高齢でも筋肉を増やす科学的な方法!

2023/01/13

 1月も半ばに差し掛かってきました。今年は身体を鍛えて、筋肉をつけようと思われてスタートした方も結構おられるのでは無いでしょうか? 蒼野もここ数年そう思って1年を始めています。一昨年から始めた筋トレと断食で最初の6ヶ月くらいはかなり変化しましたが、去年1年は、見た目が変わるほどの変化は起こせずに経過しました。

 60歳も超えてくると、筋肉は付きにくくなると聞きます。ボディメイクはちゃんと科学的根拠に基づいて行う必要を感じますので、今日は高齢者の筋肉増強のエビデンスを調べて、これからのボディメイクに役立てたいと思います。

 筋肉も身体の一部ですので、日々合成と分解を繰り返しています。筋肉が増えてゆきやすいピークは20代の半ば。それを過ぎると分解のスピードの方が速くなってしまいます。平均では、30~40代は年0.5%、50代は年1~2%、60代以降では年3%ほど筋肉が減ってゆくとされています。

 加齢による筋肉減少の理由は次の七つです。1、筋肉を作るホルモン分泌の減少。2、蛋白摂取の不足。3、筋肉を作る微量栄養素の欠乏。4、筋肉の質の低下。5、体内の慢性炎症。6、筋肉を動かす神経の非効率化。7、筋肉細胞の自然死(アポトーシス)

 このうち6と7はなかなか防ぐ方法がありませんが、1から5まではそれぞれ対策を立てることができます。ちゃんと対策ができれば、若者のように筋肉をつけることも夢ではありません。それではそれぞれについて考えてみましょう!

 まず筋肉を作るホルモン分泌の減少です。筋肉をつけるのを促進するホルモンにはテストステロン、成長ホルモン、IGF-1があります。30歳を超えるとテストステロンは年1~3%減少します。成長ホルモンとIGF-1は年1.4%減少するとされています。テストステロンが増えれば、成長ホルモンとIGF-1は増えるので、ここではテストステロンを増やす方法について考えてみます1)。

 一番テストステロンを増やしてくれる行動は筋トレです。当たり前でしょと言われそうなのですが、そのやり方も知っておいて下さい。筋トレの強度と量によって、テストステロン分泌は変化します。最大化する方法としては、1セットが1~12回で疲れ切る強度(1RM~12RM )を週に10セット行うことです。そうすればテストステロン分泌が最大になることが証明されています2)。

 加齢によって減ってくる筋肉の種類としては、より速筋(白筋)の減少が激しいことが分かっています。強度の強いトレーニングでは、速筋が付きやすいこともあり、できるだけ高重量を扱う方が有利なようです。お手軽な自重トレーニングも良いのですが、ダンベルやバーベル、マシントレーニングの方が結果が出やすいということになります。1079人、47 件の研究のメタ解析で、高齢者筋トレでも強度が強い方が筋肉増量が大きかったことが証明されています3)。

 4の筋肉の質の低下についても同様のトレーニングが効果的です。我々は加齢と共に、筋肉内に脂肪が溜まりやすくなり、いわゆる赤身肉から霜降りのお肉になりやすくなります。筋肉内の脂肪からサイトカインが分泌されると、筋肉がつきにくくなってしまいます。

 これは30回軽々できるような運動では、筋肉量自体は増えても、脂肪はそのままになってしまうため、質の向上にはつながりません。20回で限界となってそれ以上できないくらいの負荷で漸く筋肉の質は改善してくるのです。筋肉をつけやすくするためには、ちょっとキツイ筋トレが最適ということになります4)。

 テストステロンは健康にとってもとても重要なホルモンです。筋肉をつけるだけのホルモンではありません。テストステロンが十分に分泌されていれば、メンタル的にも幸せを感じやすく、自信に溢れ、頭の回転が良くなります。骨も強くなり、ストレスに強くなります。

