骨粗鬆症の新しい薬!

2023/09/01

 今日は骨粗鬆症の新しい薬についての説明を聞いたので、自分の記憶に残すためにも、ブログでアウトプットしておきたいと思います。その薬の名前は『イベニティ』と言って、今までになかった抗体製剤です。

 骨粗鬆症は、破骨細胞が古くなった骨を壊す骨吸収と、骨芽細胞が新しい骨を作る骨形成のバランスが崩れ、骨吸収が骨形成を上回ることで起こる疾患です。2015年の骨粗鬆症の予防と治療ガイドラインでは、日本の患者数は推定1280万人(男性300万人、女性980万人)、少子高齢化が進み、これからも増え続けるとされている疾患です。

 圧倒的に閉経後の女性に多い疾患です。エストロゲンは破骨細胞に働き、その働きを弱める作用があります。閉経でエストロゲンが低下すると、破骨細胞の活動が盛んになり、骨吸収が骨形成を上回るようになり、骨は徐々にスカスカになってゆくのです。60歳代の女性の4人に1人、80歳代の2人の1人は骨粗鬆症です。

 骨粗鬆症が進むと、いつの間にか脊椎骨が潰れる、脊椎圧迫骨折が起きやすくなります。また転んだだけで、大腿骨頚部骨折を起こしたりもします。一度骨折した人は、2回目3回目の骨折も起こしやすいです。脊椎骨折を起こすと、上半身が短くなり、亀背と言って背中が丸く曲がってしまいます。これらの骨折を起こした人は、死亡率が高くなることも知られています。

 骨粗鬆症で骨折する人は、男性で5人に1人、女性は3人に1人という割合です。骨折5年以内の死亡比は、通常の約1.4~3.5倍になります1)。1年ごとに約10%の方が亡くなるのです。骨が溶けると、血中のリンが増え、血管を硬くしたり、腎機能を低下させたりします。

 心筋梗塞や脳梗塞リスクも、骨粗鬆症が無い人の3.5倍になります。喫煙の影響は2.7倍ですからそれを凌駕します。骨粗鬆症は実は怖い病気なのです。脊椎圧迫骨折を起こし、背中が曲がると、心肺能力や内臓機能が衰えやすくなり、運動もしにくくなります。

 骨粗鬆症のリスク因子としては、低BMI、喫煙や運動不足が挙げられます。骨粗鬆症の予防のためには、閉経前であれば運動が最重要です。ジャンプなどの荷重運動、重い負荷での筋トレは骨量増加に有効です。カルシウム摂取や、太陽の光を浴びて、ビタミンDを増やすことも有効です。

 閉経後女性や高齢男性では、体重を減らさないこと、必要な栄養の摂取、運動習慣の維持が重要です。積極的な予防のためには、50歳を過ぎたら骨密度を測ってみるのが良いです。骨密度の検査結果は若く健康な人の骨と比較します。その値が70%を下回ると、治療を開始するのが、骨折を起こさない為には安心です。

 薬の種類としては、骨の栄養を補給する薬、破骨細胞の働きを弱める薬、骨芽細胞の働きを強める薬、そして今回紹介する両方の作用を持った薬になります。でも骨折もしていないのに、わざわざ整形外科を受診して、治療を始める人は少ないかも知れませんね。また骨折後の人でも、1年後も骨粗鬆症の治療を行なっている人は、半分以下になることが分かっています。

 喉元過ぎればなんとやらです。しかし一度脆弱性骨折を起こすと二次骨折を起こすリスクは高いのです。治療を続ければ、二次骨折の予防効果はありますが。途中で止めてしまうと、そのリスクは低くはなりません。骨折の連鎖で、死亡率は上昇してゆくことは意識しておきましょう。例えば、片足の大腿骨骨折の死亡率は、2年で9.9%でしたが、両足の骨折では26.7%でした。 

