今日は以前から問題だと思っていたポリファーマシー(多剤服用)について書きたいと思います。皆様は今お薬を飲んでいますか? 現在では75才以上の40%が5種類以上、25%が7種類以上の薬を服用しています。そしてその有害事象は15%も認められます。薬を止めたら元気になることもあり得るのです。
薬物というのは、元々は自然界にある多くの植物や、一部の動物や鉱物などを起源としたもので、さまざまな病気や痛み、怪我などの治療に役立つものを、自然界から経験的に見つけ出し、用いたのが始まりです。いまだに漢方薬はその延長にありますよね!
西洋薬はその中の成分で効いているものを取り出して、精製した化学物質で、どんな人が飲んでも、体内での代謝や反応などの生理作用に働きかけて、一定の変化を起こす作用があるものという事になります。これが薬理作用ですが、体内の状態が変われば、効き方も変わりますし、一度に多種類の薬を飲むと、どんな反応が起こるかは正確には分からないものになります。
薬は、飲んだ人によってはアレルギーで薬疹が出たりもしますし、あまり効かないということもあり得ます。要するに万人にとってメリットがある薬というものはなく、薬効が副作用を上回っていることを、治験で有意に確認できたものが市場に出回っているという事になるのです。
蒼野の38年間の治療経験の中では、不幸にして、滅多にない薬の副作用がきっかけとなって、最終的には命を落としてしまった経験も、胸の奥の痛みとして残っています。当時それが防げたかというと、やはり難しかったとしか言えません。データからは、この病気にはこの薬ということはある程度決まっているのですが、全員にメリットがあるとは言えないのが実感です。
そう言う思いもあって、出来るだけ安全で有効な薬を使いたい、薬の数を減らしたいということで、漢方に興味がありますし、今回のテーマである、ポリファーマシー(多剤服用)も大きな問題として捉えています。しかし実際に関わっていて、これを是正するのはとても難しいです。そこで皆様が知識として持って頂くことは、とても重要な事になるのです。
高齢になると複数の疾患を患う事が多くなります。胃の調子が悪ければ胃腸科に、膝が痛くなって整形外科に、健診で引っかかって内科にと、健康を心配し、気にする人ほど、小まめに受診をしてゆきます。自分がクリニックに勤務をしていた経験から言わせて貰えば、それぞれの訴えに合わせて、何か薬を出すことが圧倒的に多くなります。
受診したのに薬一つも出して貰えなかったと言われるのは、その人の事を深く考えて、時間をかけて生活指導を行った結果であっても、理解してもらうのはとても大変です。出した薬がなくなれば再診もしてもらえるので、クリニックやその提携薬局の売り上げを考えても、薬を出さないという選択肢はほとんどありません。
と言うことで、沢山受診すればする程、薬は増えてゆきます。”多剤服用患者において有害な事象が起こっている,あるいは起きやすい状態をポリファーマシーと呼ぶ”と厚労省が定義しました。薬でお腹が一杯になる程処方されている方は、皆様の身の回りにも居られるのでは無いでしょうか?
また聞いてみると、沢山出されすぎて、飲めないので飲まないと言う患者様も結構居られます。飲まないので要らないと言われる人はまだ良いのですが、お医者さんに悪いので、何も言わずに処方は貰うけど飲まずに捨てていると言う人は一定数おられるので、こうなると何の為に処方しているのかも分からなくなりますし、医療費も高騰します。
心臓病や脳卒中の再発予防の薬はやめにくいですよね! 高血圧、糖尿病、高脂血症、薬で胃が悪くなるので胃薬や制酸剤、訴えによって不眠や便秘、尿失禁や関節痛、腰痛など、それぞれに薬が出ればもう10種類以上になります。ポリファーマシーの目安は6種類以上と言われています。6種類以上内服している患者の10%に薬物有害事象が確認されています。
加齢や腎機能も考慮して、ちゃんと適正量で飲んでいても食欲不振やふらつきは起きやすい副作用です。高齢者が転倒で、大腿骨骨折を起こし寝たきりになる事例も後を絶ちません。薬のエビデンスは一般向けであり、高齢者では特に慎重に投与する必要がある薬が存在するのです。
海外では potentially in- appropriate medication(PIM)と呼ばれていて、日本でも「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン 2015」でリストが発表されています。高齢者でリスクがあるのによく処方される薬は、ベンゾジアゼピン、PPI、抗精神病薬、抗うつ薬、長期作用のSU剤などですので、ぜひ減らしてゆきたい薬になります。
しかし他の科やクリニックで出された薬は、なかなか止めろとは言えません。自分の担当の部分の薬を苦労して減らしても、どこかで新しい訴えをすれば、その分薬が増えていることもよくあります。その情報は、現時点ではお薬手帳で確認します。でも患者様が手帳を持ち合わせていない事も多く、把握できずに同じ種類の薬を出したりする事もあるのです。薬を飲むにしても優先順位は重要です。
薬剤師さんが、重なった薬などを見つけてくれることは多いのですが、減らすことに関しては、やはり難しそうです。しかし医師が全ての薬の詳しい知識までは持っていない(蒼野だけではないと思います…)ので、あえて調べなければ、薬の有害事象と気づかないことさえ、よくあるのです。
例えば降圧剤の副作用で空咳が出る様になり、それに対して鎮咳薬を処方しますが、原因薬剤を止めていないために治りにくく、量を増やすと眠気やふらつきが出て、咳の持続と傾眠傾向から、感染症が疑われて抗生剤を処方され、抗生剤のために薬剤性腸炎を併発すると言った事例は普通にあると言うことです。
日本の高齢者は今からもますます増えてゆきます。先日書いたように、ICT技術を使った、医療データのデジタル化と、理想的には、かかりつけ医とかかりつけ薬剤師が、病態だけでなく生活状況も把握して、その人個人に合わせた疾患予防、健康管理を行える様な方向が大切だと思うのです。そこには運動指導や栄養指導なども取り入れる必要があり、そうすることでようやく薬を減らしてゆくと言うことが実現できる様に思います。
1例ですが、HbA1c 11.4%の重度の糖尿病を患い、薬漬けの生活から復活した経済アナリストの森永卓郎さんは、インスリン注射と3種類の薬で治療しましたが、HbA1cは9%までしか下がらず5年間過ごしました。そのままでは早晩糖尿病性の重篤な合併症が出てくる数値です。
しかし番組企画のライザップで、週2回のトレーニングと食事療法を2か月半続けると体重が20kg落ち、HbA1cは5.8%と完全に正常化し、薬が要らなくなったそうです。やはりこれが本来の治療だと思います。医療費の高騰を防ぐためにも、今までの医師、病院任せの健康管理を、皆様の知識と生活習慣の改善に変えてゆく必要性が、今からもっともっと叫ばれる時代になると思います。
蒼野も今までできるだけ試みては来ましたが、減薬は本当に大変です。自分の健康は自分で守る時代になってきます。薬については家族ぐるみでその情報を集め、止めたいと訴えることが重要です。そして相談できる専門医と一緒に検討して止めてゆくのが安全です。
しかし、何よりも一番最初にするべきなのは、健康的な食事、睡眠、運動のサイクルを回すことであるのは言うまでもありません。疾患別に薬が要らなくなる生活習慣や技術を、もっともっと勉強して、皆様に伝えてゆきたい蒼野でした。
参照ページ: 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン 2015
https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/pdf/20170808_01.pdf
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