 逆に不足してくれば、いつも疲れていて、気分が落ち込み、認知機能が低下しやすくなります。脂肪が増え、骨が弱くなり、筋肉が減るため、元気のない毎日を送る人になってしまうのです。テストステロンは普通の健康診断で測ることは無いため、見過ごされていることも多いのです。

 筋肉を作る栄養の摂取は重要です。一番はタンパク質になります。加齢と共にタンパク質を筋肉に変える力も低下してきます。その分多めに摂る必要があることが研究でも証明されています。一般に体重1kg当たり0.8gのタンパク質摂取が必要と言われていますが、50歳を超えるくらいからは1.2g以上は必要です。筋肉肥大を最大化するためには、筋トレをしながら2.2g/kgのタンパク摂取が推奨されています5)。

 これは食事で摂るとなるとかなりの量です。また1回摂取量も、高齢になると20gでは筋肉が出来にくいため、1回30g以上摂るのが理想となります。そんなに摂れないという方は、EAA(必須アミノ酸)を中心に摂ると良いかもしれません。EAA3gはホエープロテイン20gと同程度の筋肉タンパク質同化作用を刺激できるという研究結果が出ています6)。色が細い人は食事と共にEAAを補うのは良い方法だと思います。

 筋肉を作るのに必要な微量元素の代表がビタミンDです。体内に十分な貯蔵量があれば、テストステロン濃度が高まります。筋肉内の脂肪を減少させ、速筋を増やす作用があり、筋肉細胞の肥大に不可欠なビタミンです。日本食での摂取量は平均で276IU/日、必要な量は3000IU/日です。日光を浴びない人であれば、サプリメントが必要です。その他にもビタミンC、ビタミンE、生姜などをしっかり摂っておくことは重要です(過去ブログ参照)。

 最後は慢性炎症です。内臓脂肪や老化細胞からのサイトカインで、筋肉は作られにくくなってしまいます。腸内環境を整え、抗炎症物質を善玉細菌に作ってもらい、抗酸化物質をしっかり摂る、内臓脂肪を減らすための有酸素運動が重要です。日常の活動量が増えるだけでも違います。ちょっとしたスキマ運動や家事などがコツになります。

 男性であれば体脂肪率が8~15%の範囲にあれば、筋肉がつきやすいというデータがあります。もちろん7~8時間の睡眠時間が必要です。筋トレ前のカフェインも筋肉増強にはプラスになります。年を取っても筋肉をつける方法は沢山あるのですね!若い頃のように筋肉が付かないのは、仕方がないのかもしれませんが、検証しながら生活習慣に取り入れてゆきたいと思いました。

 人生を元気に過ごすためには、運動は絶対に必要です。同じ運動するのなら、筋肉がついてカッコいいと言われる方が嬉しい気がします。筋肉もりもりになる事=健康長寿では無いですが、今年は自重トレだけではなく、もう少し高強度の筋トレにもトライしてみようかなと思っている蒼野でした。

参照文献: 
1)Testosterone administration to elderly men increases skeletal muscle strength and protein synthesis. ; Am J Physiol. 1995 Nov;269(5 Pt 1):E820-6. doi: 10.1152/ajpendo.1995.269.5.E820.

2)The effects of short-term resistance training on endocrine function in men and women. ; Eur J Appl Physiol Occup Physiol 1998 Jun;78(1):69-76. 

3)Resistance exercise for muscular strength in older adults: a meta-analysis. ; Ageing Res Rev. 2010 Jul;9(3):226-37. 

4)Effects of resistance training intensity on muscle quantity/quality in middle-aged and older people: a randomized controlled trial. ; J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2022 Apr;13(2):894-908.

5)Protein ingestion to stimulate myofibrillar protein synthesis requires greater relative protein intakes in healthy older versus younger men. ; J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2015 Jan;70(1):57-62.

6)Protein Consumption and the Elderly: What Is the Optimal Level of Intake? Nutrients. 2016 Jun; 8(6): 359. 

参考書籍: 50歳からの科学的『筋肉トレーニング』   フィンク・ジュリウス

過去ブログ:

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