ごきげんで過ごせば健康長寿!

2022/09/01

 世界の長寿地域の生活の研究から、健康長寿には、食事、運動、睡眠とコミュニティが重要であるということが分かっています。コミュニティの部分に関係はすることになりますが、気持ちの持ちようが、健康長寿に及ぼす影響についての研究が進んでいるようです。今日はポジティブサイコロジーという新しい研究分野について書いてみたいと思います。

 健康長寿の成功者のモデルが「百寿者」です。「百寿者」は「ごきげん」で毎日を過ごしている人がとても多いのです。イメージしても毎日怒っている100歳はいなさそうです。「ごきげんだからこそ健康で、長生きし、幸せになれる」とも言えます。その考えを裏付けるための研究が、ポジティブサイコロジーです。

 臨床心理学や精神医学は心のネガティブな部分を研究して、心の病を治そうという学問です。ポジティブサイコロジーは、心のポジティブな部分が、病気を遠ざけ、健康や幸せに影響して、最終的には健康長寿の源となるので、それを研究しましょう!という学問なのです。

 心の持ち方は、アンチエイジングとも密接に繋がっています。若々しい心とは、心が折れにくく、何事にも前向きに取り組むことができる心です。老化は心から始まるとも言われていて、何ごともポジティブに捉えることができる、逆境をやり過ごす力や環境が大事なのです。

 ポジティブサイコロジーは1990年代からアメリカで始まった研究分野です。身体の健康だけではなく、精神的な健康や、社会的な健康も含めて、心の持ち方が、どのようにヒトの健康や幸せと関係しているのかのエビデンスを検証する学問です。

 2019年の日本の死亡数は 138万1098人ですが、死亡に関連する原因として、もっとも多いのは「高血圧」で約19万人、次に多いのが「喫煙」で約18万人、そして「高血糖」の約10万人となっています。もちろんその他の外傷や感染による死亡も多いのですが、我々が日々の生活で減らすことができるものとしてはこれらが挙げられます。

 しかし寿命に直結する、メンタルと社会的影響が大きな要素として「孤独」が挙げられます。正確な数字として出すことは難しいのですが、誰とも繋がらずに生きている男性の死亡リスクは、太ってタバコを吸っている人と同等とも言われています。女性はおしゃべりする友人がいることがほとんどなので、孤独な男性が危ないのです。

 孤独な状態では、いつもごきげんで過ごすのは難しいです。ポジティブな感情は、充実感や感謝、好奇心や興味、創造性、希望、安らぎ、信頼などで呼び起こされるものであり、日々のストレスの中で、気分を切り替えて、いつもポジティブでいるというのは、意識しておかないとできません。

 しかし、友人や信頼できる人との会話とか、食事や趣味やエンタメを一緒に楽しむ時間とかがあれば、ホッとして気持ちを切り替えることができるのです。嫌なことがあっても、ポジティブな感情で上書きしてしまえば、自律神経は、副交感神経が優位となり、ストレスを受け流すことができます。

 ポジティブサイコロジーでは、ポジティブ感情:ネガティブ感情比が3:1以上であれば、幸せを感じている状態ということができます。ネガティブな感情を1回経験したら、ポジティブな感情を3回見つけることがコツになります。考え方の癖を変える訓練が必要です!

 「幸せ」な気持ちでいる人の方が、「不幸せ」に感じている人に比べ、自律神経のバランスが整い、高血圧になりにくく、甘いものに走る人も少なく、ガンになりにくいのです。「幸せな人が長生きする」ことは、数々のデータで証明されてきています。

 1日の終わりに、「スリー・グッド・シングス」といって、天気が良くて気持ち良かったとか、ご飯が美味しかったとか、人に親切にしたら感謝されたなどの、その日に良かったこと、嬉しかったことを3つ探して、理由と一緒に書き留めることは、世界的に証明された幸せを感じる方法ですので、ぜひ習慣にしてしまいましょう。

 1990年、宮城県内の40歳から64歳までの約4万人を対象にした寿命についての調査があります。長く生きたい、平均くらいで良い、短くても良いの三つから自分の考えを選んでもらいました。25年後の2015年の生存状況を調査したところ、寿命が短くても良いと答えた人の寿命は、実際に短いことが判明しました1)。

 死亡率は、長く生きたいといった人の1.12倍、がんでの死亡は1.14倍、自殺での死亡では2.15倍だったのです。働き盛り世代での調査は世界初で、とても興味深い結果です。「人生太く短く」で良いと考える人は、喫煙や飲酒、偏食などで、摂生することなく生きてゆきたいという人が多い結果であるとも考えることができます。

 この調査結果を分析すると、希望寿命と死亡リスクの関連のうち、30.4%が生活習慣で説明できます。しかし残りの7割弱に関しては、はっきりしたリスクが示されないのです。そこに心の健康が関与したのではないかと、ポジティブサイコロジーでは考えているのです。

 今現在自分が健康だと思っている人(我々もそうですよね)の中に、日頃の健康管理に注意する人としない人がいます。将来生活習慣病にならないように努力できる人というのは、将来に夢や目標があるような人たちです。しない人は今が楽しければ良いという人が多いのです。

 1994年に宮城県内で40~79歳の5万4996人に対して行った別の研究では、生きがいがあると答えた人と、ないと答えた人を9年間追跡したところ、生きがいがある人が顕著に長生きしていたのです。ごきげんで過ごすためには、家があって食べて行けるだけではダメなのです。

 マーズローの欲求5段階説でも、社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求が生きがいにつながるものだと思います。これは独りでは達成できません。男は定年退職後、他人との接点がなくなってしまう人が多いのです。会社以外の人間関係も作っておく必要があります(過去ブログ参照)。

 そのためには趣味やボランティア、地域などのコミュニティが重要になってきます。ネットやSNSならハードルも低いです。社会貢献ができて、生きがいが感じられる活動をしてゆくことで、健康長寿が手に入りやすくなるのです。健康長寿のためにコミュニティが重要というのは、こういう理由があるのです。

 世界には三大幸福論と呼ばれる幸福についての本があるのですが、アランの幸福論の中に、「悲観主義は気分だが、楽観主義は意志である」という言葉があります。「ごきげんで過ごす」ためには、孤独な環境を抜け出し、毎日良いことに注目する意思を持って、やりがいのあることにトライすることが目標になりそうです。

 そうすることが、「幸せを感じながら、健康長寿が全う出来る」という、ポジティブサイコロジーが示す一つの答えなのだと思います。毎日どんなときでもごきげんになる道を選びたいなあと思う蒼野でした。

参考文献: 

1) どのくらい生きたいですか?望ましい寿命と死亡率の間の関連の25年の前向き観察 
Journal of epidemiology. 2022 May 07; doi: 10.2188/jea.JE20210493.

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