先日発売された雑誌、PRESIDENT『健康診断のウラ側』号を読んでいます。自分の現代医療に対しての想いとリンクする部分、興味深い事実が沢山書かれています。今日は蒼野が感じる『日本の医療システム』が作り出した『日本の健康常識』について書いてみたいと思います。
今までの常識として「病気になったら、お医者さんが診てくれるし、病気は病院で治してもらえる」と思われている方は結構居られるかもしれません。医療マンガや医療ドラマでは、ヒーロー医師が、メスや特殊な能力で、「私が命を救う!」というのはよくある設定です。
健康で、病院にかかったことが無い方にとって、医療はこんなふうな医師が治療してくれることをイメージしているのかもしれません。蒼野も医師になる前には、そんな医師になりたいと憧れていました。しかし40年近く医師生活を送ってきて、一刻を争う外傷の手術などを除けば、特に生活習慣病では「患者様が自分で治したんだなあ」と思う経験しかありません。
蒼野が診てきた患者様は、少し調子が悪ければ、病院にかかるという人と、自分の健康には全く興味が無くて、働き盛りに急に倒れる人に二分されます。頻繁に病院にかかる方は、慎重で、一見良い様にも見えますが、薬を沢山飲んで、様々な不調がある方が多いです。検査値を気にする方も多いのですが、生活習慣では無く、薬で治そうとする傾向があります。
国民皆保険は素晴らしい制度です。しかし欧米に比べると、安い治療費で、医療が受けられることで、病気にならない様に、日頃の生活習慣を見直すという人が少ないのは、いつも感じるジレンマです。欧米ほどウェルネスが、一般的にならないのはこの制度の影響が大きい様にも思います。
少子高齢化が進み、高齢者人口が増え、医療費も増大しています。1990年の医療費は20.6兆円でしたが、2030年には43兆円となっています。1990年代の半ばから、日本はデフレが続いているため、額面の問題ではなく、実質の医療費がかなり上がっていることを意味しています。
それを支える若者は、人口が少なく、若者の間では、30代後半の経済学者、成田悠輔さんの「高齢者の集団自決発言」のような過激な意見まで出てきています。確かに、無い袖は振れないので、手っ取り早い意見かもしれません。
しかしその解決策は、PRESIDENTの巻頭の、養老孟司先生と池田清彦先生の特別対談の中にヒントがある様に思います。医療は必ず大きなお金が動く、廃れることのない業界です。加齢と共に、体の調子が悪くなると、意識していないと、誰もが日本の医療システムに巻き込まれるというのは、真実だと思います。
健康診断やがん検診を受けると、早期発見、早期治療が可能となり、みんなが健康になって医療費が抑制されるというのは、間違いだと断言されています。先日蒼野もブログで『健康診断結果を見た時の考え方!』について、健康診断の意味と、日本だけ基準が厳しいことについての疑問を書きましたが、やはり同じ様に考えておられる様なのです。
健康診断で病気を見つけるのだから、見つければ見つけるほど、治療につながり、医療費は高くなるに決まっているのです。人間の健康は、すべての検査値が正常であることではありません。検査して異常値を治療する事と、健康を保てることは、根本的には違うということです。もちろん若い人で高率に、血管疾患につながる様な異常値は放置しない方が良いですよ!
しかし85歳の養老先生や、76歳の池田先生の年齢になれば、検査値の異常があるのは当たり前です。中々完全に健康という人は居ないのです。しかし日本の医療システムは全部を治そうとするのが常識ですし、医師はそういう教育を受けて来ています。機械の一部分を直す様な考え方が、西洋医学です。
異常値は医師が薬を出して、治すというのが日本の医療システムです。逆に言えば、薬を出さないと医者は食べてゆけないシステムです。健康診断の異常値によって、一度医者にかかると、このシステムに、否応なく飲み込まれます。しかし皆さんの身体は全て繋がっていて、薬だけで健康になるのは、本当に難しいと感じています。
お二人の考え方としては、どこか痛いのでなければ、医師には診てもらわなくても良い、と思われている様です。「今日は調子が悪いなあと思っていたら、夕方死んでいた」というのが、医療費もかからず、理想だと思う、と言っておられます。確かに人間は最後は死ぬのですから、ちゃんと自分で受け入れられている様であれば、これもアリだと思います。
高齢になると癌も増えてきます。養老先生は85歳の現在癌が見つかっても、「ああそうですか」という感じだそうです。痛みをとる対症療法は希望されますが、手術は希望されていません。その年で手術して、きれいに癌が切除出来ても、10年寿命が伸びることはありえないということです。
蒼野も60歳時の、硬膜外血腫の手術は、思った以上に体力が落ちる経験をしました。毎日歩いても、回復するのに半年以上かかりました。80歳で癌の手術をして、例えば3ヶ月寿命が延びても、苦しい思いをして、ベッドで過ごすのであれば、手術をしないという選択肢もあるということです。
もちろん若い人では、違う考え方が必要ですよ! 誰もが死ぬことは分かっているけど、「自分の命は無限だ」と感じているのが「若い」という定義であり、体にさまざまなガタが来て、リアルに「自分の命と残りの人生で出来ること」が感じられる様になるのが「年寄り」だと書いてあったのは、印象的で妙に納得してしまいました。
年寄りは若い頃を経験しているので、若者の気持ちは理解できますが、若い人は経験出来ないので年寄りの気持ちは分かりません。しっかり年齢と共に、自分の健康常識をアップデートしてゆく必要があるのです。賢い患者になるには、医師の言うことを鵜呑みにしない事です。
今後医療知識は、かなりAIに相談することができる様になります。医療に関わらず、職業としてそれで食べている業界の人の意見は、丸ごと信用は出来ないのです。医師はすべての病気の専門家ではないですし、製薬会社からの情報も、営利目的でそのための研究データだからです。
行動成長期に作られた、日本の医療システムは、少子高齢化が進む現代にマッチしておらず、どんどん医療費が嵩んで行くと言うことの様です。今そのシステム上で、蒼野も含めて、ご飯を食べている人は沢山います。現状で大きくシステムを変えるのは難しいのです。
目から鱗だったのは、その医療システムが変革するのは、南海トラフ地震だろうという推測です。大地震で生活基盤自体が揺らげば、無駄のある病院システムは吹き飛び、一番必要な水や食べる事を作ることから、立て直す必要があります。そこから立て直せば、全く今とは違う医療システムになるはずだと書かれていました。
プレート地震は怖いし、避けたいのですが、現状いつ来てもおかしくない時期になっています。社会が大きく変わると言うのは、否応の無い圧力が掛かった時だけなのでしょうね。事故の後、自分がいつ死んでもおかしく無いなあと言うのが、リアルに感じられて、考え方が大きく変わり、年寄りの仲間入りをした蒼野でした。
参考書籍: PRESIDENT 健康診断のウラ側
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