食欲のメカニズム!

2022/09/06

 台風11号が過ぎ去るまで、一晩中すごい風の音で、細切れに目が覚め続けてしまい、朝ヘロヘロになっていた蒼野です。横になっていた時間は7時間以上なのですが、久しぶりに良い睡眠が取れませんでした。今朝気づいたのは、身体がしんどいと、妙にお腹が減っていると言うことです。

 これもホメオスタシスを保つ身体の反応なのだとは思います。食欲のメカニズムは複雑です。まだ全て分かっていない分野なのですが、一生病気を寄せ付けない、理想の体型をキープするためには、食欲のコントロールについて、知識を入れておくことが重要だと思います。そこで今日は食欲とホルモンの関係について調べてみました。

 健康を維持するための食事は、毎日の生活習慣です。自分の食欲に逆らい続ける食事は、最初は頑張れても、そのうちに脳が満足できる食べ方に戻るのが普通です。つまり食欲をうまくコントロールし続けられれば、健康維持は容易になります。

 食欲のコントロールのメカニズムは複雑です。食べ物を食べると、胃が膨らんだ刺激とか、タンパク質が腸を通る時の刺激、血中の栄養素やエネルギー状態などの情報が、胃、膵臓、腸管、肝臓などの消化管から、迷走神経を介して、または食欲コントロールホルモンを分泌して、視床下部に送られます。

 つまり食べ物が胃腸を通る刺激で、グレリン、コレシスト キニン、peptide YY、glucagon-like pep- tide-1(GLP-1)といった消化管ペプチドなどの、食欲制御(促進 or 抑制)物質が出てきます。また肝臓のグルコースセンサーが血糖値の上下の情報を捉え、迷走神経求心線維を介して、視床下部に伝達するのです。

 また脂肪の蓄積状態によって、内臓脂肪や皮下脂肪からの、アディポサイトカインなどのシグナルも、血流を介して視床下部に送られます。視床下部はホメオスタシスを保つ、自律神経の中枢なので、その他にも、日内リズム、睡眠、体温などの情報も入力されます。

 同時に食べ物や周囲の状況の、視覚や嗅覚、味覚などの情報(めっちゃ美味しい)や、食べる事で脳内報酬系から出されるドーパミンなどの快楽物質(スイーツは別腹など)、これを逃したらまた食べるチャンスはなかなか来ない(食べ放題や奢ってもらうなど)と判断する前頭葉(大脳新皮質)からの命令なども、視床下部に伝達されます。最終的に全ての情報が統合処理されることで、「食べるのか」「食べないのか」が決まるのです。

 野生動物では、最後の大脳新皮質からの情報はほとんど入りません。動物の食欲は末梢臓器,視床下部,大脳辺縁系でバランスよく調節されているため,基本的に肥満は生じないのです。ただペットに、大脳辺縁系からの快楽を出す食べ物をやりすぎると太ります。

 ヒトでは発達した大脳新皮質からの欲求が、より強く視床下部に働き、過食になることが知られています。また動物には見られないシフトワーカーの仕事などで、概日リズムに逆らい、良好な睡眠が取れていない状態であると、肥満のリスクが高いことが明らかになっています。シフトワーカーの研究では、代謝が落ちた状態となって、エネルギーが消費されず、食欲を増すグレリン濃度は変化しないにもかかわらず、食欲を抑制するレプチンとPYYの血中濃度が低いことが、最近判明しました。1)。

 自然とはかけ離れた生活リズムとか、食品産業の戦略としての、食欲増進のための技術革新、見ると食べたくなる大脳新皮質への情報過多の時代となり、現代人は食欲コントロールのバランスを失う人が多くなっている様に思います。そして生活習慣病も激増しています。

 世界的に肥満は急増しており、1975年から比べるとほぼ3倍となりました。2016年時点でBMIが25~30の過体重の成人は13億700万人、BMI30以上の肥満の成人の数は6億7,100万人に上ります。5~19歳でも、肥満+過体重は3億4000万人。5歳未満の子どもでも3900万人と推計されました。

