今日は片頭痛のお話です。今までもたくさん書いてきたのですが、その本質が体質による頭痛であるために、片頭痛体質の人は一生頭痛と付き合うことになります。女性が男性の約3.6倍もいるため、今日は女性のライフステージごとの片頭痛の付き合い方について書いてみたいと思います。
ご両親が片頭痛とか、特にお父さんが片頭痛であったりすると、幼稚園くらいから頭痛(腹痛で出る子もいます)との付き合いが始まる方がおられます。絶対数は少ないため、ちゃんと診てもらえる病院は少ないのが現状です。頭痛が始まると、親御さんとしては慌ててしまいますが、1~2時間でケロッと治りやすいのが小児の片頭痛の特徴です。
吐いたりしたとしても、今までにもあった頭痛で、進行する様子がなければ、片頭痛である事が多いです。片頭痛体質に関連するものとして、周期性嘔吐症候群といって、激しい悪心と嘔吐を繰り返すものや、腹部偏頭痛といって、中等度から重度のお腹の正中部からお臍周りあたりの痛みが認められるものがあります。これらは大きくなると片頭痛を発症することが多い病態です。
小児の治療にはカロナール(アセトアミノフェン)やイブプロフェンが使われる事が多いです。持続時間が短いため、飲んで効くまでの時間を考えると、静かに休ませるだけでも良いのかもしれません。寝ると良くなります。たびたびある場合には、予防薬が使われることになります。トリプタンは一応17歳からとなっていますが、小児でも痛い時に少量使う方がコントロールが良い場合もあります。
おねしょの治療にも使われるトリプタノール(アミトリプチリン)やペリアクチン、治りにくい時にはバルプロ酸が使用されます。トリプタノールは元々が抗うつ剤で、抵抗がある方も居られるかもしれませんが、痛みの神経にも作用する事がわかっており、緊張型頭痛の予防でも有用です。ごく少量から開始します。ペイン(疼痛)クリニックでも多用される薬で、ストレスの多い大人の片頭痛にもよく効きます。
思春期になると、女性特有のホルモンの影響が大きくなってきます。この時期に発症する人は結構多いです。受験の時期とも重なったりするため、試験中にも薬が使えるように診断書を書いたりしたことを思い出します。片頭痛の女性では、60%に月経周期が関係しています。片頭痛の発作は軽い事も重い事もありますが、月経関連頭痛は重篤で、薬が効きにくいことが分かっています。
エストロゲンは、セロトニンを始めとする様々な物質の調整に関与しており、片頭痛を惹起するCGRPにも影響を与えます。生理が起こる直前に、急激にエストロゲンが低下することで、月経開始の2日前から月経3日目までに片頭痛発作を起こす方が多くなります。排卵前にもエストロゲンが低下するため、この時にも痛くなる人がいます。悪心・嘔吐、光/音過敏といった随伴症状も伴いやすい発作が起こります。
治療はトリプタン製剤やレイボーになります。NSAIDs等の同時投与も必要である事が多いです。生理になるたびに、頭痛で寝込むという方は、頭痛専門医のいる医療施設に相談に行くことをお勧めします。市販薬だけでは、効かない事が多く、過量投与で、薬剤乱用頭痛に移行するリスクもあるからです。予防薬としてはトピラマートや、今年発売のCGRP抗体関連薬の注射が有効です。
大学を卒業し就職すると、ここでも頭痛が増えます。ストレスも増えますし、デスクワークとか、テレフォンオペレーターなどの、座り続ける仕事で、肩こりなどが増えたり、残業や夜勤等で睡眠が不足したり、休みの日に寝過ぎたりと、頭痛の誘因が多くなるからです。一人暮らしが増えて、超加工食品が増えたり、外食やコンビニ食で済ましたりしていると、本当に頭痛は増えてきます。
頭痛が酷いからという理由で、女性片頭痛患者の20%弱が妊娠を避けるという研究があります1)。辛い頭痛があっても妊娠中は痛み止めが禁忌になる期間があるため、心配なのは分かります。しかし蒼野がずっとお話を聞いてきた限りでは、妊娠中はホルモンの値が安定するため、片頭痛が起こらなくなる人がほとんどでした。
