パラソムニア

2022/01/21

  昨日は、睡眠時無呼吸症候群の話でしたので、今日は睡眠時の行動異常の話を書いてみたいと思います。皆さんも朝起きた時に、昨夜寝言を言っていたよ、と言われた経験がある方は、多いのではないでしょうか?日本人の約66%の人が、1度は睡眠中の発語や発声を経験しているそうです。

 睡眠には、夢をみるとされる眠りの浅いレム睡眠と、深い眠りのノンレム睡眠があります。それぞれの睡眠時に行動異常を生じることがあり、レム睡眠時パラソムニア(睡眠時随伴症)と、ノンレム睡眠パラソムニアに分類されます。

 レム睡眠の時には、大脳皮質の運動野の神経自体は、活発に活動していますが、脊髄レベルで筋肉への神経伝達を抑制する機能が働いているため、筋肉が弛緩して無動の状態になっています。その抑制機能に異常が生じ、夢に対応して身体が動いてしまうのが、レム睡眠行動異常症(=レム睡眠時パラソムニア)といわれています。

 中高年以降の男性に多く認められ、睡眠時間の中盤から後半、明け方の3~5時頃に起こりやすく、悪夢を見ながら突然起き上がって走りだしたり、隣に寝ている家族を殴ったり蹴ったりすることもあります。起こすとはっきりと目覚め、夢も覚えていて、自分が置かれている状態も理解可能です。

 原因は、レム睡眠中の筋肉活動を調整する中枢神経の老化や、機能不全と考えられています。心身のストレスや、過度のアルコールが引き金になって発症するのではないかとも言われています。レム睡眠行動障害は、レビー小体型認知症の診断基準にも入っており、認知機能低下の数年前に先行して現れる事もあるので、経過観察が必要です。今後の高齢化社会では、ますます頻度が高まると考えられます。

 治療は、まず第一に、ストレスや疲労、生活リズムの乱れ、アルコール、過度のカフェインなどの悪化の原因になりやすい生活習慣を改善することです。寝室に尖ったものや、怪我をしやすいものを置かないようにしましょう。薬物治療は、クロナゼパム(リボトリール・ランドセン)という抗てんかん・抗不安薬を使ったり、漢方で抑肝散や四逆散を試してみたりします。

 一方、ノンレム睡眠時のパラソムニアは学童期の子供に多く、睡眠後1~3時間くらいで、突然叫び声を上げたり、ウロウロと歩き回ったりするものです。起こしてもはっきりと目覚めず、暴れる事もあるので、見守っておくのが良いとされています。翌朝覚えていない行動異常です。

 子供に多く、通常は成長にともない、ほとんどが自然消失するので心配はいらないと言われています。深い眠りから起き上がってウロウロと歩き回ったりする「夢中遊行症(夢遊病)」や突然叫び声を上げておびえたりする「夜驚症」があります。

 就寝前に運動をしたり、興奮すると起こりやすくなります。怪我をしないように、歩行の邪魔になるものを片付けたり、危ないのでドアや窓をロックしておくことも重要です。睡眠・覚醒に関する、脳の神経系の発達や成熟が、不完全であることが原因ではないかと考えられています。そのほか、遺伝素因、また自我発達の未熟性、日中のストレスなども関係していると言われています。

 ノンレムパラソムニアは、成人では「睡眠関連摂食障害」が知られています。入眠1時間くらい経ったノンレム睡眠時に歩き出し、無意識に冷蔵庫を開けて、食べ物を探して食べたり、料理を作って食べたりする異常行動です。食べて満足するとそのまま寝床へ戻って、また寝てしまいますが、翌朝覚えていません。

 この病気は20~30代女性に多い傾向があります。毎晩高カロリー食を摂取するため、肥満している人が多いといわれています。また、眠ったままで調理したりするため、けがややけどをすることもあり、火事を起こす危険性もあります。摂食障害やダイエット中の人で、しばしば見られることから、食に関する認知の歪みや、潜在的な食欲亢進が関係しているのではないかともいわれています。

 抗不安薬や睡眠薬の服用中で、ストレスを抱えていることが多く、虐待の過去があることが多いとされています。アルコールや薬剤の依存、睡眠障害などの合併があり、抗うつ薬や睡眠薬、抗精神病薬を内服されていることが多いのです。治療はまだ手探りで、確定していませんが、レム睡眠行動異常の治療に準じて、睡眠の改善や、投薬治療が行われます。

 実は蒼野も、高校生の時に、実家の2階で寝ていて、急に起き上がり、窓を開けようとしたと親に指摘されたことがあります。また大学生の時には、夏に窓際のベッドに寝ていて、急にエビのように跳ねて、窓の網戸を突き破り、ベランダの花壇に転がり落ちて、土まみれになった事もあります。

 おかげさまで、大人になってからは、指摘されたことも、ベッドから落ちた事もありません。まれに寝言を言うくらいでしょうか? 窓を開けようとした時は、落ちたらいけないと思い、親が起こしたそうですが、自分では覚えていません。高校生でしたが、子供の夢遊病のノンレムタイプだったようです。

 花壇に転げ落ちた時は、すぐに目覚めたので、夢に伴うレム睡眠行動異常だったと思います。ベランダがあって本当によかったです。夢遊病を伴うパラソムニアがある人は、怪我には十分気をつける必要があると、自分の経験からも強く思います。

 寝言もパラソムニアの一種と言われています。寝言の原因は様々で、室温が高くて寝苦しいとかの外的な要因の影響である場合や、睡眠中に見ている夢に反応して何かを喋る場合。強いストレスや不安感によって、寝言が増える場合。眠りが浅く、脳が活動することで言葉を発する場合などがあると考えられています。

 子供の場合は、起床中に起きた出来事を頭の中で整理している際に寝言を発します。身体の成長に伴って発しているものなので、ほとんどの場合、寝言も自然に治ります。大人であっても、眠りが浅くなるタイミング(朝方やレム睡眠時など)は、脳が活動しています。この状態では、誰でも寝言を発しやすくなるため、たとえ寝言を言ってもそこまで心配をする必要はありません。

 いびきと同様に、大きな寝言は、周囲の人の睡眠環境に悪影響を及ぼすことも多く、本人や家族のためにも、寝言の対策を心掛けた方が良いと思います。

 まずは睡眠環境を整えましょう。部屋の温度は19℃くらいが適温とされています。自分に合った枕や、寝やすい寝具を使いましょう。波の音や虫の声などの環境音はやってみると、とてもリラックスして寝やすくなります。蒼野は毎晩携帯のアプリで聞いています。

 朝日を浴びて、体内時計をリセットすることや、日中の運動、もちろん食生活や栄養バランスの改善などは重要です。就寝90分前に15分以上は湯船に浸かること、15時以降はカフェインを摂らないことなども、生活習慣に取り入れましょう。

 ストレス、うつ病、睡眠不足、アルコール摂取などは、寝言を引き起こす原因になります。遺伝性の原因がある事もあります。対策を講じても、良質の睡眠が得られず、大声を出したり、怒鳴ったりする寝言や、悪夢でうなされることが続いたり、睡眠中に暴れたり、夢遊病を伴ったりする場合には、パラソムニアを扱う専門の医療機関を、一度受診してみることをお勧めします。

 パラソムニアの既往を有する蒼野でした。危ない、危ない……..。

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