上咽頭の炎症は万病の元!?

2023/08/08

 コロナ後遺症との関連が注目されている、慢性上咽頭炎について、新しい知見を知り、大事だと思ったので皆様にもお知らせしたいと思います。上咽頭は、解剖的にもとても重要な場所です。上気道感染症の始まる部位でもあり、常に外界のウイルスや細菌と戦っている場所だからです。

 上咽頭は、栄養の吸収と同時に、ウイルスや細菌を排除しなければいけない小腸と同じように、常に多数のリンパ球が待機して、いつでも戦えるように備えている場所なのです。今までのブログで、老化や病気の原因に、体内の慢性炎症が隠れていることを書いてきたのですが、腸だけではなく、上咽頭も慢性炎症の元になりやすい場所であることが、とても重要なことなのです。

 上咽頭は、鼻の後ろと口の後部に位置する咽頭の上の部分で、空気の通り道であり、鼻から吸った空気が上咽頭に当たってから、気管の方に方向を変える部位です。その少し下の側方には、扁桃腺があります。この二つの場所が、空気中の病原体の最初の防衛線として機能しています。

 ですから一般的に風邪の引き始めなどに喉が痛くなるのは、上咽頭の炎症が起こり、感染に対して免疫細胞が戦っている状態です。喉が痛い時のイメージは、口の奥の アーと口を大きく開けた時の口の一番奥が痛いような気がするのですが、ほとんどの場合、上咽頭が炎症を起こしているそうです。

 蒼野が知らなかったのは、上咽頭炎が軽い場合は、痛みも感じないのですが、痛くない上咽頭炎でも、さまざまな病気に繋がっている可能性があることです。程度の差はあるものの、実に我々の約8割が慢性上咽頭炎に罹っているという事にも驚きました。蒼野は冬の空気が乾燥する季節になると、よくエヘン虫に悩まされ、喉がイガイガして気持ちが悪い日が多いのですが、これも上咽頭炎の可能性が高いという事です。

 確かに思い出してみると、去年からコロナ予防の為、自宅に帰宅後に鼻うがいをする習慣を付けてから、滅多に喉のイガイガが無くなったことに、今気づきました。普通のうがいでは上咽頭を直接洗うことはできません。今更ながら鼻うがいの効果を実感します。

 腸の状態が良くなると全身の慢性炎症が抑えられるように、上咽頭炎も、全身の慢性炎症の原因になることから、そののコントロールは、老化や病気の予防にとても大きな影響があると思います。

 上咽頭の炎症が慢性化していると、免疫が活性化されすぎて、花粉症や慢性蕁麻疹などのアレルギー疾患が起こったり、活性化された免疫細胞が自分の組織を攻撃する、リウマチ、IgA腎症、などの自己免疫疾患に影響するのです。

 上咽頭には迷走神経と舌咽神経が豊富に分布しています。上咽頭炎が起これば、舌咽神経が喉の痛みとして感じるだけでなく、迷走神経が炎症性サイトカインなどで刺激され、さまざまな内臓に影響する可能性があります。特に胃や腸に影響して、機能性ディスペプシアや、過敏性腸症候群の一因になったりもします。

 子供の場合には起立性調節障害や頭痛につながり、朝起き上がれないために、不登校の原因になることもあるようです。こんな子が、上咽頭炎の治療、簡単には鼻うがいの習慣で、朝起きれるようになり、登校できるようになる場合も珍しくありません。

 上咽頭に炎症があると、周囲の筋肉も緊張します。肩こり、首こりの原因にもなり、緊張性頭痛や片頭痛の誘因になっていることもあります。慢性上咽頭炎があると、胸鎖乳突筋が硬くなりやすく、押さえると痛みが出ます。胸鎖乳突筋は耳の後ろの乳様突起と鎖骨の内側を結ぶ筋肉ですから、耳介の下の胸鎖乳突筋を押さえて痛みがあれば、慢性上咽頭炎を疑いましょう。

 上咽頭は脳の老廃物を運び出すルートの途中にあります。脳でできるアミロイドβなどの老廃物は、グリンパティックシステム(深睡眠中にグリア細胞が収縮して隙間が出来、髄液で洗い流される)によって、脳の外に運び出されるのですが、その後、後頚部のリンパ管と、上咽頭を含む鼻の奥の二つのルートで排泄されるのです。

