100歳で20本の歯!

2022/06/11

  今日は歯と健康寿命のお話です。よく取り上げられる話題ではありますが、歯がなくなると様々なリスクが高くなり、健康寿命が短くなるというのは、常識になりつつあり、1989年から厚生労働省と日本歯科医師会の提唱で、8020運動が始まりました。

 8020運動は、80歳になっても、自分の歯を20本残すことで、より健康な高齢期を過ごすための運動です。1989年当時の平均寿命が男性75.9歳・女性81.8歳でしたので、死ぬまで自分の歯を残そうという意味合いです。現在では9020、あるいは10020運動になるのでしょうか?

 その元になる研究をいくつか紹介します。65歳以上の健常者4425人を4年間追跡した研究では、歯が20本以上残っている人や、入れ歯で噛む事ができる人と比較して、歯が無く、義歯を使っていない人は、認知症の発症リスクが最大1.9倍になるということが示されました1)。

 また4425人中、歯が19本以下では20本以上と比較して1.2倍要介護認定を受けやすい2)ことも、報告されています。また、過去1年間に転倒経験のない65歳以上の健常者1763名を3年間追跡調査した結果、歯が19本以下で義歯も使用していない人は、歯が20本以上ある人と比較して3年後の転倒のリスクが最大2.5倍にまで高まることが明らかになっています3)。

 さらに日本の50歳以上の男性歯科医師9992名を、平均6年間追跡したところ、歯の数が14~28本の人と比較して、0~13本の人は大腿骨頸部骨折のリスクが、4.1倍も高まることも同時に報告されました3)。歯を1本失うごとにそのリスクが1.06倍高くなることも報告されています。

 沖縄県宮古島の40歳以上 の住民約5,700人を15年間追跡した研究で、開始時に80歳以上だった高齢者の生存状況を比較すると、噛める歯の本数が10本以上vs 10本未満では15年後に生存して いた割合は10本以上だった男性は54%、女性66%、10本未満だった男性は25%、女性42%と平均寿命自体にも大きな差が認められます4)。

 健康長寿を全うするために、歯の健康を維持することは、絶対に必要になりそうです。認知症に関しては過去ブログ( https://blue-zone-life.com/歯周病と認知症/ )で一度書きましたので、転倒と介護について、少し深掘りしておきます。

 実際に「要介護」と認定される原因の約1割は「骨折・転倒」です。特に下半身の骨折は「寝たきり」の生活に直結するため、超高齢社会の現代日本では転倒予防は極めて重要な課題なのです。病院の入院中の転倒は大きな問題で、現在も含めて蒼野が勤めたどの病院でも院内安全の取り組みは、熱心に行われています。

 転倒の理由については、大きく2つ考えられるようです。ヒトは頭部が重いために身体の重心が上半身にあります。咀嚼筋や歯根膜から脳に向かう求心性の線維によっ て頭部の平衡が維持されるというメカニズムがあるのです。

 歯の喪失や、義歯未使用による咬み合わせの喪失は,咀嚼筋や歯根膜から の神経伝達を減少させて頭部を不安定にし,その結果,身体の重心が不安定になり転倒しやすくなる可能性があるという考察が1つ目です。

 もう1つは、何でも食べれなくなる事による栄養の偏り、美味しくもなくなるため、食欲低下などが関与して、筋肉が減ってしまうサルコペニアや、加齢によるフレイルにつながってしまうことです。柔らかいものばかりだと、やはりタンパク質は必要量は摂れないように思います。

 歯の本数と食品を噛む(咀嚼)能力に関する調査によれば、だいたい20本以上の歯が残っていれば、硬い食品でもほぼ満足に噛めることが科学的に明らかになっています。義歯により、ある程度の咀嚼の回復は可能です。従来の義歯よりもインプラント義歯、それよりも固定式のインプラントが良好な咬合力、食品粉砕力に繋がります。

