歯の健康は、認知症を始めとする全身の健康にも深く関与しており、生活での管理が重要であるということは、何度かブログで書かせていただきました。政府の経済財政運営の指針「骨太の方針」に、全国民に毎年の歯科健診を義務付ける「国民皆歯科健診」の導入に向け、検討を始める方針になったという記事を目にしたので、今日は虫歯の管理という点に注目して書いてみようと思います。
この新聞記事を見ると、全国民が毎年歯医者を受診する義務があるのかと思ってしまう人がいると思うのですが、真意はそうではないようです。高校までの健康診断には歯科検診が入っていますが、大学以降、会社の健診には含まれていません。
自覚が無いために、歯周病や虫歯を放置してしまい、歯がなくなる人を減らすという目的のために、会社や自治体の健康診断の中に、歯科検診を加えましょう、という方針のようです。特に虫歯は、早期発見、早期治療の方が、通院回数も少なく、医療費も掛からないため健診が有用です。
歯周病においても、意識して生活習慣を改善できれば、認知症を始めとする、他の生活習慣病にも罹りにくくなるため、早期発見と治療がとても重要な事になります。ということで、蒼野としては、「国民皆歯科健診」は素晴らしいことでは無いかと受け止めました。
この機会なので、食事と虫歯について書いてみたいと思います。虫歯といえば甘いものとのイメージがあるのですが、砂糖の摂取量が増加すれば単純に虫歯も増えるかというと、実際はそうではないらしいです。虫歯は「細菌数」「糖質」「歯質」「時間」の4つがそろって発症します。
虫歯は虫歯菌(ミュータンス菌)が口の中の糖類を原料に、歯の表面にプラークを形成し、そこから持続的に分泌される酸によって歯が溶けることで発生します。ミュータンス菌がいなければ虫歯になりませんし、少なければ虫歯になりにくいといえます。
口腔内にも人それぞれの細菌叢があります。規則正しい生活習慣や睡眠、運動なども影響しており、免疫力を上げる生活によって、整いやすくなります。食べ物で言えば、糖質と白い炭水化物を減らし、食物繊維を豊富に含むキノコ類や海藻類、野菜、果物等を摂取する、特に悪玉菌を殺菌する「リンゴ酸」を摂取するのは大切です。
もちろんミュータンス菌の餌を口腔内に留めないことが重要で、長時間口の中に食べかすやプラークが残っていると、虫歯が出来やすくなります。歯磨きや歯石除去、歯のフッ素塗布やシーラントなどの歯科での予防処置、キシリトールの摂取なども有効な手段となります。
ミュータンス菌の餌となる、砂糖摂取量は虫歯の発生に密接に関係しています。WHO(世界保健機構)のガイドラインでは、「1日に摂取する糖類を、総エネルギー摂取量の5%未満に抑えるべき」とされており、これは平均的なBMIの成人で、1日当たり約25g(=小さじ6杯分の砂糖)未満が推奨されています。
同じ糖質量でも「口腔内停滞性」が高い糖質が虫歯を誘発します。あめのような口腔内停滞性が高い食品を摂ると虫歯が多発しやすいのです。また食間におやつを食べ続けたり、ジュースと頻回に飲んだりすることでも、口腔内に停滞する時間が長くなります。研究結果では、1日3回の食事の味付けに使用される程度の砂糖では虫歯を誘発されませんでした。
現代生活において、砂糖を止めるということはなかなか難しいと思います。なるべく間食の砂糖を減らし、回数も減らすことや、砂糖を口に入れたら残らないように、歯磨きを心がける。同じ甘いものでも、キシリトールなどの、虫歯を誘発せずに歯のエナメル質を再石灰化させる物を選ぶ、のが実際的な対処法だと思います。
キシリトールガムを1日3回、食後に5分間噛むことを継続すれば、虫歯の発病は60%程度抑制されるとされています。アメリカの報告では、1960年から水道水にフッ素を添加し始めて以来、虫歯が激減したそうです。また、虫歯になりやすい奥歯の溝をシーラントで埋めることにより、8歳児の虫歯が平均1本以下という成果を上げています。
日本でも、歯磨きや定期的な歯の健康診断などが普及したことで、1980年代をピークに小児の虫歯の数および比率は減少しており、現在では親世代、祖父母世代の子ども時代と比較しても半減しているのが現状のようです。この結果から、確かに大人にも定期的な健康診断が導入される意義は大きいように思います。
ちょっと面白いなと思ったのが、古代人や世界各地で食べ物が違う人種における虫歯率の報告です。同じ狩猟採集民族でも、1万2000年~2300年前の縄文人は8.2%! 7200年前の古代アメリカ先住民の0.4%や、近代のアボリジニ(オーストラリア先住民)の4.6%と比べても高いのです。
2000年前の弥生人になると、農耕生活に入っているため、土井が浜の骨では19.7%、三津の骨では16.2%に虫歯が見られます。一方グリーンランドのイヌイットは2.2%、アラスカのイヌイットは1.9%と、縄文人よりも少ない結果となっています。
縄文人は「採集」「漁労」「狩猟」で食べていました。日本の食環境が豊かだったのでしょうね。狩猟採集生活にも関わらず、定住できていたのは、食べ物が住居周辺のそこら中で採れていたことを意味しているのでしょう。貝塚を見ると、クリ、クルミ、トチ、ドングリ類などの木の実は、主食といえるほど食べていたようです。
糖質豊富な木の実が多かったことが、縄文人の虫歯につながったのだと考えられています。同じ縄文時代でも、北海道の住民には虫歯が少なく2.4%くらいです。気候の影響で木の実が少なく、北海道の縄文人は「漁労」「狩猟」の二つに励んで、魚や海獣類を好んで食べていたのが、虫歯が少ない理由のようです。
一方現代日本人の成人の虫歯は、厚生労働省の2018年の歯科疾患実態調査では、20歳以上の成人の9割が、つまりほとんどの方が虫歯になり、歯医者さんに行ったことがありました。しかも虫歯があっても放置している人が3割も居たのです。
人類の遺伝子はほとんど変わっていないのに、食事がいかに変わってきているのかを示す一つのデータだと思います。人類は雑食で、さまざまなものを食べて生きることができますが、その選択によって、病気の罹患率は変わるということです。
どんどん我々を取り巻く環境は変化しており、食べる物も変化しています。知識の無いままそれに流されて生活してゆけば、蒼野は、皆様の体にどんな病気が出てきてもおかしく無いように感じます。食事の基本としては、糖質を摂りすぎないことはいつも意識してもらいたいと思っています。
虫歯についての基本は、お家でのケアと、定期的な歯科受診ですね。キシリトールガムを噛みながらブログを書いている蒼野でした。
参考文献: WHOガイドライン(2015)“成人と小児における糖類の摂取”の解説 日本栄養士会雑誌63(8)pp.447-453. 西村一弘(2020)
参照ブログ:
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