『香害』という公害

2022/03/20

 今日は化学物質過敏症の中で、今注目されてきている『香害』についてお伝えしたいと思います。稚内北星学院大学前学長で、被害者を支援する任意団体「カナリア・ネットワーク全国」を発足し、ご自身も化学物質過敏症である斎藤吉広さんの記事を読んで、皆様にも知っておいてもらいたいと思ったからです。

 前回の化学物質過敏症で、シックハウスシンドロームについて書かせて頂いたのですが、齊藤さんも20数年前にリフォーム後に、シックハウスシンドロームで呼吸困難になり、以来細心の注意を払っておられたようです。

 しかし7年前に、いつも使っている車内の芳香剤を交換した途端に、息苦しさと目眩が始まりました。それ以降、他人の柔軟剤の臭いで咳込んだり嘔気がするようになり、ついには自分が着ている衣類の、ごく軽度の臭いでも気分が悪くなり始めました。所謂『香害』です。

 家族に、柔軟剤は使わないようお願いしても、最初は「前から使っているのにどうして?」とか、「あの臭いはダメでどうしてこっちの臭いは平気なの?」と分かってもらえなかったそうです。少しずつ洗濯はマグネシウム剤に、合成洗剤やシャンプーは石鹸に、入浴剤は重曹に変えてもらい、何とか暮らせるようになったそうです。

 『香害』、化学物質過敏症の本質は、人体が有害な化学物質に曝露され続けると、あるところを越えた瞬間から、身体を守るための免疫系、脳神経系などが、防御反応を示すようになり、様々な症状が引き起こされると言うことです。そして治ることはありません。

 例えて言うなら、コップの水のようなもので、コップに化学物質が蓄積してゆき、いっぱいになると、溢れて症状が顕在化するようなものです。溢れる前のヒトは、全く症状は出ないけど、溢れた途端、突然発症するのです。化学物質が溢れている現在では、誰もが発症の可能性を抱えています。

 現在、日本国内の『香害』被害者は1000万人、患者レベルの症状の強い人は550万人程度いるといわれています。2000年から2012年までの間でも化学物質過敏症の人は5.9倍に増加しているとする研究もあります。様々な製品に化学物質が使われ、環境に放出されている現在では、増えることはあっても減ることは無いと言われているのです。

 柔軟剤が発症のきっかけになる人が多いようですが、芳香剤や除菌、消臭剤、制汗剤などもトリガーになることがあります。コロナ禍ではさらに使用が増えていると考えられるため、今後ますます問題になる可能性は高いと思われます。恐ろしいことに、免疫が異常に活性化される病態であるため、反応が起こる製品や化学物質が、どんどん増えていってしまうことが多いのです。

 症状としては頭痛、吐き気が多いですが、内耳、気道、循環器、免疫、運動器など、様々な困った症状が発現する可能性があります。症状が重篤になるのに伴い、社会で普通に暮らせなくなるのです。普通の日用品が使えない、使用している人に近づけない、同じ空間にいることができなくなるからです。

 『香害』のために娘さんの退学届を提出したお母さんは、「誰にも恨みはないけれど、柔軟剤さえなければ、退学せずに卒業できたのに!」と訴えておられます。学校、職場、買い物、役所、公共交通機関、ひどい場合には病院にも行けなくなります。そして『香害』の発生源になっている人には、全く悪気はないのです。

 それこそ山奥のぽつんと一軒家で、サポートを受けながら暮らすしかなくなります。被害を訴えても、家族にさえ理解してもらいにくい状況は、理解してあげられる知識を持つことでしか改善できないと思います。蒼野も、今までの患者様の中に、仕事に行ったら頭痛がするという方がおられたのを思い出しました。全く知識が無かった自分が恥ずかしいです。

 『香害』は解決するのには、根が深い問題です。これは一種の公害ですが、過去にあった水俣病や、イタイイタイ病、四日市ぜんそくのように、加害者と被害者が判断しやすいものでは無いからです。直接患者様の症状を引き起こすのは、日用品を使っている我々です。

 もし我々が「臭いがきついから、日用品の使用を止めてほしい!」と言われたらどうでしょうか? 自分の生活を否定されるような発言には、素直に従うことはできず、発症した人が悪いと思ってしまわないでしょうか? 臭いは順応が強いために、使っている方は量が増えやすく、発症した人は、進行と共により過敏になってしまうと言う、相容れない病態はどうにもなりません。

 本当の加害者は、製造企業なのですが、売れ筋になっている、香りが続くとか、洗浄、除菌が長続きするといった機能のために、意図的に加えている有効成分を、有害成分と認めることは、よほどのデータの蓄積がないと難しいようです。製造自体ができなくなることだからです。

 経済産業省は、明らかな有毒化学物質は規制すると言う立場ですが、どんな成分を使っているかは、企業秘密なので開示を義務付ける権限はないと言っています。問題が大きくなるまでは何もしない、ということのようです。

 製造業者は、「規制されていないものは安全だ」と言う論理で、化学物質入りの製品を作り続けます。もし規制が入っても、少し構造の違う代替物質の使用で切り抜けます。有機フッ素加工の焦げ付かないフライパンなどで、有害性が認められたPFOSは、2009年に規制され、代替のPFOAは2019年に規制され、今代替のPFHxSに変わって売られているといった具合です。

 合成洗剤や柔軟剤などに人工的な香りを添加し始めたのは2000年頃からです。それまでは柔軟剤自体も普及しておらず、何の不都合もありませんでした。資本主義社会では、テレビCMの大スポンサーによって、無くてもよかったものが必需品のように、我々の脳に刷り込まれます。

 カネミ油症や、カネボウ化粧品の白斑被害、茶のしずく石鹸のアレルギー、フッ素加工フライパンなど、危険性が立証されるまでは安全だと言う、製造者の論理で発売されているものは多く、我々もあの大手企業が売っているのだから危険なものである訳がないと思い込んでいます。

 『香害』被害者は、なかなか社会に出てこれない人たちです。メディアでは、大企業への忖度もあって、大々的には報じられない情報でもあります。しかし明日、我々や、我々の家族が発症して、被害者になるかもしれないと言うことは意識しておく必要があると思います。また周囲に困っている人がいたら、教えてあげるべきだと蒼野も思います。

 これから年月が経つにつれて、被害者が増えると思われる新しい公害である『香害』のお話でした。とりあえず香りの良い柔軟剤や洗剤はやめよう、と思っている蒼野でした。

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