 日本人は高度肥満は少ないものの、BMI25以上の肥満者の割合は、2019年で男性で33.0%、女性で22.3%です。男性では40代(39.7%)、50代(39.2%)、60代(35.4%)で多く、女性でも50代(20.7%)、60代(28.1%)、70歳以上(26.4%)と多くなっています。逆に18.5未満のやせの割合は、男性で3.9%、女性で11.5%。若い女性でやせが多く、20代女性のやせの割合は20.7%に上り、これも一つの問題です。

 肥満者では糖尿病, 脂質異常症,変形性膝関節症,月経異常などを合併することが多く,最終的には生命予後も悪化します。肥満症患者が 3%以上体重減少することで、糖代謝、血圧、脂質などが改善することが明らかになっています。日本人の健康長寿にダイエットは必須です。しかし周囲を見回しても、現実的に減量は容易でないことはご承知の通りと思います。

 そこで重要なのが一生続けられるダイエットということになります。糖質制限は確かに有効で、体重も良く下がるのですが、目標を達成すると元の食事に戻す人が多く、続けられない人が多いためリバウンドが激しいです。糖質を制限する分、脂質で報酬系を満足させようとするため、飽和脂肪や揚げ物が増えるのも、健康維持にはマイナスとなります。

 カロリー制限は、脂肪と共に筋肉を落とすため、代謝が落ちて、太りやすく、痩せにくい体質になってしまいます。これは絶対に続けられないため、健康を考えると論外のダイエットです。16時間ファスティングは良い方法ですが、8時間の間に何を食べても良いというのは誤りです。断食明けの食事で、糖質や脂質が過多になると、吸収率が良いため痩せにくい上、糖化ストレス、酸化ストレスが増してしまいます。

 蒼野がお勧めするダイエットは、最新の糖尿病治療の食事法になります。食欲が抑えやすいので続けられるのは、自分で実践していて感じます。ズバリ緩やかな糖質制限(ロカボ食)です。我が国の糖尿病食(未だに病院などでも出されています)はエネルギー制限食が推奨されています。

 欧米ではエネルギー制限食で減量しても、糖質量が多い状態では、HbA1cは改善しないと報告されています。またエネルギー制限食で体重がベースラインより増加することもあり、体重や血糖値やHbA1cを改善させられる方法ではないことがわかってきています。蒼野としては、1食に茶碗1杯ご飯を食べる糖尿病食は有り得ないと思っています。

 かといって、ケトジェニックダイエットレベル(1食10g以下の糖質)の、低糖質食は続けられない人が多く、リバウンドが多くなるために、ゆるやかな糖質制限食よりも治療成績が悪いというデータがあります。ロカボ食は、しっかりタンパク質を摂ることで、グレリンが抑制され、PYYが分泌されるため、患者の食欲に任せるだけで、極端なエネルギー過剰になりにくいのが良い点です。

 基本の方法は、1食の糖質量を20g以上40g以下とし1日3食、それ以外に1日糖質10g未満の嗜好品(間食)を摂取して良いとする方法です。肉や魚、豆腐や卵はお腹いっぱい食べて大丈夫です。野菜の糖質量も1食120gでようやく20g程度なので、なかなかそこまでは食べられません。つまり主食の量を20g以下(ご飯茶碗半分)とすれば、1食40g以下になる計算です。

 ポイントはおかずを濃い味や塩辛くしないことです。ご飯が進むおかずを避けてお腹いっぱい食べること、間食で甘いものも食べる事などで脳も満足させることができ、食欲の暴走が防ぎやすい方法だと思います。最近はより低糖質の食材も増えていますので、美味しくて満足出来るものを増やしてゆきましょう。

 体重コントロールしやすく、血糖スパイクを防ぐ食べ方でもあります。糖化や酸化を防ぎ、老化や様々な生活習慣病にも対応できる食事法ですので、皆様にお勧めします。しかし寝不足の今日は、空腹のままワンコの散歩に出かけ、大きな茶碗で卵かけ玄米納豆ご飯を食べてしまった蒼野でした!

参考文献: 食欲制御物質と肥満症  日内会誌 104:717~722,2015

1) Impact of circadian misalignment on energy metabolism during simulated nightshift work. Proc Natl Acad Sci U S A 111 : 17302―17307, 2014.

過去ブログ:

https://blue-zone-life.com/635-2/
https://blue-zone-life.com/食欲%E3%80%80その1/

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