アスリート菌!?

2022/03/18

 皆様はアスリートにはアスリートの腸内細菌が住んでいるのを知っておられますか? 腸内細菌叢は『一つの臓器』とも言われ、ヒトの生活習慣とも密接なつながりがあり、全身の健康や機能にも大きく関わる存在です。蒼野は腸内細菌を変えれば、病気が治ったり、身体機能や免疫力がアップするという事を信じているため、この分野にもとても興味があります。

 「運動が腸内細菌も鍛えて、アスリート菌が増え、アスリート菌によって運動機能が向上する」という記事を見たので、今日はそれを紹介したいと思います。日々の運動によっても腸内細菌は変わってゆくというのは面白いですよね。

 マラソンランナーの腸内には、スタミナをサポートして、持久力を高めてくれる、マラソンアスリート菌が生きているそうです。ハーバード大学の研究で、ボストンマラソンに参加する15人のランナーの腸内細菌を、大会前の2週間、便を採取して毎日調べました。

 するとベイロネア属という種類の細菌群の割合が徐々に増加していました。この菌を培養してマウスの腸に移植してみると、移植していないマウスと比べて、平均13%も長く走り続けることができました。ベイロネア属は持久力を高める細菌だったのです。

 筋肉がグリコーゲンを燃料としてエネルギー代謝を行うと、溜まってゆくのが乳酸です。乳酸は血液中にも流出し、腸内にも届きます。実はベイロネア属は、ほぼ乳酸だけをエサにして、酢酸とプロピオン酸という短鎖脂肪酸をつくり出す菌なのです。

 3月10日のブログにも書いたように、短鎖脂肪酸は筋肉のエネルギーにもなる物質です。マラソンで出来てしまう、通常は肝臓で代謝される乳酸を、ベイロネア属が腸内で大量にプロピオン酸(短鎖脂肪酸の1種)に変えて、新たなエネルギーにしてくれることで、持久力が伸びると考えられています。

 プロピオン酸自体を、マウスの腸内に投与すると、やはりマウスの持久力がアップすることも確認されました。プロピオン酸の持つ抗炎症作用も、筋肉疲労の抑制に関与している可能性も指摘されています。

 またラグビーのトップ選手には、ラグビーアスリート菌が住んでいる事も発見されています。アイルランドの研究によると、ラグビーのトップ選手の腸内で多くみつかったのは、アッカーマンシア属の細菌群です。

 この細菌群は、もう一つの短鎖脂肪酸である、酪酸の産生菌です。腸管の粘膜保護、免疫機能の向上、インスリンの分泌促進など、様々な働きがあり、体の炎症を鎮める抗炎症効果を有します。激しくぶつかり合うラグビー選手にとって、傷んだ体を素早く回復させてくれる修復細菌といえるものです。

 普通の健康男性と、ラグビー選手の腸内細菌を比べると、ラグビー選手の腸内細菌は、多様性に富み、様々な短鎖脂肪酸を作る細菌が多く、体内の炎症レベルも低いことがわかりました。「健全な精神は健全な肉体に宿る」というのは、「健全な腸内細菌が、健全な肉体に宿る、そして腸脳相関のメカニズムで、健全な精神が生まれる」ということだったんだと、蒼野は納得しました。

 運動と腸内細菌との関係は、アスリートだけではありません。適度な運動を続けることで、普通のひとの腸内でも、細菌の構成が変わることが近年の研究で確かめられてきています。

 米イリノイ大学の研究では、長時間座る仕事、座る生活だった20~45歳の成人32人(女性20人、男性12人)に持久力を鍛える運動を6週間続けてもらい、運動を始める前後での腸内細菌の変化などを調べてみました。

 すると便に含まれる、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの短鎖脂肪酸濃度が増えていました。増える割合は、BMI25未満で多く、BMI30以上では少ない傾向にありました。酪酸産生に関してはBMIは関係がありませんでした。そして、また長時間座位の生活に戻ると減少したのです。

 腸活は食べる物だけではなく、毎日の運動も重要なのですね。運動していると、パフォーマンスを上げてくれる腸内細菌が増えるって、出来すぎた話のようにも思えます。ヒトと腸内細菌って見事な共生関係になっていて、蒼野は腸内細菌が愛おしくなりました。

 さて、ラグビー選手に多い、アッカーマンシア属の細菌群ですが、日本ではあまり見かけない腸内細菌だそうです。しかし奄美群島で暮らす高齢者の腸内に多くいることが、長寿研究をしている岡山大学の森田英利教授らの研究でわかりました。

 「長寿の島々」として名高い奄美群島は、日本の歴代最高齢者に泉重千代さんや本郷かまとさん、田島ナビさんらが名を連ね、センテナリアン(百寿者)の割合はいま、人口比で全国平均の2.6倍です。健康効果の絶大な、酪酸を多く作るアッカーマンシア属は、アスリート菌であるだけでなく、長寿菌でもあったのです。

 ヨーロッパ人に多いアッカーマンシア属が、日本では奄美群島だけに多いのは、不思議な気がしますが、島々で暮らすお年寄りの生活習慣は、沖縄とも鹿児島とも違った独自のものなのです。何かあればシマ唄を歌って、シマ踊りを踊り、黒糖焼酎を飲んで、島や海の産物を生かした多彩な発酵食を食べる習慣です。

 95歳から108歳まで、平均年齢98.3歳の計44人の便から腸内細菌叢を分析し、日本全体の長寿者と比べる研究が行われました。島の百寿者の腸内細菌叢には、3つの菌群が、平均よりも多く見られました。3つの菌群の1つ目は、加齢によって失われるビフィズス菌。これが高齢になっても多く残っており、日本全体の2~4倍もありました。

 3つの菌群の2つ目のアッカーマンシア属は、糖尿病やメタボリック症候群の人の腸内では、非常に少ないと言われています。そもそも酪酸が沢山出ていれば、糖尿病やメタボにはなりにくいのでしょう。島でみんながラグビーをしている訳ではないでしょうが、筋肉や内臓がダメージをうけても、すばやく回復でき、抗炎症作用があるアッカーマンシア属が沢山いることは、健康長寿とは無関係ではないと思います。

 3つの菌群の3つ目はメタノブレビバクター属です。肥満抑制の作用があるとされ、欧米人ではよく見かける細菌ですが、日本人の腸内ではほとんど見かけることはありません。奄美特有の食文化のなかに、この古細菌が好物とする食材があったのでしょうね!

 3つの菌は、いずれも短鎖脂肪酸を作る善玉菌であり、体の炎症や肥満を抑える作用をあわせもっているのです。本当に腸内細菌とヒトとの共生って面白いと思います。同じ身体でも、腸内に住んでいる腸内細菌が変化すれば、身体の機能、パフォーマンスが変化するということですよね。

 腸内細菌の研究は今、最もホットな分野だと思います。腸内細菌をコントロールすることで、病気や怪我が治ったり、速く走れたり、健康長寿が達成できたりする未来がすぐそこまで来ているように思います。運動!、食事!、睡眠!、腸内細菌が喜ぶ生活習慣を出来るだけ取り入れていきましょう。

 「蒼野の複視も、腸内細菌で治らないかなあ」と妄想する今日この頃でした。

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