今日は筋肉が癌を防ぐというお話をしようと思います。以前のブログで、筋肉を付ければ認知症にならないというお話をしたのですが、筋肉が分泌する生理活性物質は600種類もあり、炎症を抑えることで、免疫力を高め、癌の発生を抑える物質があるということが証明されてきています。
筋肉から分泌される生理活性物質が『マイオカイン』です。2000年代になって見つかった物質で、身体を動かす単純な組織だと思われていた筋肉が、実は重要な分泌器官だったことが分かってきているのです。脳を育て、記憶力を高めるBDNF(脳由来神経栄養因子)は、海馬からだけではなく、筋肉からも分泌されています。
運動して筋肉をつけることが身体に良いということは、皆様ご存知ですよね! これらを裏付ける疫学研究がいくつも発表されています。例えば運動しない肥満者が、毎日20分でも歩くようになると、BMIが減らなくても、死亡率が低下します1)。
また日常的に運動量が多いと、少なくとも 13種類の癌のリスクが低下します2)。144万人のコホート研究参加者のデータを解析し、186932人の癌患者について、運動習慣と癌の発生率を調べたところ、26種類の癌のうち13種類が運動習慣によってリスクが下がっていました。
また、デンマークの研究で、1436人と男性と1380人の女性について10年間経過観察した研究では、筋肉量の指標である大腿周囲径と寿命とは有意に相関しており、筋肉量が多いほど、心血管疾患が減り、寿命が長いと結論されています3)。
そのメカニズムについては、まだ全ては解明されていないのですが、血流やリンパの流れを改善したり、骨格筋が分泌するマイオカインが関係していると考えられています。筋肉も体の一部であり、他の臓器とのコミュニケーションを取りながら、我々の健康を支えてくれているということなのです。
マイオカインのうち、初期から研究されているものが、サイトカインの一種であるインターロイキン6(IL-6)です。元々は炎症を促進するサイトカインとして発見されましたが、IL-6 は少しの運動でも筋肉から分泌され、骨格筋への糖の取り込みを促進し、炎症を抑える効果があることが判明しました4)。IL-6の注射で、体内の炎症が半減するのも確認されています。同じ物質なのに作用が正反対になる理由は分かっていません。
別のマイオカインにイリシンという物質もあります。イリシンは白色脂肪組織のミトコンドリアを増やして、熱を産生するベージュ脂肪組織へ変換していくとても大切な物質です。脳機能の改善や、代謝が上昇することで体重減少や、耐糖能異常も改善してくれます。アンチエイジングにも有効なマイオカインなのです。
このイリシンは癌細胞を抑制することも判明しています。418万人(38件の研究)の解析で、経過中に11万6000人が乳癌を発症しており、週当たりの運動時間で分けたグループで比較したところ、運動が多いグループは少ないグループと比較して、乳がんリスクは11~20%低下しています。全く運動しない人が、週4~7時間運動するようになると、乳癌リスクは31%下がります。
乳癌治療中の患者でも、習慣的な運動によって生存率が30~40%も向上するのです。実験で乳癌細胞にイリシンを投与すると22倍もアポトーシス(細胞死)が起こることも証明されました。運動は抗がん剤としても使えるかもしれないレベルなのです。
アメリカの研究では、大腸癌に対しても、運動がリスクを確実に減らしてくれることが報告されています。SPARC(secreted protein acidic and rich in cysteine)と呼ばれるマイオカインは、運動によって筋肉から分泌され、大腸がんの芽になる細胞を認識しアポトーシス(細胞死)に導くことが確認されました6)。
マウスにがん細胞を注入し,運動群と非運動群でがん病巣の増殖率の差を調べた研究では、運動群では,NK(natural killer)細胞が活性化しており、がんの増殖が有意に抑制されていました7)。また筋肉に癌が転移することは非常に稀でもあり、筋肉細胞自体には、癌抑制効果のある物質が存在している可能性があります。
筋肉は本当に大事な器官ですね! 筋肉は毎日絶えずに作られては壊されています。加齢によって、筋肉は壊れる反応の方が優勢となってしまうため、意識しておかないとどんどん減ってしまいます。逆に筋肉は増えすぎると、エネルギーをどんどん消費してしまうため、飢餓の歴史を生き抜いた人類には、筋肉が必要以上に増えすぎないようにする、ミオスタチンというマイオカインが分泌されています。
ベルギーに「ベルジャンブルー」という品種の食肉牛がいます。普通の牛に比べ、筋肉が2倍も付いており、筋トレしなくてもどんどん筋肉が付く品種なのです。「ベルジャンブルー」はミオスタチンを作る遺伝子が欠損しているために、筋トレしなくても筋肉がつきまくることが分かりました。ちょっと羨ましい気持ちにもなります。
