かつてドーパミンは、人類が生き延びるための、効果的なご褒美でした。ドーパミンが出ることをすれば、健康で長生きできたのです。それが現代の生活では、健康を壊すことに直結するようなドーパミンを出す方法が、色々と出てきてしまいました。

　ドーパミンが出ると、我々は気持ちが良く、楽しくなり、もっともっとドーパミンが出ることをしたくなります。ドーパミンの出し方を選択することが、健康でいられるかどうかの鍵になっていると蒼野は考えます。その選択のためには、一流の頭脳を手に入れる必要があります。

『人間には、歩くことが何よりの妙薬となる！』　これは遥か2500年前、医学の父、ヒポクラテスが言った言葉です。ヒポクラテスは、身体を動かすことが、肉体的にも、精神的にも健康に欠かせないことを知っていたのです。最近の研究で改めて証明されてきていることを、看破していたその洞察力には舌を巻きます。

　生物学的に言えば、移動する生物にだけ脳があります。植物は移動しないため、脳がありません。最初の脳の主な機能は、原始的な生物の運動を制御することでした。逆に言うと、運動しなければ、そのために作られている脳も、機能できずに衰えてゆくことを意味しています。

　人類の脳は、身体の大きさに比べて大きく、1.3～1.4リットルで、体重60kgの哺乳動物の脳は平均で0.2リットルです。様々な動物で比べると、高い持久力を有する動物ほど、脳が大きいのです。持久力があるラットや犬は、体重に比べて脳が大きいのです。

　これは運動によって作られるBDNF（脳由来神経栄養因子）が脳を成長させるためです。また我々の祖先の中で、最もよく活動したものが、食糧を豊富に調達でき、安全な所で暮らすことができたため、その遺伝子を残してきました。進化の過程で、色んなところへ移動した、活動的な人類の末裔が我々なのです。

　身体を活発に動かすと、脳の報酬系からドーパミンが分泌されます。脳は、身体を動かすことで、沢山狩りをしたり、安全な場所を見つけて、危険を避けることができ、生存の可能性を広げた、と認識し、ご褒美を出すのです。　

　東アフリカ・タンザニアの狩猟採集民族であるハッザ族は、農業革命以前の人類の生活と同じような生活を送っているものと考えられます。彼らは1日に8～10km、歩数にして11000歩～14000歩、歩いています。

　農業革命後の人類モデルは、近代化文明を拒む生活を送っている。アメリカのアーミッシュですが、1日１万歩は歩いているようです。

　しかし現代のデジタル社会では、我々の平均的な歩数は6000歩から7000歩で半減しています。運動が必要だと意識していない人は、もっと歩いていないでしょう。1日中座っていると、狩りの獲物は見つかることもなく、新しい住み処も見つかりません。脳は集中力を研ぎ澄ます必要も、記憶力を高める必要もないと判断してしまい、脳の働きは衰えてゆきます。

　現代社会では、狩りをしなくても、スマホで注文すれば、食べ物を自宅まで届けてもらえます。飢餓の歴史を生き抜いてきた我々の遺伝子は、美味しい高カロリー食品が目の前にあれば、絶対に逃さず、すぐに食べ尽くすようにできています。食べ尽くせば生存の可能性が増えて、脳の報酬系からご褒美のドーパミンがもらえるのです。

　また無駄なエネルギーを使うことは、食糧難の時代を生き抜く時には致命傷になりますから、必要がなければ、なるべく身体を動かさないという事も、本能に刷り込まれています。我々はすることがなければ、カウチに座って、ポテトチップスを食べながらテレビを見るようにできているのです。我々はどんどん運動する必要がなくなり、脳も衰えてゆきます。

　それに加えて、資本主義が生み出した、食べるのがやめられなくなる、超加工食品に囲まれていれば、体重のセットポイントが働かなくなり、これほどまでに肥満が増え、内臓脂肪が増え、メタボリックシンドロームが増えてくるのは、自然な流れなのでしょう。自然に任せてドーパミンを出していれば、脳も健康寿命も守ることができないのです。

　このことに気づいている人は、徐々に増えている気がします。人生100年時代を迎えて、健康志向は高まり、健康ブームはますます盛り上がっていくと思います。認知症リスクが増えて、巨額の利益を産む脳トレアプリが開発されたり、奇跡のサプリメントが売り出されてたりしていますが、効果の程については疑問があります。こららには科学的な裏付けがほとんど無いからです。

　現時点で、科学的に脳の働きを強化できるものは、費用もかからない運動だけです。一流の頭脳をキープするために、身体を動かしましょう。たった数分でもそれなりの効果があります。歩くことから始めましょう。脳のための最高のコンディションをキープする運動は、週３回、45分以上のランニングなど、心拍数を上げる運動です。

　超加工食品や、スマホ、お酒やギャンブルで出てくるドーパミンが、一流の頭脳でコントロールできるようになれば、健康長寿への道が開けます。まず根気よく、決して諦めずに、運動を習慣にしましょう。運動でドーパミンを出して、そのご褒美を堪能しましょう。自分の趣味や興味の中に運動が組み込めれば最高ですね。

　理論的にはわかっていても、誘惑の多い現代では、簡単にドーパミンが得られる不健康な方法は沢山あります。今後の自分の健康や人生をしっかり見据えて、コントロールしてゆきましょう。まずは身体を動かすことが最初の一歩です。運動で爽やかなドーパミンを出しまくりましょう！！

参考書籍：　BRAIN 一流の頭脳　アンダース・ハンセン