 我が国では大腿骨頚部骨折1年後の骨粗鬆症治療を続けている人は19%と、まだまだ低いのですが、フランスでは、他職種が連携して、二次骨折予防を行う『骨折リエゾンサービス(FLS)』が機能していて、骨粗鬆症の治療開始率は90%を超え、29.6土13.0ヵ月後の治療継続率も67.7%でした2)。

 FLS は、医師、看護師、薬剤師、診療放射線技師、管理栄養士、 理学療法士、作業療法士、医療ソーシャルワーカー、介護福祉士などでチームを作ります。50歳以上のすべての種類の脆弱性骨折患者を対象とし、大腿骨頚部骨折と椎体骨折を優先的にフォローします。FLSの導入で大腿骨頚部骨折の再骨折リスクは18%低下しています3)。

 骨粗鬆症の薬のうち、高い効果が期待されているのが『イベニティ』です。2019年に承認された抗体薬です。正式名称はヒト化抗スクレロスチンモノクローナル抗体製剤と言います。スクレロスチンは、骨に存在する骨芽細胞によって産生されるタンパク質で、このタンパク質が過剰に働くと骨形成が抑制され、骨の再生が減少します。

 スクレロスチンをブロックし、骨形成を促し、骨破壊を抑制する薬が『イベニティ』です。今までの骨粗鬆症の薬は、骨破壊を防ぐ薬が多く、最後の切り札として、骨形成を促す副甲状腺ホルモン製剤を使うのが一般的でした。どちらにも作用する薬でもあり、発売後4年目を迎えて、安全性も確認されてきています。

 骨折の危険性の高い骨粗鬆症に対して、毎月1回、1年間続けて、2本を皮下注射します。腰椎の骨密度は1年後に平均で13.3%の改善が見られています。腰椎骨密度を14%改善すると椎体骨折リスクは79%低下し、大腿骨頚部の骨密度を6%改善すると、頚部骨折のリスクは40%低下する可能性があるとされています。

 1年の『イベニティ』治療を終えたら、6ヶ月に1回注射するデノスマブ(破骨細胞の働きを抑える抗体製剤=プラリア)に移行します。カルシウム及びビタミンD製剤を併用しておくことも重要です。そうすることで、2年目には骨密度は17.6%まで上がっています。

 具体的には、新規の椎体骨折は、プラセボ群では1.8%に起こりましたが、イベニティ群では0.5%(73%減)でした。さらに24ヶ月ではプラセボ群で2.5%の新規椎体骨折が起こりましたが、イベニティ+デノスマブ群では0.6%(75%減)でした(国際多施設共同第Ⅲ相臨床試験)。

 主な副作用は注射部位の疼痛や赤み、腫脹が多く、関節痛や鼻や喉の炎症が起こることがあります。2019年からの使用経験では重篤な副作用は見られていないようです。抗体薬ということで、薬価が高いのは難点です。

 1回の注射で5万円ちょっとですから、保険の負担によって1~3割、5000円~15000円/月の支払いになります。骨粗鬆症の治療は中止すると、一過性に骨吸収が亢進したりして骨折しやすくなったりするため、続けてゆくのが大事なようです。良い薬なのだろうとは思いますが、どんどん高い薬が出てくるのは、ちょっとしたジレンマですね。

 妻のお母さんも大腿骨頚部骨折で手術をしています。高齢になるにつれて増える疾患ですので、対処法を知っておいて欲しいと思います。一番重要なのは、女性なら閉経までにしっかりした食事習慣と、運動習慣を確立する事ですね! 毎朝の20回ジャンプを続けてゆこうと思う蒼野でした。

参考文献:

1)Mortality risk associated with low-trauma osteoporotic fracture and subsequent fracture in men and women. ; JAMA. 2009 ;301(5) : 513-21. 

2)Management of osteoporosis in fracture liaison service associated with long-term adherence to treatment. ; Osteoporosis International2011: 22, 2099–2106

3)Association Between Recurrent Fracture Risk and Implementation of Fracture Liaison Services in Four Swedish Hospitals: A Cohort Study. ; J Bone Miner Res. 2020  35 (7) : 1216-1223

参考ブログ:

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