ミオスタチンを阻害する薬も創薬が試みられているようですが、筋肉が必要以上に付くことで、バランスが崩れると別の病気が出てくる可能性があり、まだ実用化は難しいようです。またIL-6についても、免疫の暴走による炎症亢進作用と、炎症を抑える作用があるため、やはり筋トレで分泌させてゆくのが、現時点では最も良い方法のようです。
蒼野には、加齢と共に病気が増えてゆくのは、筋肉が減ってゆくことによるものが大きいように思えます。しかし必要以上に激しい運動を繰り返すと、スポーツ選手が短命なように、活性酸素が細胞を老化させてしまうことになります。この辺はやはりバランスなのだと思います。筋トレもやりすぎはNGですが、やらなければ病気を招きます。
タンパク質摂取の時も書きましたが、摂り過ぎも良くないですし、不足はもっと良くないのです。筋肉を落とさない範囲の摂取が必要です。筋肉の合成にはタンパク質とビタミンDが必要です。筋肉を落とさない摂取量としては1日1g/kg、筋肉を付けようと思ったら1.5~2g/kgくらいが必要です。
逆に長寿遺伝子や、オートファジーの活性化のためには、カロリー制限や、断食が有効です。ということで、健康長寿が目的なら、やはりメリハリをつけたバランスが大事なのだと思います。お腹が減ってから、食べるのが、自然にバランスを取る方法ではないでしょうか?
中高年からは、やはり運動習慣が必須だと思います。毎日できる癌細胞を消し続けてゆけば、癌が大きくなることは無いと思います。短時間で良いので毎日出来るよう意識してゆきましょう。蒼野も忙しいとつい筋トレできない日があります。最近は朝イチのストレッチは続いているので、1日2分の朝HIITを続けていきたいなあと思っています。
マイオカインを出す毎日、皆様も是非確立してゆきましょうね! 来年も健康オタクまっしぐらで行きたい蒼野でした!
参考文献:
1)Physical activity and all-cause mortality across levels of overall and abdominal adiposity in European men and women: the European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition Study (EPIC). ; Am. J. Clin. Nutr., 101,(3) 613-621. 2015
2) Association of Leisure-Time Physical Activity With Risk of 26 Types of Cancer in 1.44 Million Adults. ; JAMA Intern. Med., 176,(6) 816-825 2016
3)Thigh circumference and risk of heart disease and premature death: prospective cohort study. ; BMJ, 339, b3292 (2009).
4)Anti-inflammatory effects of exercise: role in diabetes and cardiovascular disease. ; J. Clin. Invest., 47(8), 600-611 .2017.
5)Physical activity and breast cancer prevention. : Possible Role of Immune Mediators
Frontiers in Nutrition; https://doi.org/10.3389/fnut.2020.557997
6)The World Cancer Research Fund/American Institute for Cancer Research Third Expert Report on Diet, Nutrition, Physical Activity, and Cancer: Impact and Future Directions. ;
J Nutr. 2020 Apr 1;150(4):663-671.
7)Exercise-Dependent Regulation of NK Cells in Cancer Protection. ; Trends Mol Med. 2016;22(7): 565-77.
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