FDAが認めた最新の腸活法?!

2023/04/24

 皆様は腸活を心がけておられますでしょうか? 太古の昔から、我々と共生してきた腸内細菌叢は、人類が作れない身体に必要な栄養素を作ってくれる大事な器官です。腸内細菌の状態は我々の健康やメンタル、パフォーマンスにも大きく影響するものだと、蒼野は認識しているため、日々の腸活には、注意を払っています。

 今日はそんな腸内細菌叢を改善する、人の便から作った薬が、米国FDA(日本の厚生労働省にあたる)で認められたというお話です。目には見えませんが、我々は腸内だけではなく、口腔内や鼻腔内、皮膚などでも多くの微生物と共生しています。これらは「マイクロバイオータ(微生物叢)」と呼ばれ、研究が進むにつれて、消化器の病気だけでなく精神・神経疾患、感染症、がんなど多くの病気と関係があることがわかってきているのです。

 今回認められたのは、ヒトの大便に含まれる腸内細菌を使った製剤「Rebyota」です。去年の11月30日に、世界で初めて認められたタイプの薬になります。大腸内にC.ディフィシルという菌が感染した、「偽膜性腸炎」という病態に、適応がある薬になります。

 この病気は蒼野が医者になった当時から問題だった病態です。繰り返す肺炎などの感染症に、病院で抗生物質を使用していると、腸内細菌も一緒に死んでしまい、腸内細菌叢のバランスが崩れます。C.ディフィシルは、ヒトや動物の腸内や、土壌などの中にいる細菌です。健常人も少量持っている菌なのですが、バランスが保たれていれば、問題にはなりません。

 C.ディフィシルは、普通の抗生剤では死なない菌なので、他の感染症に対して繰り返し抗生剤を使っていると、腸内で他の菌が死んだ分、C.ディフィシルが増えやすくなります。C.ディフィシルは2種類の毒素を産生する菌です。C.ディフィシルが増えると、これらの毒素も増えてきます。

 これらの毒素は、大腸の細胞に結合し、細胞内のタンパク質の修飾を行います。細胞の骨格構造が破壊され、細胞の機能が損なわれ、最終的に細胞死が起こります。これが、炎症や腸の損傷、下痢などの症状を引き起こします。重症化すると、腸閉塞や腸穿孔、敗血症などを起こして、死亡することもある病態を引き起こすのです。

 こういった「偽膜性腸炎」が起こると、治療としてはC.ディフィシルに有効な抗生物質を使用することになります。治療の第一選択薬は、バンコマイシンとフィダキソマイシンです。しかし腸内細菌叢は、この治療では元には戻りません。投与をやめると、C.ディフィシルのような強い菌が、最初に増殖してくるため、とても再発しやすいのです。

 米疾病対策センター(CDC)やFDAによると、米国内では毎年50万人近くが、C.ディフィシル感染症を起こし、1万5000人~3万人が亡くなっています。日本では詳しい統計がとられていないようなのですが、国立感染症研究所による複数の病院のデータでは、発症率は欧米と変わらないとのことです。

 C.ディフィシル感染症はとくに高齢者に多く、病院や高齢者施設でクラスターが発生することも珍しくありません。アメリカのデータでは、感染した65歳以上の患者様では、11人に1人が亡くなられる悲惨な疾患なのです。蒼野も何人もこの疾患で、患者様を失った経験があります。

 C.ディフィシル感染症は、最初の感染症を起こしてから2~8週間以内に、6人に1人が再発します。一度再発すると、さらに違う抗生剤を使うこともあり、1回再発した人は、さらに2回目の再発を繰り返しやすくなるのです。長期にわたって、最も効くと言われる、バンコマイシンとフィダキソマイシンに対する耐性菌も出現してきます。今までの治療ではなかなか上手くいかない疾患なのです。

 腸内細菌叢が乱れたままでは、C.ディフィシルがはびこりやすいのです。少し抗生剤を飲んだだけでも、一旦崩れた腸内細菌叢のバランスは、1年近く経たないと回復しないと言われています。そういう理由で、C.ディフィシル感染症の悪循環を断ち切る治療として期待されているのが、便移植なのです。

 2013年に発表された研究で、C.ディフィシル感染症の患者に対する便移植の効果が示されています。研究チームが偽膜性腸炎患者を、ランダムに3群に分けて、感染から10週以内の再発の有無を調べた研究です1)。

 グループ1は抗生物質を4日間内服+腸洗浄をした上で、便移植を受けました。グループ2は抗生物質を2週間内服のみ。グループ3は抗生物質を2週間内服+腸洗浄を受けています。再発をしない割合は、グループ1で93.8%、グループ2で31%、グループ3で23%で、便移植グループが有意に、再発が少ない事が判明したのです。

 便移植後の患者の便を分析すると、移植前に多様性が少なくバランスの悪かった便が、移植後は便の提供者と同等に、多様に変化していました。この論文以降、C.ディフィシル感染症の治療に便移植を用いる病院が増加し、2021年の米消化器病学会ガイドラインでも、C.ディフィシル治療に便移植が推奨されています。

 製剤の開発も進み、今回FDAに認可されたRebyotaは、安全であることを、便や血液の検査で確認した、健康な人から提供された大便から作られました。150mlを患者の肛門から注入する製剤です。ランダム化研究で、投与から8週間以内に、C.ディフィシル感染症を再発しなかった人の割合は、Rebyota群で70.6%、プラシボで57.5%でした。意外に差が小さいと思われるかもしれませんが、投与後2ヶ月再発しなかった患者の9割以上は、6ヶ月経過しても再発しませんでした2)。

 便移植と比較すると、少し物足りない結果ではありますが、安全性の確認方法や製造方法が標準化され、一定の効果も確認された製剤であるということが、承認の理由のようです。便移植では2018年に1名だけ、便の安全性の確認が甘かった便移植を受けた患者が死亡する事例があったため、製剤化するのは意味がある事であるという認識です。

 米国では2023年中に最終の臨床試験が終わる、腸内細菌叢製剤が二つあります。これは経口投与で使える形態とのことです。健康な人といえども、他人の便を飲むのは、イメージ的には抵抗がありますが、

 米国では2023年中に最終の臨床試験が終わる、腸内細菌叢製剤が二つあります。これは経口投与で使える形態とのことです。健康な人といえども、他人の便を飲むのは、イメージ的には抵抗がありますが、

 米国では2023年中に最終の臨床試験が終わる、腸内細菌叢製剤が二つあります。これは経口投与で使える形態とのことです。健康な人といえども、他人の便を飲むのは、イメージ的には抵抗がありますが、より使いやすくなるのは進歩ですね! 腸内細菌叢の可能性は大きく「マイクロバイオータ」に関する臨床試験は世界中で3000件以上が現在進行中です。今後様々な疾患への応用が期待されます。

 蒼野が想像するのに、便が材料になるのであれば、日本人に合う製剤はやはり日本人の便が良いのではないかと思います。素晴らしい腸内細菌の持ち主が「金の卵」ならぬ「金のう○こ」を産んで、それが売れる時代が来るかもしれません。その日のために、今は腸活に励もうと思う蒼野でした。

参考文献:
1)Duodenal Infusion of Donor FeCes for ReCurrent Clostridium diffiCile. ; N Engl J Med 2013; 368:407-415

2)EfCaCy and Safety of RBX2660 in PUNCH CD3, a Phase III, Randomized, Double‑Blind, PlaCebo‑Controlled Trial with a Bayesian Primary Analysis for the Prevention of ReCurrent Clostridioides difCile InfeCtion. ;  Drugs 2022; 82, 1527–1538 

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