 上咽頭炎によって、周辺組織が腫れてしまうと、排出ルートが圧迫されます。老廃物の排泄が滞ると、ちょうど睡眠不足の時のように、頭にモヤがかかったような「ブレインフォグ」が起こり、集中力や記憶力の低下につながる可能性があるのです。うつやパニック障害、不安障害などへの影響も報告されています。

 ここまでの症状を見ると、まさにコロナ後遺症やコロナワクチン後の遷延する副反応の多彩な症状が、慢性上咽頭炎の症状と重なっていることに気づかれた方も居られるかもしれませんね。上咽頭の粘膜細胞は、新型コロナウイルスが侵入するための受容体である、ACE2やTMPRSS2の発現が高いことが知られています1)。

 ですからコロナの検査も初期には綿棒で上咽頭を擦過して検体を採取するのが最も検出率が高く標準的な方法なのです。新型コロナ罹患後も、上咽頭の炎症の残存が多いことが知られており、コロナ後遺症の人の上咽頭粘膜を生検した研究では、長期間に渡って上咽頭粘膜上皮下に、SARS-CoV-2 spike RNA が残存していることが明らかになりました2)。

 まだコロナ後遺症の明らかな原因は特定されていないものの、上咽頭におけるウイルス抗原残存に伴う免疫反応が 、Long COVID患者の長引く上咽頭炎の原因の一つである可能性があると推測されています。そして現時点で、コロナ後遺症に対して、上咽頭に対する治療が多く試みられています。

 上咽頭擦過療法(epipharyngeal Abrasive Therapy : EAT)は、1960~1970年代に日本で堀口先生が提唱し、万病に効くとされて、日本だけで行われてきた治療法です。メカニズムが不明で、万病に効くのは怪しいと一旦衰退したのですが、コロナ後遺症に有効な手段がない現時点では、世界的にも注目を集めています。最近では内視鏡も併用して、上咽頭を観察しながら行われているようです。

 塩化亜鉛溶液に浸した綿棒を、上咽頭に擦り付けるシンプルな治療ですが、上咽頭炎がある人では、強い痛みと共に出血が見られます。出血することで炎症部位の血液が、活性化した免疫細胞と共に除かれ、炎症が鎮静化しやすくなります。塩化亜鉛自体の抗炎症作用もあるようです。上咽頭の腫れが治れば、脳の老廃物も排泄されやすくなります。

 同時に迷走神経を強く刺激することで、視床下部・大脳辺縁系にも作用し、自律神経の乱れが戻るきっかけとなることで、ブレインフォグやめまい、不眠、起立性低血圧や、メンタルの不調、慢性疲労の症状の改善につながることが推測されています。

 EATが受けられる医療機関は、日本病巣疾患研究会のホームページで調べることができます。EATについても詳しく解説してありますので、興味のある方はご一読ください。胸鎖乳突筋を押さえて痛みがあり、どこに行っても不調が治らないという方はやってみる価値はあると思います。

 悩む程の不調でない場合には、鼻うがいです。蒼野も去年から健康法の一環として採用していますが、慢性炎症を抑える可能性を考えると、副作用もありませんから、誰もが習慣にすると良いと思います。朝起きて喉が痛い時などもテキメン効きますよ! 

 ポストコロナの時代ですが、現在の発熱外来のコロナ陽性率はやばいなあと感じている蒼野です。福岡は再びフェーズ5に戻っています。コロナ予防にも、後遺症対策としても、アンチエイジングのためにも1日1~2回の鼻うがいは良いと思いますので、是非生活習慣に取り入れてみてほしいと思います! 

参考文献:
1)Epipharyngeal Abrasive Therapy Down―regulates the Expression of SARS―CoV―2 Entry Factors ACE2 and TMPRSS2. In vivo. 2022, 36 (1) 371-374

2)A Potential Novel Treatment for Chronic Cough in Long COVID Patients: Clearance of Epipharyngeal Residual SARS-CoV-2 Spike RNA by Epipharyngeal Abrasive Therapy. ; Cureus.2023. 2023 Jan; 15(1): e33421.

日本病巣疾患研究会のホームページ:  https://jfir.jp/

過去ブログ:

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