シフトワークの対処法!

2023/06/02

 昨日は良い睡眠を得るための方法について書かせていただきましたが、不規則な勤務だと、かなりの部分が実行出来ませんよね。シフトワークをされている患者様に質問されると、なかなかおすすめの睡眠法をお伝えできていない蒼野です。原始人にはあり得なかったであろう、概日リズムが狂いやすい生活をされている方がどうすれば良いのかを、今日は考えてみたいと思います。

 蒼野自身、若い時は、月12日当直しており、夜中の手術や急患で、眠れない夜は多かったです。当時は、働き方改革などは皆無で、当直明けも夕方まで普通に仕事がありました。居眠りすることはありましたが、昼間にぐっすり寝てリズムが狂うということは少なく、夕方帰ったら死んだように寝るのがルーチンでした。

 40歳を超えると、病院の規定で当直は少なくなりましたが、夜中の手術は時々あり、徹夜で手術すると、流石に仮眠しないと持たなくなってきました。お陰様で大きな病気や失敗はせずに、今まできましたが、今より、かなり体重は重かったです。ちゃんと寝ないと太るというのは、身をもって体感できました。

 メスを置き、当直のない仕事をするようになってからは、定期的に運動も出来るようになり、ずいぶん身体は楽になりました。脳神経外科医は短命だという噂があり、救急で呼び出される、睡眠が取れない科では、病気で働けなくなる先生も目にしました。周りの看護師さん達も、夜勤で体調を崩す人も多く、相談を受けることもありました。

 現在の日本では5人に1人が、2交替や3交替制で昼夜関係なく働いています。看護師さんを筆頭に、医療従事者、警察や消防、交通機関の乗務員、24時間の店員や、生活を支えるエッセンシャルワーカー、夜間の工場勤務など、いなければ困る仕事ばかりです。しかし労働する側にとっては、様々な健康リスクの原因となっていると感じます。

 ホモサピエンスは、お日様が上がったら活動し、暗くなったら眠るという生活を400万年も送り、それに合わせて進化してきました。残念ながらシフト勤務は、寿命を削りながら行なっている仕事かもしれません。多くの研究で、体内時計の乱れは、がん、心疾患、不眠症、自律神経失調症などの発症に関わることが指摘されているのです。

 シフトワーカーの自覚症状として多いのは、夜勤明けでフラフラなのに、ぐっすり眠れないとか、起きている時に数秒間の居眠り(マイクロスリープ)をしてしまうとか、疲れが取れないなどの訴えです。ミスも生まれやすくなりますし、太りやすくもなります。毎日6時間未満の睡眠は,燃え尽き発現の 主要な危険因子のひとつであると報告されています1)。

 とは言っても、お仕事で仕方ない方も多いかと思います。明るい光を朝に浴びると、体内のリズムは前進し、逆に夜に光を浴びると後退します。睡眠で絶食した後の最初の食事で、体内時計は朝を認識します。体内時計を補正する作用のある『光』『睡眠』『食事』を上手に時間配分して、できるだけ生活のリズムを一定に保つことが重要です。

 毎日夜勤がある場合には、夕方に起きた後や、夜勤の前に日光や強い光、ブルーライトを浴びる。そのタイミングで食事を摂る。夜勤の後には、軽い食事に留め、サングラスを利用して帰宅し、静かで真っ暗な環境で寝る、などがテクニックとなります。行動を開始する時間を、『その人の朝』になるようにリズムをずらしてしまうと、身体はそれに適応し、健康への影響は少なくなります。

 看護師さんのように、普通は日勤だけど、数日に1回夜勤があるような仕事は、本当に大変です。この場合は、太陽に合っている体内時計のリズムをなるべく崩さないようにすることが重要です。夜勤する日も、いつも通り朝起きて朝食を摂ります。軽い夜食を摂って夜勤に入りますが、午前2時くらいに、15分程度の仮眠を取ることで、集中力の低下を補います。