前兆の無い片頭痛女性では、妊娠すると60~90%はほとんど頭痛に悩まされません。閃輝暗点が見えるような酷い片頭痛の患者様では、頭痛が残る人がいます。この時期の治療は規則正しい生活と適度で良質の睡眠、添加物や、高糖質で血糖スパイクを作る食べ物を避ける事などが重要です。漢方は一部を除いて使えるので、合うものを見つけておくと楽だと思います。
妊娠中に使える薬剤としては、急性期治療にはカロナール(アセトアミノフェン)が一般的ですが、効かない人は多いです。しかし実はトリプタンが使えるので、もしもの時が心配であれば、頭痛外来でもらっておくと良いでしょう。ただしトリプタンは合わないと、喉が詰まる様な感じなど、かえってキツくなる人もいるので、あらかじめ試しておくのが良いと思います。
ロキソニンやイブプロフェンなどのNSAIDsは妊娠14週未満では、自然流産のリスクを増加させますし、先天性心臓障害のリスクが上がる事が疑われています。また妊娠14-42週においては、新生児の不可逆性致死性心不全、動脈管の未熟性閉鎖、持続性肺高血圧を引き起こすリスクがありますので、市販薬などはなるべく使わないでくださいね。添付文章では、インドメタシンやジクロフェナク(ボルタレン)、メロキシカム(モービック)が禁忌です!
もし頭痛予防薬を飲んでいる方がおられましたら、プロプラノロール(インデラル)なら安全です。トリプタノールも使用可能です。バルプロ酸(デパケン、セレニカ)は、崔奇形性が高いので、妊娠の可能性のある時期には使わないことが重要です。一番新しいCGRP抗体関連薬については、症例数が少ないことと、長期の安全性が不明となっています。半減期が長いため、妊娠予定のおよそ5カ月前には投与を中止するよう勧告されています。
産後は早期に片頭痛が再発する事があります。しかし母乳で育てると再発は少なくなりますので、可能な方は母乳栄養を心がけて下さい。授乳中の予防薬としてはプロプラノロール、トリプタノールは使えます。痛み止めはカロナールもイブプロフェンも大丈夫です。トリプタンは種類によって内服後12時間~24時間の授乳禁止と書かれていますが、エレトリプタンやスマトリプタンは特に母乳への移行は少ない様です。
更年期にホルモンが乱れ、片頭痛が少し増える人は多いですが、閉経後にホルモンが安定すると、3人に2人は嘘のように無くなります2)。しかし蒼野も高齢になっても根強く頭痛に悩まされている方も、診せてもらってきました。生活習慣の影響は大きそうですが、その年になって改善出来る人も少ないのが現状です。
今日は女性のライフステージと片頭痛について、書かせていただきました。男性の片頭痛と違って、妊娠や出産、閉経など様々なステージに対して、それぞれ知識、対応が必要になります。周囲に妊娠を控えた片頭痛の方がおられたら、ぜひ教えてあげて下さいね!
片頭痛の娘には嫁入り前に、読ませておかないとと思っている蒼野でした。
参考文献:
1)Effect of Migraine on Pregnancy Planning: Insights From the American Registry for Migraine Research. ; Mayo Clin. Proc. 2020 95(10):2079-2089.
2)Migraine in menopausal women: a systematic review. ; Int J Womens Health. 2015 Aug 20;7:773-82.
もし記事が良かったよ!と思われた方は蒼野健造公式ラインのボタンをポチッと押して、ご登録くださいね。ライン登録された方で希望される方は、オンライン面談での相談に乗りたいと思っております。