イヌイットの秘密!

2022/05/19

 今日はイヌイットの偏食について書きたいと思います。先日はマサイ族の偏食について書きましたが、偏食でも現代人よりも健康な面があると言う事実は、我々の食生活を考える上でも、とても参考になります。

 イヌイットは4000年前くらいから地球上で最も寒い、ツンドラ地帯に住んでいる民族です。エスキモーとも呼ばれ、シベリアやアメリカのアラスカ州、カナダ北部からデンマーク領のグリーンランドなどに住んでいるモンゴロイド系の人種です。それそれの地域で呼び名は違い、カナダとグリーンランドに住んでいる人たちがイヌイットと呼ばれています。

 1950年代位までは、昔ながらの狩猟生活を営んでいました。冬は主に氷の穴から息継ぎに出てくるアザラシを銛でつき、セイウチやカリブーも食べます。夏になると、カヤックに乗ってアザラシ、シロイルカ、セイウチ、ホッキョクイワナなどを狩ります。鳥や鳥の卵、わずかに採れるブルーベリーも食べます。基本は肉ばかりで、糖質無しの偏った食生活です。ほとんどの素材を生のまま食べるのは、酵素の面からも理想的です。

 マサイ族と同じで、野菜や果物はほとんど食べないため、ビタミンCが心配です。ケベック遺伝子医学ネットワークの調査などに基づいた論文によれば、イヌイットのビタミンC摂取量は26mg/日、0.17mg/dLです。カナダ人は70mg/日、0.78mg/dLですからかなり少量です。

 しかしイヌイットには死に至るような重症の壊血病は見られません。歯肉出血が結構見られるのは、血清ビタミンC濃度が同レベルのマサイ族とは違う部分です。これは寒冷によるストレスが、マサイ族よりも多いことが関係している様です。しかし糖質はほとんど摂らないために、酸化ストレスが少ないことが、イヌイットのビタミンCの低さを補っていると考えられます。

 極寒の地で決まったものしか食べられないイヌイットは、ビタミンの補給のために、変わった発酵食品も作ります。キビアックと言って、アザラシの中身を食べて残った、皮下脂肪と皮の中に何百羽という、アパアリスという鳥をつっこんで縫い合わせ、2ヶ月から数年も土の中に埋めて発酵させて食べる料理があります。すざまじい匂いだそうですが、栄養価は抜群です。

 1950年から74年まで、グリーンランドのイヌイットの集落において、デンマークのクロマン博士らによってグリーンランドのイヌイットとデンマーク人を比較した疾患の研究が行われました。イヌイットには、心筋梗塞、糖尿病、気管支喘息、多発性硬化症や尋常性乾癬が、著明に少ない事が指摘されました。

 イヌイットの食事における脂肪摂取率は35~40%、デンマーク人も同じ程度です。しかしイヌイットの心筋梗塞は対象者約1800人中わずか3人、補正して比較したデンマーク人では40人でした。デンマーク在住のイヌイットは、心筋梗塞が多いため、人種による影響ではありません。同じくらい脂は摂取していることから、脂の質が違う事が、この差になっていると推測されました。

 つまりイヌイットは海洋生物から、EPAやDHAなどのオメガ3脂肪酸を、多量に摂取していることで、心筋梗塞が激減していたと言うことが分かったのです。このことを元に、動脈硬化抑制作用がある高脂血症薬である、エパデールや、ロトリガが作られることになりました。蒼野はコレステロールが高めなので、ロトリガを飲んでいます。

 もう一つ大きな要素は、マサイ族にも共通していた、スーパー糖質制限です。穀物を多く食べると、どうしても食後血糖スパイクは避けられません。これは大きな酸化ストレスの原因です。血管の老化、動脈硬化の原因でもあります。

 伝統的なイヌイット食(1885年)のPFCバランスは、たんぱく質:47.1%、炭水化物:7.4%、脂質:45.5%でした。しかし1940年くらいから、交易が盛んになり、店舗が出来、毛皮と交換に文明食が買える様になると、1976年にはたんぱく質:23%、炭水化物:38%、脂質:39%になっています。それでも日本人よりは炭水化物は少なめですね! タバコやアルコールも入ってきました。

 伝統的食生活の時には、イヌイットのがんはあまり見られませんでした。しかし食生活の変化と共に、生活習慣に関係のあるがんである、肺がん、大腸がん、乳がんなどの発生率は倍増しています。もちろん発がん性物質である、タバコやアルコール摂取が増えたこともあると思いますが、がん細胞のエネルギー源は糖質だけであることを考えると、炭水化物量が増えたことが、がんの発生に大きく関与しているものと考えます。

 3/22のブログにも書いたように( https://blue-zone-life.com/癌とケトジェニックダイエット/ )治療的にも、糖質制限で、脂肪を沢山摂る、ケトジェニックダイエットは、末期癌をも治してしまう可能性があります。昔ながらの伝統食だけの時代に、イヌイットにがんが少ないのは当然なのかもしれませんね!

 しかし現在のイヌイットの食生活は、かつての伝統食とはかけ離れてしまいました。カナダ政府の定住化政策もあり、この地域のイヌイットの社会は激変すると共に、食事は先進国と同様、糖質を大量に含む、ハンバーガー、ピザ、ポテトチップス、コーラ、ガム、チョコレートなどに置き換わってしまいました。

 かつては、極めて少なかった心筋梗塞や糖尿病が、米国やカナダの他民族を上回るほど増えています。がんも増えており、肥満も増えてきました。恐ろしいことだと思います。人間は様々な環境に適応する能力が高く、極寒の地で、農業ができなくてもそこに住むことができます。これはすごい能力だと思います。

 しかし社会や流通が変わっただけで、簡単に手に入る、美味しく感じるものを食べていると、それに適応してしまい、身体が壊れてしまうのです。我々もこのことを意識しておく必要があると思います。飽食の時代に、自分の身体を守ってゆくためには、何を食べて行くのかが大きな問題です。

 何度も繰り返しになりますが、蒼野はロカボ、ケトジェニックダイエットが、一生続けられて正しい食事の基本になるものだと考えています。イヌイットの食事と疾患の推移を見ると、また一つそれが裏付けられる結果のように思えてなりません。

 生のアザラシって美味しいのかなあ? 臭いキビアックは食べたくないなあ! などと極寒の地に想いを馳せる蒼野でした。

参考書籍: 岸上伸啓「イヌイット−『極北の狩猟民』のいま」(中央公論新社、2005年)

参考文献: Cancer patterns in Inuit populations.  Lancet Oncol. 2008 Sep;9(9):892-900.

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