 夜勤後はもちろん睡眠不足ですが、そのまま夜まで寝るのではなく、朝から3時間ほど寝て、正午には起き、太陽の光を浴びるのが理想です。疲れていてもっと寝る場合でも、午後3時までには起きるのを意識しましょう。3時以降に寝ていると、体が夜の睡眠だと認識するため、リズムが戻りにくくなるからです。

 夜勤明けは3時間睡眠で、睡眠負債が溜まった状態ですが、早く寝ることで、回復を図りましょう。早めに夕食を食べ、その3時間後には就寝しましょう。この方法で普通の概日リズムが保たれやすくなります。短時間睡眠で疲れを取るためにも、昼間の寝室環境は特に重要です。2重、3重サッシでの防音や、耳栓、真っ暗になる遮光カーテンやアイマスク等は使うべきです。

 概日リズムに従って、体内ではコルチゾールやメラトニン、オレキシンといったホルモンが分泌されているため、リズムが狂うと、『交代勤務睡眠障害』になる場合があります。夜勤後なかなか眠れなかったり、何度も目が覚めたりして、疲れが取れないのです。起床後も集中力が落ち、作業能力が低下します。

 概日リズムは1日最大2時間程度までしか変わらないことがわかっています。ずっと夜勤が続く場合には、その生活にリズムを合わせてゆき、時々夜勤がある場合には、夜勤で生じる2時間のずれを、出来るだけ早く元に戻すのが良いのです。三交代勤務の場合には、日勤、準夜勤、深夜勤の順にシフトを組むと、生体リズムを同調させやすいとされています。

 海外旅行の時差ボケや、夜更かしや徹夜、休みの日にずっと寝ていたりするのは、環境リズムと概日リズムのずれにつながり、体調不良の原因となります。規則正しい生活は、日々のパフォーマンスのためにも、本当に重要なのです。夜勤の仕事はミスが起きやすく、特に夜行バスの運転手さんなどは、体調によっては、意図しない居眠りにつながるため、潜在的なリスクを考慮しなければ事故につながります。

 近年では、デジタルデバイスのブルーライトの影響もあり、夜遅くまで眠れないことで、子供の不登校も増えています。『睡眠相後退症候群』とか『概日リズム睡眠覚醒障害』と呼ばれています。蒼野も、これが原因で起こる『フクロウ頭痛』の子供を、何人も診ました。これにはスマホの使用が大きく関係している印象です。コロナ禍でさらに増えているという指摘もあります。

 2021年の東京オリンピックで、日本は史上最多のメダルを獲得しましたが、コロナ禍で外国の選手が長期間の事前合宿が組めなかった影響もあるのではないかと言われています。体内時計は人間の注意力や判断力、反射神経や筋肉の反応などを大きく左右する要素です。時差ぼけの状態では、最高のパフォーマンスは発揮できないからです。

 人によって概日リズムの遺伝子は異なります。現代生活は朝方のクロノタイプが基本になっているため、夜型のクロノタイプは暮らしにくいのです2)。医療をはじめとして、夜の仕事は絶対に必要です。夜型の人は適応しやすいという研究3)もあるので、社会としても、タイプに応じた仕事に就けるシステムが、出来るといいなあと思ってしまいました。

 蒼野は朝方のクロノタイプのため、徹夜とかは本当に無理です。若さで乗り切れる部分はあるかもしれませんが、シフトワークされている方で、体調がすぐれない方に関しては、健康を害してしまう前に、転職もお勧めしたい蒼野でした。

参考文献:
1)Insufficient sleep predicts clinical burnout. J Occup Health Psychol 17 (2): 175―183, 2012.

2)Social jetlag: misalignment of biological and social time. Chronobiol Int. 23(1-2):497-509. 2006 

3)Chronotype modulates sleep duration, sleep quality, and social jet lag in shift-workers. J Biol Rhythms. 28(2):141-51. 2013

過去ブログ:

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