 確かに、毎日柔らかいお肉ばかりも食べれませんよね。外国産のステーキや酢蛸やスルメイカなど、しっかり噛めなければ食べられないものも多いと思います。やはり人類は雑食性なので、腸内環境のことを考えても、様々なものを毎日食べてゆくことが、健康に繋がります。

 8020運動が開始された当初、75歳以上で20本の歯を残している人は10人に1人にも満たない状況でした。しかしその後、20本達成者の割合は増加し、2016年の全国調査では、75~84歳の51%の達成が示されました。今後も増加することが予測されており、とても喜ばしいことです。

 歯がなくなる原因は、虫歯と歯周病です。虫歯が32%、歯周病が42%とされています。その予防ケアを行うのが予防歯科です。歯周病は50歳代以上の約80%がかかっている疾患ですので、自宅での日頃のケアを行いつつ、予防歯科治療を定期的に受けてゆくのが最善の方法になります。

 日本では痛くなってから歯医者に通う人が大半です。しかし欧米諸国では痛みが出る前に予防歯科へ通うことが一般的なのです。予防先進国スウェーデンでは80歳以上の方の大半が20本以上歯を残しています。日本では80歳以上に限れば、2016年で全体の40%程度なのです。

 それでは自宅ケアについて書いてみます。虫歯に関しては、だらだら食べない事が大事です。食べ物の中の糖質で歯の表面が少しずつ溶けてゆきます。特にお菓子やジュースはいけません。また、口腔内が乾燥しない様にしましょう。口呼吸で乾燥すると、唾液の殺菌作用が弱まります。鼻呼吸を意識する事が重要です。

 歯磨きはフッ化物配合歯磨き剤の使用し、1日2回以上、就寝前が特に有効です。むし歯になりやすい奥歯から磨き、歯磨剤は1g程度とし、フッ化物をすすぎすぎない様にしましょう。

 歯周病に関しては以前も一度書きましたが、おさらいです。小刻みに動かすブラッシング、順番を決めて磨き残しがないようにしましょう。歯と歯肉の間の歯垢をしっかり取り除くことを意識しましょう。もちろんフロスや歯間ブラシで歯間部を清掃します。せめて2日に1回は使いましょう。

 喫煙は、1日10本で歯周病のリスクは5.4倍、10年以上になると4.3倍に増加します。重症化の原因にもなりますので、禁煙が基本です。自宅では歯石までは取れないので、定期的に歯科受診し、プロフェッショナルケアを行いましょう、虫歯はシーラントで保護、予防を行い、歯槽膿漏は専門的口腔清掃を行ってもらうことも必要です。

 歯周病、歯肉炎を起こし、口腔ケアを怠れば、血液中に菌が入り、体内の慢性炎症を引き起こすエンドトキシン濃度も上昇します。口腔内細菌が、腸内細菌にも大きな影響を与えるからです。老化が進むと同時に、動脈硬化、認知症、糖尿病、心臓病をはじめとする全身の血管病、肥満や非アルコール性脂肪肝炎なども惹起してしまいます。

 半年に一度は歯医者さんに行ってくださいね! 食事はやはり軽い糖質制限を行い、腸内細菌のケアのために、プレバイオティックスとプロバイオティックスを摂りましょう。食事の注意点は、ほとんどの慢性病予防と共通するものとなります。

 4月の歯科検診でもセーフだった蒼野です。100-20を目指して、地道に口腔ケアを行なってゆきたいと思います。

参考文献

1)Association between self-reported dental health status and onset of dementia: a 4-year prospective cohort study of older Japanese adults from the Aichi Gerontological Evaluation Study (AGES) Project : Psychosomatic Medicine.2012 Apr;74(3):241-8. doi: 10.1097/PSY.0b013e318246dffb. 

2)Association Between Dental Status and Incident Disability in an Older Japanese Population : Journal of American Geriatric Society,60(2):338-348,2012

3)歯科から考える転倒予防  日本転倒予防学会誌 5 (1)23-25 : 2018 

4) Functional tooth number and 15-year mortality in a cohort of community-residing older people. Geriatr Gerontol Int.2007;7:341-347

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