新しい痩せ薬の話!

2023/10/22

 今日はこの薬の登場で、アメリカで食品株、飲料株、フィットネス関連株、医療機器株が暴落したと言われる話題の糖尿病新薬、GLIP-1受容体作動薬に関して調べてみました。糖尿病専門の先生にも聞いてみましたが、人によってはよく効くけれど、株が下がるほど、全員に対しての効果には疑問とのことの様です。

 食物を食べて、その刺激によって小腸からGLIP-1というホルモンが、血中に放出されます。GLIP-1は膵臓のβ細胞に作用し、インスリンを分泌したり、血糖スパイクを和らげるために、消化管の動きを緩やかにしたり、血糖値を上げるグルカゴンを抑制します。そればかりか、それ以上食べ過ぎないように、食欲を抑制したり、白色脂肪細胞を褐色脂肪細胞に変化させて、代謝を上げる作用まであるのです。

 簡単に言えば、食事をしても血糖を上がりにくくして、太りにくくするホルモンなのです。しかし、その効果は短時間で終わります。血中にあるDPP-4というホルモンによって、GLIP-1は速やかに分解されてしまうからです。分解されたGLP-1は、逆にGLP-1の作用を妨害します。そこでGLIP-1受容体に結合して作用できる形を残しながら、DPP-4が分解出来ない形にした薬が開発されました。

 GLIP-1受容体作動薬は、生体のGLP-1よりもDPP-4に分解されにくいので、長時間にわたってGLP-1の働きが維持されます。つまり血糖値が高いときだけインスリンの分泌を促し、血糖が下がり、食欲が減って、脂肪も減って、代謝が上がり、痩せやすくなるという訳です。この薬単独では、低血糖も起こりにくく、空腹時血糖値と食後血糖値の両方を低下させます。

 理屈を聞けば、もし自分が糖尿病だったら使ってみたい薬です。GLIP-1受容体作動薬の中には、海外で抗肥満薬(痩せ薬)として認可されているものがあります。適応はBMI>30の高度肥満の人とされています。薬を飲んだだけで、食欲が無くなり痩せるという報告によって、食べ物が売れなくなり、運動の必要が無くなり、透析が減ったりするかも、と連想されて株に影響したらしいのです。

 糖尿病治療で使われ始めると、5割くらいの患者はよく効いて体重と血糖が下がります。しかし2-3割の患者はあまり効きません。よく効く5割のうちの1割は、筋肉も落ちてフレイルになりやすくなります。インスリンは筋肉を作るのにも必要なホルモンです。また長期間使っていると、効果が頭打ちになり、効果がなくなる患者が出てきます。

 副作用としては、消化管が動きにくくなることが災いし、吐き気や便秘が起こったり、逆に下痢になったりします。重篤なものでは急性膵炎の報告があり、嘔吐を伴う激しい腹痛がでた場合はすぐに病院に行かなければいけません。インスリンがβ細胞から出なくなっている患者には使えませんし、腎機能が悪い人にも禁忌です。他剤と併用すると、低血糖のリスクもあります。

 気になるダイエット効果ですが、海外の臨床試験によれば、3か月で5.9%、6ヶ月で10.9%ほど体重が減るので、結構な効果です1)。体重60kgだったら、6ヶ月後には53.47kgですよね。糖尿病であれば保険適応ですが、自由診療のダイエットクリニックでは、自費で使っているようです。

 ただ痩せる効果については、満腹を感じやすいために、食べなくなるから減るというメカニズムなので、沢山食べると太ります。満腹を感じるまでの20分の間に、早食いで食べ過ぎる人は痩せません。食べても太らない薬ではないのです。安心して間食を増やすと、太ってしまいます。

 長期間使っていると、食事量が減っているため、栄養不足になりやすくなります。しっかりタンパク質を摂らないまま、運動もしなかったら、体重は減っても落ちたのは筋肉ということになりかねません。食欲が減っていても、高カロリーの物ばかり食べていたら、痩せないパターンもあります。

 健康的なダイエットに王道は無い様です。人間の身体は、どんどん痩せてゆくと、生命の危機だと感じて、さまざまな抵抗反応が起こります。だんだん薬が効かなくなるのは自然の摂理です。あくまで、運動しながら、食事の栄養を考えた上で、そのカロリーを減らしてゆく必要があるのです。そしてGLP-1受容体作動薬の投与を止めると、食欲も元に戻り、体重も戻るのが自然な反応です。

 しかし世の中には、楽して痩せたいと思う人が沢山いる様です。GLP-1受容体作動薬は、毎日内服が必要な薬や、週1回注射すれば済むものがあります。全国1000万人いる糖尿病患者にとっては、とても効果の高い薬であることは間違いありません。ここ数年ダイエットクリニックで日米共に圧倒的に使用される様になり、今年になってから供給が滞っています。(米国では2021年20万件が23年には50万件)

 当然自由診療での値段も上がっている様です。アメリカでは月額1000ドル(15万円)にも関わらず、使用者が急増している様です。日本でも薬価は1本1万1008円のGLP-1受容体作動薬の注射が、その倍近い値段で、痩せ薬として使われています。本当の糖尿病の人に供給できなくなるというのは、やはり本末転倒です。

 高額であることもあって、注射を打ちさえすれば、どんなに食べても、運動しなくても痩せると勘違いする患者さんが多いようです。また自己流で、きつい糖質制限を一緒に行ったりすると、それこそ低血糖のリスクが襲いかかります。体重が減っても、健康を害してしまったら何もなりません。

 やはり上手い話には裏があります。健康的な生活習慣を手に入れて、自然に痩せてゆくのが最高です。しかしそれが出来ない環境にある方が、一定数居られるのも問題です。明日はどうしても太ってしまう人の話を書きたいと思います。

 健康な人は「なるべく薬を飲まないのがベストだなあ」という思いを強くした蒼野でした。

参考文献: 
1)Weight Loss Outcomes Associated With Semaglutide Treatment for Patients With Overweight or Obesity. ; JAMA Netw Open. 2022;5(9):e2231982.

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