、体が健康になる過程として、体重が増えるという事については仕方ないのかもしれません。日本人では、禁煙後の体重増加は、平均2㎏前後が多く、禁煙が落ち着くと体重増加は停止し、ほとんどは減少に転じるといわれているようです。しかしできることなら、太らずに過ごしたいですよね。

 対策としては、腸内環境を整えることが最優先だと考えます。肥満型の細菌を増やすものとしては、動物性脂肪(常温で固体の脂肪)の摂取と言われています。そして動物性脂肪と一緒に糖を摂るとそれが加速します。禁煙してしばらくは、背脂マシマシのラーメン二郎はやめて下さい。魚の油や、不飽和脂肪酸、オリーブオイルなどは大丈夫ですので、代用としましょう。

 食物繊維やオリゴ糖の摂取を増やし、ビフィズス菌や酪酸菌などの発酵食品、プロバイオティックスを毎日補給して下さい。善玉菌の作る短鎖脂肪酸は、ヤセ菌を増やします。また短鎖脂肪酸自体にもダイエット効果があるのです。

 あとはニコチンのドーパミン依存ループから、抜け出す工夫が必要です。糖質や脂質、アルコール、ギャンブル、スマホやゲーム以外にも、ドーパミンが出てくる生活習慣はあるのです。一つ目は睡眠です。ニコチンの影響が無くなると、交感神経への刺激が減り、よく眠れるようになります。睡眠の質が改善することで、昼間のドーパミンは分泌されやすくなるのです。

 禁煙初期には、ニコチンが減ったことで、離脱症状として眠りにくくなる時期もあるようです。これは禁煙外来で、ニコチンを漸減すれば、起きにくくなります。時間と共に、体はニコチンの欠乏に適応するため、必ず徐々に収まってきて、気持ちよく眠れるようになるはずです。

 次は運動です。適度な運動はドーパミンを放出させます。運動後の気持ち良さを知っている人なら分かると思います。少しきつい運動にすると、エンドルフィンも出てきますので、タバコ依存を運動依存に変換してしまうのは、健康にとっては一石二鳥の方法になります。

 糖や脂質の多い加工食品を減らし、新鮮な素材から作る、健康的な食事をとることは、腸活の基本です。腸内で短鎖脂肪酸が多く作られることは、ドーパミン産生を高める作用もあるのです。いわゆる腸脳相関です。短鎖脂肪酸によって腸の炎症、ひいては脳の炎症がおさまると、脳内のドーパミンレベルは高まります。

 日常の中の楽しいことを見つけましょう。新しい所に行ったり、知らない店に入ったりするのも良いです。趣味に没頭したり、旅行に行ったりすれば、タバコへの執着は薄れます。もちろん出来る方は、マインドフルネスなどの瞑想も有効です。禁煙仲間と一緒に取り組む、禁煙外来でお医者さんと一緒に取り組むことは、大きな武器になります。環境を整えることで、生活習慣は変えられるからです。

 もしあなたが、健康リスクや禁煙の必要性に気づいたのなら、ストレス過多にならないように、これらの生活習慣も試みて欲しいと思っています。一旦太っても、まずは禁煙を成功させましょう。生活習慣は一度には変えられません。ただ新たな依存を作らないことだけは、意識を向けておいて下さいね!

 先日の患者さんが、ちゃんと禁煙できるようにサポートしてあげたい蒼野でした。

参考文献:
1)Smoking cessation induces profound changes in the composition of the intestinal microbiota in humans. ; PLoS One. 2013 8 (3) :e59260. 

2)Adult Mortality Attributable to Preventable Risk Factors for Non-Communicable Diseases and Injuries in Japan: A Comparative Risk Assessment. ; PLoS Medicine 2012 https://doi.org/10.1371/journal.pmed.1001160

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